カセットデッキ 『 Lo-D D-800 』 の修理 -Part3 | アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々
 “カセットデッキ 『Lo-D D-800』 の修理-Part2” の続きです。

“Part1”“Part2” に書いたように全てのゴムベルトを交換した結果、
テープは正常に走行し、テープカウンターもスムーズに作動するように
なったけど、再生時のRチャンネルの音が非常に小さくて、しかも歪んで
いるという問題が発覚しました。

その後の調査で、テープの再生時だけでなく、『モニタースイッチ』を
“SOURCE”に切り換えて『LINE IN』の信号をそのまま『LINE OUT』に
出力するモードでも、Rチャンネルに同様の不良現象が出る事が判りました。
この事から、故障箇所はRチャンネルの『モニタースイッチ』より後段の
部位にあると推定されます。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b01
この図は、現在修復作業を中断している『Lo-D D-3500』のブロック図等を
参考にして作成した D-800の推定概略ブロック図(片チャンネル分)です。
このブロック図中の『モニタースイッチ』から『ヘッドホーン増幅器』と
『LINE OUT』端子の間(赤線楕円内)に何らかの故障があると思われます。

先ず『出力調整』の可変抵抗器の接触不良などが疑われます。
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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b02
パネル右端下部の“OUTPUT”と記されているのが『出力調整』ツマミです。
二重構造になっていて、外側(パネルに近い方)がRチャンネル、そして
内側(パネルから遠い方)がLチャンネルの『出力調整』ツマミです。
ツマミの回転に応じて、パネル裏側の基板上の可変抵抗器が作動します。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b03
パネルの裏に水平に実装されている回路基板(メインボード)を上から撮影。
“RV2”と印字されている位置の裏側(下面)に可変抵抗器が2個実装されて
います。
“RV2”いう文字を挟んで上下に3個ずつ2列並んでいるのが可変抵抗器の
端子で、上の列がL側、下の列がR側です。

『レベル調整』ツマミを回転しながら可変抵抗器の各端子間の抵抗値を
測定した結果、ツマミの回転に応じて抵抗値はスムーズに変化して、
L側とR側で差は見られませんでした。 可変抵抗器は正常のようです。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b04
可変抵抗器の端子から『モニタースイッチ』へ繋がる信号パターンを
追って行ったら、その中間に多数の抵抗器とコンデンサーが実装されて
いる所がありました。
裏側(下面)に抵抗器やコンデンサーが実装されていて、その足(リード線)
がこちら側に出ていてプリント配線のパッドにハンダ付けされています。

各部品の実装位置には部品番号が印刷されています。
部品番号の先頭の“R”は抵抗器、“C”はコンデンサを表し、
それに続く二桁の数字は通し番号、最後の“L”または“R”はその部品が
Lチャンネルの部品かRチャンネルの部品かを表しているようです。
回路図が有れば各部品の回路上の位置を知る上で有用なのですが、
回路図が無いのでチャンネルを識別する程度の意味しか有りません。

よく見るとハンダの量が少ないパッドが幾つかあります!

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b05
現状の不良現象との関連は不明だけど、ハンダ不足による接触不良が回路
の動作不良を引き起こす原因になり得ると考え、とりあえず特にハンダが
少ないC33R、C33L、C34R、C34L、R34R、R34L、そしてR33Lのパッドに
“追いハンダ”を施しました。
しかし、不良現象は改善しませんでした。

原因追求の手掛かりを得るためにデッキの出力信号を観測する事にしました。
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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b06
デッキの『モニタースイッチ』を“SOURCE”側にして、R/L両チャンネル
の『LINE IN』に低周波発振器から1kHzの正弦波信号を入力し、『LINE OUT』
の信号をオシロスコープで観測しました。

ちなみに、この低周波発振器もオシロスコープも、以前ネットオークション
で落札した中古品で“やや難あり品”だけど、それなりに使えてます。
『オークション三昧、そして中古品三昧の日々』?

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b07
両チャンネルの『録音レベル調整ツマミ』を“6”、『出力調整ツマミ』を
“10”(最大)に設定して、ヘッドホーンで不良現象を確認しました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b08
オシロスコープの画面です。
上側は『LINE OUT』のLチャンネル、下側はRチャンネルの信号です。
上側は200mV/div、下側は100mv/divで表示されています。

Lチャンネルがピーク電圧約200mVの綺麗な正弦波であるのに対して、
Rチャンネルは約70mVしかなく、波形の山と谷が非対称に歪んでいます。

おそらく、Rチャンネルのどこかの部品が故障しているか、
あるいは接触不良を起こしているものと思われます。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b09
先の箇所にハンダ量の少ないパッドがまだ残っていたので、追加でR29R、
R29L、R30R、R30L、RV3R、RV3Lのパッドに対しても“追いハンダ”を
施してみたけど、効果はありませんでした。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b10
改めてメインボード全体を見渡してみたら、ハンダ量の少ない部品パッドが
他にも多数見つかりました。
“A”は既に“追いハンダ“した箇所。
“B”と“C”は、新たにハンダ量の少ないパッドが見つかった箇所です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b11
“B”の箇所の拡大写真です。
回路図がないのでよく判りませんが、『モニタースイッチ』と『録音ドルビー』
/『再生ドルビー』間を結ぶ信号がこの回路を経由しているようです。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b12
“B”の箇所のハンダ量の少ないパッドに“追いハンダ”しました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b13
“C”の箇所の拡大写真です。
『出力調整』可変抵抗器の出力(可動接点の端子)と『LINE OUT』間を結ぶ
信号がここの回路を経由しているようです。
この辺は基板の表面がずいぶん汚れています。 

