若冲 | 感傷的で、あまりに偏狭的な。

感傷的で、あまりに偏狭的な。

ホンヨミストあもるの現在進行形の読書の記録。時々クラシック、時々演劇。

 

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(あらすじ)※Amazonより

奇才の画家・若冲が生涯挑んだものとは――
今年、生誕300年を迎え、益々注目される画人・伊藤若冲。緻密すぎる構図や大胆な題材、新たな手法で周囲を圧倒した天才は、いったい何ゆえにあれほど鮮麗で、奇抜な構図の作品を世に送り出したのか? デビュー作でいきなり中山義秀賞、次作で新田次郎賞を射止めた注目の作者・澤田瞳子は、そのバックグラウンドを残された作品と史実から丁寧に読み解いていく。
底知れぬ悩みと姿を見せぬ永遠の好敵手―当時の京の都の様子や、池大雅、円山応挙、与謝蕪村、谷文晁、市川君圭ら同時代に活躍した画師たちの生き様も交えつつ、次々に作品を生み出していった唯一無二の画師の生涯を徹底して描いた、芸術小説の白眉といえる傑作だ。

 

◇◆

 

第153回直木賞候補作である。

 

筋としては面白かったのだが、なんだろう、語りたくなるようなものが特になかった。

若冲の目線、若冲の妹の目線、から交互に描かれているのだが、若冲の目線は大胆にカットしてもよかったんじゃないかと思うほど。
というのも、若冲の妹からの目線で描かれる若冲は
つかみどころの無い、それでいて絵を書くことだけには異様にまっすぐな男
というのに対し、
ご本人の目線、つまり主役の心理(本当の姿)は、大したことないのである。

いや、むしろろくでもない。
いやいや、ろくでもないならないで魅力があればいいのだがそうでもなく。
本人の心理が描かれているはずなのに性格に統一性がないというか、若冲の性格や想いが全く伝わらない、そこらへんの気の効かないただのオジサン、
になってしまった。

 

美術にも歴史にもあまり興味がなく、時代小説にも疎い私なので、史実とか事実とかけ離れてるのでは、とか、若冲の作品がどれほどなのか、とかそういうことは全くどうでもよくて、どの作品にも共通して私がひたすら注意して読む事項は、

どれだけおもしろくて、どれだけ私を魅入らせることが出来るか

である。

その点で読んで、この作品は最初にも言ったが、語りたくなるような作品ではなかった。

 

一番問題だったのは、妹からの目線と若冲本人の想いが呼応しあっていないところである。
お互いの目線で描く必要があるか?これ。
という必然性のない設定が一番の問題だと思われた。
せっかく大胆な仮説をぶちあげて描こうとしたのだから、もっと破壊的な描き方でもよかったように思う。

若冲と妹の目線から交互に描く必要性が全く感じられず、内容と設定がちぐはぐだから若冲の像がかなりブレまくっており、本当に同じ人のことを書いているのかすら読者は不安になる。


しかもそんな不安なところへ大変な問題がてんこもりで次から次へと起こる。
人生に対してブレるのは全くかまわないが、絵に対してそんなにブレててどうするんじゃー。趣味でやってるなら、一人で隠居してすっこんでろ、

と言ってやりたい。
・・ああ、言ってしまった。口から溢れる〜。

若冲の絵師として生きていく人生、母親と若冲のこじれる関係、若冲と義弟の生涯修復することのない因縁関係、若冲と同世代に生きる絵師たちとの関係、そして若冲と妹、若冲と義理の子。

母親とのねじれた関係も話の入り口で終わってしまった感が拭えず、義弟との関係もなんだかよくわからないし、絵師としても曖昧だし、勝手な人、という妹の思う若冲に対する評価は正しいのだが、それに若冲本人は呼応するような形で動いてないし、若冲を悪く言うほどのエネルギーももったいないほどアッサリ終わった。

あ、ただ若冲の後年編み出した、升目を書いて点描していく画法、という表現を読んで
ドット絵?時代の最先端やん。
と思わず笑えたところは、よかったです。→?

 

第153回から数年後、第158回直木賞で『火定』をひっさげ再び候補となった澤田さん。

 

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参考記事→『火定

 

惜しくも直木賞は逃したが、すばらしい作品に仕上げての登場であった。

『若冲』では上記のように(私から)さんざんな言われようだったが、数年でこれほどまでに成長するとは思ってもみなかった。ヨヨヨ、と私はうれし泣き。

直木賞受賞の日も近い、と信じて、次回作にも期待したい!!