決戦!本能寺 決戦!本能寺
1,620円
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(あらすじ)※Amazonより

戦国時代でいちばん長い夜だった。すなわち本能寺の変。

天正十年六月二日(1582年6月21日)、天下人目前の信長を、討った男と守った男。そして、何もできなかった男たち―。野心と業にまみれた男たちのそれぞれの生きざまとは!

日本の歴史の流れを変えたその「瞬間」に、名手7人が集結した。

累計18万部突破の大好評「決戦!」シリーズ第3弾!


伊東潤「覇王の血」(織田信房)
矢野隆「焔の首級」(森乱丸)
天野純希「宗室の器」(島井宗室)
宮本昌孝「水魚の心」(徳川家康)
木下昌輝「幽斎の悪采」(細川幽斎)
葉室麟「鷹、翔ける」(斎藤利三)
冲方丁「純白き鬼札」(明智光秀)

 

◇◆

 

 

 

時代小説/歴史小説が得意じゃない私ではあるが、『戦国 番狂わせ七番勝負』を読んで

「歴史小説を色々な作家さんの手による短編集で読むのっていいなあ」

とひどく気に入り、引き続き7人の作家さんによる短編集を読むことにした。

 

そして今回の作品も大変気に入った!!

私がもともと「短編好き」というのもあるが、歴史小説初心者にはこういう形が一番馴染むのだだと感じた(歴史小説好きには物足りないのかもしれないが)。

 

本作品はタイトルどおり、「本能寺の変」という未だに多くの謎に包まれている歴史的大事件を巡り、7人の作家が事件周辺の物語を描いたものである。

何が一番よかったって、トップバッターを務めた、あもるの鈍い(ノロイ)にかかり未だにそのノロイが解けない伊東潤さんの「覇王の血」(織田信房)がすばらしかったことである。

事実がどうだかはこの際どうでもよい。

とにかくおもしろかったのだ。

織田信長の五男として生まれた信房(織田勝長)。

父を憎み、そして父への憎悪以上に燃える自分の中の「野望」という火の存在に気付き、自分に流れる父の血に震える、そんな信房の姿を生き生きと描いていた。

すごくよかったです〜。

死の間際の父とのやりとり、兄の信忠とのやりとりも潔くて胸がすっとした。

明智を唆しながらも、明智が担いだ気になっているその神輿に乗らない冷淡ぶりに笑った。

そして燃えさかる二条城に映し出される明智の慌てる姿が大変すばらしかった。

なぜ時代劇(読んだのは時代小説だが)の炎はああも残酷で美しいのだろう。

ああ〜もう、いちいち語りたい!

 

そんな伊東さんの作品に遜色なかった作品は、『戦国 番狂わせ七番勝負』でイマイチだった木下昌輝さんの「幽斎の悪采」(細川幽斎)であった。これまたあもるの鈍い(ノロイ)にかかり未だにそのノロイが解けない作家さんである。

結局タイプの作家さんの作品を選んだだけやないかーい、なんて言わないで〜。あくまでも作家ではなく作品で選んでます!

伊東さんの作品同様、信長に対する復讐話、ではあるのだが、これまた伊東さん同様、信長の美しい「悪役」っぷりがよかった。

時代劇には必ずといっていいほど「悪役」が出てくるものだが、作品のキーパーソンとなる悪役の姿は主人公以上に上手に描かないといけない。だからこそすばらしい悪役っぷりが描かれた作品はイコールすばらしい、と私は思うのである。

細川幽斎兄弟と明智、そして信長の微妙な立ち位置の描き方が絶妙であった。

細川幽斎が死にゆく信長の姿を伝え聞いたときの、「嵐の日の海面のようにはげしく波打」つ細川幽斎の胸の内、そして脳裏に浮かぶ、紅蓮につつまれた本能寺の最期の信長の姿にぐっときた。

 

物語の書き出しで一番よかったのは、『戦国 番狂わせ七番勝負』でも大変好評(私の中で)だった天野純希さんの「宗室の器」(島井宗室)であった。作品そのものもよかったのだが何より書き出しのシーンがよかった。その躍動感たるや、まるで大作映画を見ているようであった。そしてラストもベタではあるがその書き出しのシーンからのバトンを受け取る形で終わった。

そして今回7人の中で唯一武士でない人物からの視点を描くことで、「本能寺」作品集として大変価値のあるものになったと思う。

 