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b14
“C”の箇所のハンダ量の少ないパッドに“追いハンダ”しました。

更にメインボード全体をチェックして、ハンダ量の少ない部品パッドの全て
に対して“追いハンダ”を施しました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b15
“追いハンダ”の効果を確認するため、発振器とオシロスコープを接続して
電源を入れて、『モニタースイッチ』を“SOURCE”にして『録音レベル調整
ツマミ』と『出力レベル調整ツマミ』を“5”(中間点)に合わせました。

ヘッドホーンのRチャンネルからLチャンネルと同じ大きさの音が出ました!
音の歪みもありません!
“追いハンダ”の効果があったようです。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b16
オシロスコープの画面です。
上がLチャンネル、下がRチャンネルの『LINE OUT』信号の波形です。
いずれもピーク電圧約60mVの綺麗な正弦波が表示されました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b17
次に実際にテープを再生して、試聴します。
このテープは、約35年前にレコードプレーヤー『DENON DP-1700』とカセット
デッキ『Lo-D D-3500』を使用して、あべ静江のファーストアルバム『みずいろ
の手紙/コーヒーショップで』をラジカセで聴くためにダビングした物です。

D-3500が最良のコンディションだった時期に、ラジカセ用という事でドルビー
をOFFにして録音されているので“テストテープ”として好都合です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b18
“テストテープ”をセットして『モニタースイッチ』を“TAPE”側にして、
『PLAY』レバーを押して再生を開始しました。

ヘッドホーンから、あべ静江さんの透き通った歌声が聞こえてきました。
Rチャンネル側も正常に音が出て、バックの楽器音も低音域から高音域まで
綺麗に再生されました。
30年以上前に製造されたデッキと約35年前に録音されたカセットテープの
組み合わせとは思えないような清々しい音で再生されました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b19
1曲目『コーヒーショップで』を再生中の波形です(0.05秒間)。
あべ静江さんの歌声と複数の楽器音の合成波なので、やや複雑な波形です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b20
最後に洗浄剤『サンハヤト Hi-SHOWER』で基板を洗浄しました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b21
洗浄後の“A”の箇所です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b22
同じく“B”の箇所です。 照明の反射がちょっと眩しい!

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b23
そして“C”の箇所です。
実物では気がつかなかったけど、いま写真で見るとハンダ量の少ない箇所が
まだ少し残っているようです。製造時の基板の汚れも残っています。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b24
これで一応“修理完了”とします。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b25
カバーを取り付けました。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b26
ウッドケースに格納して、完成です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b27
念のため、この状態で発振器とオシロスコープを接続して最終確認です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b28
『モニタースイッチ』を“SOURCE”に入れて、『録音レベル調整ツマミ』
を“5”に、『出力レベル調整ツマミ』を“10”(最大)に合わせました。
ヘッドホーンの音はL側、R側共に正常です。

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アナログ三昧、そして時々ディジタルな日々-b29
オシロスコープの画面です。
上が『LINE OUT』のL側、下が『LINE OUT』のR側の波形です。
いずれもピーク値が約200mVの綺麗な正弦波が表示されました。

この後アンプに接続して、30年以上前にD-3500で録音したノーマルテープ、
クロムテープ、そして市販のミュージックテープなど、様々なテープを再生
して、正常に再生できる事を確認しました。
但し、市販のミュージックテープの一部に相当劣化している物もありました。

結論としては、製造時のハンダ付け不良による潜在的な故障要因があって、
それが経年による導体表面の汚染や酸化、被膜の生成や機械的な振動に
よる接触状態の変化などによって、接触抵抗の増大や絶縁状態として
顕在化して、回路の動作不良に至ったものと推定します。

残った問題としては、巻き戻し動作の終了(テープの始点)に近い所で動き
が重くなって時々止まる事と、録音動作でRチャンネル側の録音レベルが
少し低い事が判っているけど、巻き戻し動作は『テープの反転+早送り』で
代替できるし、当分このデッキを使って録音する予定はないので、これらの
修理は“老後の楽しみ”に残しておきます。

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<参考リンク>
カセットデッキ『 Lo-D D-800 』の修理-Part1
カセットデッキ『 Lo-D D-800 』の修理-Part2
カセットデッキ『 Lo-D D-3500 』の修復 - Part1
レコードプレーヤー 『 DENON DP-1700 』 の復活
はんだ付け - Wikipedia
WEBはんだ付け講座
あべ静江オフィシャルブログ「みずいろの手紙」

-完-