あるところに妻子ある男がいた。

 

彼は幸せの国を探すと言って、家を出た。

 

うまい食事に、十分な仕事。暖かい家。

 

「きっと、西に行けば豊かな暮らしができる」

 

そう思い男は西を旅した。

 

西の国は人々が賑わい、一見豊かに見えたが、

なにぶん、食事がまずかった。 


「うぁ、これは食べれたものじゃないな。」

 

そう感じ、男は次は北の地へと赴く。

 

北の地は水が美味く、豊富な魚が採れた。

 

「ここは良いぞ!」

 

そうは思うが、ここには人もいなく仕事がなかった。

 

次はここから東にあるという国を目指した。

 

東の国はよき家が多いと聞く。

 

「確かに、良い家なんだけど・・・」

 

鉄筋コンクリートで仕切られた家々。

部屋の中まで家族それぞれが一人暮らしで切るような構造となっていた。

家族に距離がある家だ。

 

男はまた旅に出た。

最後はここから南の国。

 

「・・・ただいま、幸せの国は・・・なかったよ。」

 

少しやつれながらも暖かく迎え入れてくれた妻に、少し大きくなった我が子。

 

幸せの国は、ここにあった。

幼い頃、100円は大金でした。

駄菓子屋に行けば豪遊できる金額です。

 

それでも子どもにとってのお金は欲しいものがないと、

ただの硬貨でしかありませんでした。

 

「マルコももうすぐお姉さんになるんだから貯金箱が要るかしら?」

 

そういうと、一工夫されたかわいらしい貯金箱をお母さんから貰ったんです。

 

「いい?ここに100円を入れると・・・」

 

貯金箱が動き出します。

それが楽しくて楽しくて仕方がなく、いつしか貯金が趣味へと移り変わっていったのです。

 

100円玉を貯金箱に入れては出し入れては出しの繰り返し。

うれしくて仕方がなかったんです。

 

ある日、お母さんが買い物に行っている間、

 

「少しだからまってて」

と言われ、クーラーのかかる車内で待っていたとき

車の中で貯金箱の穴らしきものを見つけました。

 

クーラーの穴です。

 

「穴・・・」

 

そこはとても魅力的な空間でした。

 

そこに100円を入れると

どうなるかどうしても知りたかったんです。

どこかから出てくると思っていたんです。

 

お母さんが帰ってきたとき聞きました。

 

「ねぇここに100円入れてもいい?」

 

モチロン、『いい』なんていうはずがありません。

 

それで、我慢ができませんでした。

分かっていました。

あれが貯金箱ではないことぐらい。

しかし、いつもポケットに忍ばせていた100円玉を・・・・

「みんなが楽しいんだからいいじゃないか」

親友の

この言葉が嫌いだった・・・。

 

ボクが中学生の時

親友はいじられるポジションにいた。

 

彼の体重は標準の2倍いじられない方がおかしいと言えばおかしい。

生徒はモチロン先生もその場での笑いをとるために利用していた。

 

この様子が耐えがたくボクをイライラさせた。

 

「馬鹿どもが・・・」

 

先生を含めた

幼稚な連中を軽蔑した。

 

でも、それ以上に

いじられている様子を黙ってみているしかできない。

そんな自身の勇気のなさを情けなくも思っていたもんだ。

 

あるとき

この親友を呼び出した。

 

「お前、あんな風にけなすような奴らとはつきあうなよお前がニコニコしてるからつけあがるんだぞ?」

 

ボクは、

友人を心配していたわけではない。

ただ、自身の正義を振りかざしたいだけ。

 

自分ができないことを他人にしろと言うなんて最低だ。

 

すると

彼はうそ臭い笑顔で言うんだ。

「そうする事で、みんなが楽しんでいるのだからいいじゃないか」

と。

 

その笑顔には

本音を感じられなかった。

 

「楽しいのか?我慢してるんだろ?本当は嫌なんじゃないのか?」

 

彼がからかわれている様子を黙ってみていたボクはそう思っているように見えたんだ。

 

なりたくて手にした位置ではない。

与えられて押し付けられているそんな位置。

 

「俺は楽しいよ。そうする事でみんなが楽しいんだもの」

 

「だから・・・(怒)」

 

この論争はずっと続いた。

 

人を

笑わせ楽しませているのではなく

人に

笑われて楽しませる。

 

自己を犠牲にさせる事で

他者を楽しませる。

 

彼の言う言葉は理解できなかった。

 

彼が一言

「助けて」

そう言えば間違いなく、先生やその他の機関が何とかしてくれただろう。

 

なのに言わないんだ。

 

そんな様子がボクをイライラさせた。

 

「じゃあ俺が、お前をからかう奴らぶっ飛ばしてやる!」

 

ボクは、頭が回らない分よく手が出た。

どうせ、あいつらに

「トモダチをからかうのをやめろよ」

なんて、言ったところで

自分たちが楽しいから、彼も楽しいんだなんて言うに決まっている。

 

すると、彼は必死に

「やめてくれという。」

 

「どうしてさ?」

 

「どうしても。」

 

「絶対お前それ楽しくないって。『助けて』っていえよ」

 

だけど、彼は

「いらんことをしなくていい」

そう一言だけ言っていた。

 

「そうか・・・、本当にダメだったら言えよ?」

 

そう言ってこの話は終わった。

 

 

 

もしもボクがこのとき

自身の正義を振りかざしていたのなら

クラスを敵にまわしただろう。

 

どんな人も、楽しい雰囲気を壊すようなヤツは

軽蔑される。

 

いじめよりもひどい

無視。

関わりを持たない。

と言う空気で接されたはずだ。

 

 
・・・彼は誰よりも大人だったのだろう。