鬼はもとより | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

 

(あらすじ)※Amazonより

どの藩の経済も傾いてきた宝暦八年、奥脇抄一郎は江戸で表向きは万年青(おもと)売りの浪人、実は藩札の万(よろず)指南である。戦のないこの時代、最大の敵は貧しさ。飢饉になると人が死ぬ。各藩の問題解決に手を貸し、経験を積み重ねるうちに、藩札で藩経済そのものを立て直す仕法を模索し始めた。その矢先、ある最貧小藩から依頼が舞い込む。三年で赤貧の藩再生は可能か? 家老と共に命を懸けて闘う奥脇がみたものは……。

剣が役に立たない時代、武家はどういきるべきか!?

 

◇◆

 

第152回直木賞候補作である。

あもる1人直木賞選考会の様子はこちら・・

 →「あもる一人直木賞(第152回)選考会ースタートー

 →「あもる一人直木賞(第152回)選考会ー結果発表・統括ー

 →「もう一つの直木賞選考会(第152回)〜番外編〜

 →「本物の直木賞選考会(第152回)~結果・講評~

 

惜しくも(とか言いながらあもる一人直木賞は最下位)第152回は直木賞受賞を逃したが、次のノミネート作である『つまをめとらば』で見事第154回直木賞を受賞した。

そんでもって私がひっさびさ珍しく直木賞を当てた作品でもあります!←ココ大事。

おじさん受賞回に私は強い!・・当てたのは数回きりだがそこは触れないでいただきたい。

 

第154回直木賞受賞作。

 

それはさておき、あもる一人直木賞では最下位だった、と書いたが、これ、仕方なく最下位にしただけであって、

こんなもん最下位じゃー!

とか叫び散らしながら自ら進んで最下位にしたわけではないのだ。

どの作品も甲乙つけがたくどれもこれもステキだわ・・という回が時々ある。

第152回がそういう回であり、順位をつけろというから(誰も言ってないけど)仕方なく最下位という順位をつけただけで、正直最下位にするには申し訳ないほど面白い作品であった。

 

一言でいうと、「サルでもわかる経済学」みたいな作品で、時代小説or歴史小説に苦手感がある方でも全く苦にすることなくおもしろく読める。
「経済立て直し」という経済社会の話を時代小説に置き換えて語っている。今でいう経営コンサルタントのような職業も出てきて、今の時代から読むこともできる。


また、経済の話だけでは終わらせず、物々交換だった時代に貨幣を流通させる、という縦糸の話に、男女の色恋の話を横糸でつむいでいく、というわかりやすくシンプルな織物のような作品であった。


藩札(藩内で流通する貨幣)や貨幣が流通していく様子や、商売を初めてお金を稼ぐ話もおもしろかったし、サムライと商人の違いを淡々説明しているのもよかった。
女というイキモノについて生々しい感じもよかった。

ちなみに女というイキモノをさらにユーモアたっぷりに扱ったのが、第154回直木賞を受賞した「つまをめとらば」である。←これを読むと、女性は、アイタタタ・・・と思います笑

 

経済、時代小説、サムライと商人・・という一見小難しそうな感じなのにこうも読みやすいのは、ひとえに作者である青木文平さんがつむぐ文章がとてもシンプルで、選びとる言葉がいちいち優しく読みやすいからであると思う。

これは簡単そうに見えてなかなか難しい。よく計算された物語であった。

と思っていたのだが、次の『つまをめとらば』を読んだ時、この優しい文章は青木さんの持つ才能のなせる技であることに気付く私なのであった。

 

優しく読みやすいシンプルな文章というのは諸刃の刃でもある。

読みやすいというのは、裏を返せば少しでも隙間があるととてもその空白が目立つことを示す。

それがこの作品では残り後半1/4あたりで出てしまっていた。

もう少し詰めるか、あともう少し頁数があればその目立った隙間を埋めるような内容を語ることができたかもしれない。

残った頁が足りなくて、つむじ風のように説明だけで帳尻あわせましたー!
てな感じが最後の最後で本当に残念であった。

 

後半は少し残念だったが、それまでは本当におもしろかった。

特に前半は、藩札による混乱で、ざっくり言うと「藩札立て直し失敗」の経緯などがじっくりと書かれており、人間模様や貨幣経済やら色々なものを熱く読むことができた。

 

いつの世も経済からは離れられない。

知識があるに越したことはないし、また貨幣が形を変えていくのも世の常である。

貨幣が普遍なものだとついこないだまで思っておりましたが、信用できるかどうかはともかく、今はビットコインなるものもありますしね。

常に経済は動いていくのだ、とこの本を読みながら改めて感じるのも一興でありましょう。