自転しながら公転する | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

 

 

(あらすじ)※Amazonより

【中央公論文芸賞受賞作! 】
【島清恋愛文学賞受賞作! 】
結婚、仕事、親の介護、全部やらなきゃダメですか
共感と絶賛の声続々! あたたかなエールが届く共感度100%小説!

東京で働いていた32歳の都は実家に戻り、地元のモールで店員として働き始めるが…。
恋愛、家族の世話、そのうえ仕事もがんばるなんて、そんなの無理!
答えのない問いを生きる私たちをやさしく包む物語。
7年ぶり、待望の長篇小説

 

※すんごくネタバレあります

 

◆◇

 

 

 

 

上記作品を読んでぜひとも、山本さんの「自転しながら公転する」を読もうと思っていた私。

3歩歩くと忘れる鳥頭あもちゃん、それから1年以上経過した先日、本屋さんに立ち寄った際にふと思い出してようやく買うことができました〜。

 

大変面白く読み、思い出した甲斐があったってもんよ。

どの登場人物も絶妙に好きになれないところがすごくリアルでいい。

誰からも好かれるような聖人君主のような人間はおらん!キッパリ。

主人公の都にしても、母親の介護(重度の更年期障害)をしながら仕事もする…

一見健気な女性に見えるが、いや確かに健気な一面もあるのだが、それと同時に割とイヤな面や面倒くさいところも持ち合わせていて、本当に等身大のアラサー女性って感じ。

そういう感じで主人公だけでなく登場人物全員を多面的に描写する。

 

なのでこちらが一度あっさり受け入れたor否定していた描写も、いやでも待てよ、とよくよく考えてみたら、否定or受け入れる、ということもよくあった。

例えば都が失職中の恋人の貫一から10万円以上もするネックレス(Tiffany)をプレゼントされ、もらった瞬間は嬉しかったが後で値段調べたら(リアル笑)とんでもなく高い代物だと知り

お金の使い方、生き方が刹那すぎる、こんなものもらえない、無駄遣いじゃないか

とヤイヤイ延々と責め立てる。

 

いや〜せっかくのプレゼントなんだからそんな言い方しなくても〜

と私は思ったわけであります。つーか、めんどくさ。

と思ったら、貫一も私と同じタイミングで、めんどくさ、と思い

都の頬を思わず張ってしまう。

いや、殴っちゃあかんて。

とは思ったが、気持ちだけはわかる。

 

その話を都は友人に話すのだが、友人は

もしそれが同じ値段の婚約指輪でプロポーズされてたらどうしてた?

と聞かれた時、都は

多分喜んで受け取ったと思う、

と答え、恋人が散財?したことが自分のお金を抜かれた気分になった、と都は語る。

 

その答えを聞いた時に再度巻き戻ってネックレスをもらったシーンを思い出すと、

結婚を切り出さない恋人、その恋人も失職して現在求職中、将来が全く見えない、この人と結婚するのかどうか、この先自分はどうやって生きていくのか、仕事は続けるのか、私は一人で食っていけるだけの仕事ができるだろうか、家族の介護は…などなど考えてみたら、

そら、いつまでも結婚を切り出さないくせに、こちらはこの人と結婚する人生も考えているのに、なのに未来図も描いてくれなのにずるずる恋人関係を続けるような人間から10万以上もするネックレスなんぞプレゼントされたら文句の一つや二つ…100言くらい言ってもまだ足りないかもしれない、と思い直す自分がいた笑

 

ただ全体的に作品は貫一に好意的に描かれていて、都がなんだかんだ貫一との結婚を迷っている最中も私は、

いや〜この人でいいと思うけどなあ〜。

中卒だけど読書は好きで色々と知っているし、なんなら無知の都よりずっと賢そうだし…

と思っていたし、なんなら最後(エピローグ前)に、ハッピーエンドで物語が閉じられた時にはホロリとまでした。

だがしかし冷静になって貫一のそれまでの人生、を考えた時

いや、ちょっと待て。この人、なんだかんだで酷くない?

と気づく。

過去の犯罪もそりゃ自分は直接関わっていないにしても、結構な酷い内容(ここじゃ書けません><)だったし、それ以降も好意的表現をさっぴいて第三者的に考えたらこの人の人間性もロクでもない気がするぞ。

ということに気づく。

 

ちょっとした話でもそういう場面があった。

ボランティアに行った先で、邪魔でしかないど素人である都が熱中症で倒れ(マジで邪魔でしかない笑)、ボランティア活動を仕切る女性に帰るように言われるも、いやでももう少し頑張らせてほしい…と都が頼むも、迷惑そうな顔するのだが、こちらは都の視点で読んでいるから

都の「少しでもお役に立ちたい」という気持ちだけはわかってあげてほしい!

とつい肩入れして、そんな迷惑そうな顔しなくても〜><

とボランティア活動を仕切る女性に嫌悪感を持ってしまうのだが、まあ、よくよく考えてみたら(考えなくても)足手纏いでしかないわけで笑

 

たくさんの人物が登場するが、どの人物も視点を少し変えたら見方がまるで変わる、という作品で、等身大の今の人間を見ているようであった。

 

セクハラを受ける都も、仕事で先輩後輩に板挟みになる都も、いちいち大変なのだが、それを傷つきながらも1つ1つなんとか死に物狂いで乗り越えていく、その姿もよかったなあ。

共感はしないけど。

なんかもう少しやりようがあるでしょうよ、とは思う。思うが、じゃあ自分だったらもっと上手くやれてたか、というとやっぱり結果論でしかなくて、これ以下の行動をとるかもしれないし、逆に上手に逃げていたかもしれない。

都は上手にやり過ごすこともできない代わりに、逃げることもしない。

そんな不器用でありながら、実直な一面も見せてくれる作品であった。

 

何度も言うが、どの登場人物もなんか好きになれないの笑

不器用にもがいている感も好きになれないし、爽快感もないし、頭もちょっと弱めなところもアレだし、性格も決してよくはないし…と延々苦手なところを語れる主人公やその他大勢。

それでも不思議な魅力を持ち合わせた作品であった。

 

とか絶賛しときながら文句も言わせてください。

モンクィストあもちゃん、一言言わなきゃすまない性分!

