アメリカ連邦議会に出ているとある法案が気にかかっていたのだが、お盆休み明けに出社したら、某巨大法律事務所からニュースレター
が出ていた。
Foreign Manufacturers Legal Accountability Actと呼ばれるそれは、上院で提案されている案、下院で提案されている案、そしてそれらのバリエーション、と情報が入り乱れているが、骨子はおおむね以下のようなものらしい。
①外国で一定の製品(後述)を製造する者は、製造物に関する民事訴訟についての訴状の送達を米国内において受領する代理人を指定しなければならない(自動的に人的管轄の抗弁を放棄する結果になる)。
②代理人を指定しない場合は、製品の米国への輸入が禁止される。
③米国子会社がある場合は、子会社が親会社の行為についても法的責任を持つと宣言(?)することによって、代理人の指定に代えることもできる。
④対象となる製品の範囲は、消費者製品、自動車・自動車部品、医薬品・医療機器、化粧品、生物製品、化学製品、殺虫剤である。
ご承知のとおり、米国の裁判所が管轄権を行使するにあたっては、憲法上のデュープロセスの観点から、被告との最低限の接触(接点)と、訴状の適正な送達が必要とされる(人的管轄の問題)。
そして、ハーグ条約上、外国に存在する被告に対しての送達は、原則外交機関を通じて行うものとされている。
法案はこれらの原則・法理を骨抜きにするもので、日本企業の法務担当者として、フツーにとんでもないと言わざるを得ないシロモノである。
もっとも、米国子会社がある場合には、(ハーグ条約にかかわらず)その子会社への送達をもって親会社への送達とみなすのが1988年のVolkswagen Aktiengesellschaft v. Schlunk判決(486 U.S. 694)以降の米国司法界の傾向である(Yamaha Motor Co. v. Superior Court of Orange County, 174 Cal. App. 4th 264 (2009)参照)ので、その意味では、日本企業(少なくとも大企業)へのインパクトは、見かけほどは大きくないのかもしれない。
そうは言っても、律儀に(?)ハーグ条約にしたがった日本の親会社への送達が必要と考える州、裁判所、原告も相当数ある以上、無視できる話ではまったくない(と思う)。
WTO(GATT)的にも、問題あるだろう。
提案者であるHoyer議員の談話
によれば、今回の提案は(保護主義的な)"Make it in America"政策の一環であるそうで、その意図するところはアメリカ産業界の振興、ということにつきるようだ。
つまり、アメリカの会社は膨大な訴訟コストを負担しているのに、外国の会社がそれを免れているのは怪しからん、この際外国の会社にもアメリカの訴訟地獄を味わわせて価格競争力を失わせてやれ、という理屈らしいのだが、使えるものはなんでも使う、弱みを見せたら徹底的に叩き潰す、というアメリカ的な発想が、なんともすごい。
そして、外国製品による事故の被害者の救済、というような点にはまったくふれてないところも、すごい。
明らかな非関税障壁と思うのだが。
法案は、下院では7月21日にエネルギー・商業委員会(Committee on Energy and Commerce)で承認され、上院では8月6日に財政委員会(Committee on Finance)に委ねられた後は、完全に夏休みに入ってしまったようで、大きな動きがあるとしたら9月以降の話になりそうだ。
やや余談だが、連邦議会の法案の審議状況は連邦議会図書館のウェブサイト
で簡単にチェックできる。日本にも同様なものがあるのか、そのようなことを自分で調べる必要が生じたことがないので知らないのだが、すこぶる便利である。