あとは〜

直木賞作家の葉室麟さんの「鷹、翔ける」は渋過ぎて、多分歴史小説好きにはたまらないのだと思うが、初心者のあもちゃんにはちょっと渋過ぎた・・。

でも筆力のある作家さんであることは間違いない。なにせ、あもる1人直木賞(第145回)では直木賞受賞作「下町ロケット」(池井戸潤)が受賞するであろう、としながらもあえて葉室さんの「恋しぐれ」を推したほどですからね。
そして続く第146回で葉室さんは見事「蜩ノ記」で直木賞を受賞するのだが、そのときの私は桜木紫乃さんの「ラブレス」を推す、というこの間抜けさよ(笑)

そんなすっとこどっこいの様子はこちら・・

→『あもる一人直木賞(第145回)選考会ー結果発表・統括ー

→『本物の直木賞選考会(第146回)~結果・講評~

 

そんな葉室さんの「鷹、翔ける」(斎藤利三)のあとに、冲方丁さんの「純白き鬼札」(明智光秀)を並べたのは大変よかった。

私みたいな歴史初心者にもわかりやすく、齋藤利三と明智光秀の関係がわかるからだ。

葉室さんの「鷹、翔ける」で齋藤利三について読み込み、そこからラスト大トリの「純白き鬼札」で「本能寺の変」の首謀者とされる明智光秀で締める。

「本能寺の変」は冒頭でも述べたが、未だに謎の多い事件である。だからこそ事件をどう書くか、そして明智光秀をどう描くか、というのは自由ではあるのだが大変不自由であると思う。

だって〜、主君裏切りの印象が強過ぎる〜。そして信長からいじめられた印象が強過ぎる〜。

そんなのただの噂レベルで、そこらへんの井戸端会議のおばちゃんレベルの話なんだけど!

イメージってこわいわ〜。

国民に植え付けられた明智光秀のイメージをどう料理するのか、冲方さんの実力が問われる作品でもあった。

それにしてもこの作品集を作るにあたって、人物の選定って誰がしたんですかね。

作家さんがそれぞれ書きたい人を数人選んで、その中から編集者が割り当てたのかなあ。それとも編集者の独断でそれぞれに割り当てたのかなあ・・

明智光秀だけはなんとな〜く書きづらいと思うのだが、歴史小説家としてはそんなに苦でもないのかな。

ちなみに冲方さんの明智像は、にっくき信長〜!殺してやる〜!といういじめられっ子明智、ではなく、大変理知的で感傷的で自分探しをしている、まるで現代の若者のような明智光秀であった。そしてそんな明智に対峙する信長も、明智に対して大変情け深く、慎み深い信長であった。

将来を見据えた思慮深い人たちばかりで、悪役が誰一人おらんかった。そこがこの作品の弱点であった。信長を惨殺する理由が弱い〜。冷静に読んだらサイコパス気味の話ではある。

でも視点は大変おもしろかったです。こういう書き方もあるんだなあ〜と面白く読んだ。

ちなみに2020年の大河ドラマは明智光秀らしい。新鮮な明智光秀を見ることができるか!?

 

大河ドラマと言えば、私が密かに恐怖に震えた思い出話がありまして。

私が高校生か大学生くらいの頃だったと思うのだが、10以上離れた従姉が大河ドラマについて私に話していた。

その大河ドラマのタイトルは忘れたが、明智光秀と信長の話をしていたので秀吉だったのかなあ。そして従姉は

「信長ってほんと残虐でおそろしい人じゃったんよ。こわいわ〜。あんなん人間じゃねえわ」

と延々、信長の悪口を語っていたのだが、それがドラマの感想ではなく、従姉が大河ドラマが史実だと信じた上での信長の悪口であることを知り、私は震えたのである・・

テレビってこわい!!

きっとマスコミの垂れ流すニュースとかすぐ信じちゃうタイプなんだわ〜

テレビを見る側は常に賢くなければいけないんだな・・と20年以上も前の私は思いました。

ここまで書いといて今更言うのもなんですが、従姉の悪口じゃないです(笑)

 

話は作品にもどりまして、私なりのエピローグで終わりたい。

7人の描く信長は人間味溢れる信長もいれば、冷酷非道きわまりない信長もおり、十人十色ならぬ七人七色でそれぞれ違っていたのだが、ほぼ共通していたのは

「冷酷でありつつも美しい」

ということであった。

やはり信長はこう書いた方が作品が締まる。新しい信長像・・と言われてもピンとこない。

とても合理的で無駄がきらいな短気で戦上手な男、それが織田信長。会ったこと無いけど。

古今東西比べてみても、第六天魔王信長こそが悪役ナンバーワンだと思います!

 

決戦!桶狭間 決戦!桶狭間
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歴史短編集にハマったわたくし、引き続き織田信長集を読みたくてこちらの作品を探しますれば、まだ文庫になっていなかった!

単行本を買って読む程、まだ歴史好きではない・・

というわけで、図書館で早速予約しといた!早く借りに行かなくちゃ。GWは読書三昧だ!