 

プロローグとエピローグの浮いてる感たるや、あれは一体…?

特にエピローグ。

プロローグでベトナム人との結婚を大々的に匂わせ、そしてメインの話にちょいちょいベトナム人のニャンくんが登場する。

 

ってことはプロローグに出てきた新郎ってこのニャンくんなのでは?

貫一とは結婚しないのかな?

…な〜んて思わせておきながら、都が結婚するのはこのニャンくんじゃないんでしょ?

 

と思いながら読み進め、思ったとおりプロローグの新郎はニャンくんではなかったし、プロローグ&エピローグは登場人物らの「その後」が描かれているんだろうなあ、と思っていたら全てそのとおりだった。そのとおりじゃなかったのは「その後」が想定よりだいぶ未来だったこと。

 

この結婚式の新婦は都だとして、ベトナムで挙式してるけど新郎は貫一?

あのあとベトナムに移住でもしたんかしら(新郎行きつけのベトナムレストランの描写がある)?

 

などなど想像しながら読みましたらば、なんと新婦は都と貫一の娘で、新郎は全く知らないベトナム人(見ず知らずというかニャンくんの親戚)!

 

え?都って何歳って設定だったっけ?というか物語の時代設定っていつぐらいだっけ?

広島豪雨災害のボランティアに行った時が30過ぎて〜とか言ってたから・・

とエピローグの現在地が「2042年」であると知らされるまで、色々と考えちゃったよ。

私が今生きている2024年よりだいぶ先!

こういう恋愛小説って現在地を書くもの、と思っていたので、まさかの近未来の表現に意表を突かれすぎて、ええええ〜となった。

朽ちていく日本と、成長を続けるベトナム、とか。

十分あり得るが、そうならないかもしれないし、恋愛小説にそんなSF?的な話が混じってくるとは思わなんだ。

 

そしてあまり近未来的な背景を描くと色々と不都合があるのか(そらあるでしょうね)、エピローグの大半が都の娘の結婚式の様子で、あれ(都と貫一のハッピーエンド)から現在2042年に至るまでが語られていくのだが、超絶駆け足の説明口調。

 

なんだかとってつけたような話だな、と思って読んでいたら、最後に

「プロローグ、エピローグは書き下ろしです」

とあり、毛色が違っていたのはそのせいか、となるほど納得であった。

山本さんはどうしても書きたかったのかなあ、このプロローグとエピローグを。二人の未来を。それまでの二人の苦労を。

 

そんな文句だらけのプロローグやエピローグはともかくとして、メインはよくできていた。

しかも介護と仕事で行き詰まって、主人公がどん詰まりになる様子は見てて辛い〜と思ったら場面が転換したりして、これでもかと人物を追い詰めない様子は精神衛生上すごくよかった。

普通に生きていたら、ちょっと辛いことはありつつ、まあトータル幸せだったりするもので。

そういう微妙な「普通」を描くのがすごく上手だったと思う。

 

都の勤務するアパレルの職場の様子は、取材が緻密だったのか山本さんが以前そういう世界で働いていたのか、かなり詳細に描かれていた。

と言っても私は見聞きしたことない未知の世界なのでリアルな世界なのかどうかわからないが、そんな私から見た感想は、

ヒェ〜アパレル業界で働くのって大変そう〜><

でありました。

あと更年期、大変そう!!!!である。

怖いわ…あともう少ししたら更年期くるかしら…ドキドキ。

 

大爆笑したのはね〜

貫一が都のご両親に挨拶しにきたところ(お付き合いしてます的な挨拶)。

都の父親が、結婚の話を急に出してきて結婚に対してのらりくらり答える貫一にだんだんイラついてきて激昂した瞬間、ぶっ倒れたところですね。←貧血w

いや〜面白かった。

笑ってる場合じゃないけど、非常に滑稽でリアルだった。

貫一の人間性を知らないから、そんな勝手なこと(都との結婚を反対とか)が言えるんだよ!

と父親に反感を持つ私であったが、それこそ冒頭で書いたが、よくよく考えたら結婚するかどうかもはっきりしない男と30過ぎた自分の大事な娘がダラダラ付き合ってたら、そりゃ苦言の1つや2つ、それどころか100も200言いたくもなる気持ちもわかるぞ!娘の意思を尊重したい気持ちもあるけれど。

と立場も変われば見方も変わるってもんで。

 

そんな中、都の母親は私は好きだったな。

あの世代のわりに娘に理解はあるし、全体的にクールだけど私はこんな母親がよかったわ〜

←圧強めの西日本最強母を想像しながら笑

娘の都の視点からだと色々問題もある母親だが、親だって完璧なわけじゃないし、母親から見た娘の都もなかなか大概だったし。

親子だって人間関係の難しさは変わらない、ということを描いた作品でもあった。

 

 

知らなかったのだがドラマ化していたらしい。

 

評判はどうだったんでしょうか。

 

ところで都が働いている職場は、おそらく「あみアウトレット」のショップであります。

牛久大仏が出てきたり、牛久大仏の駐車場が出てきたりして、

あ〜あそこらへんか〜

と懐かしく思いました。

 

↓甥っ子、ランドセルを買うの巻。

 

か〜わ〜い〜い。こんなかわいかった時代もありました。

今も可愛いんだけどさ!