インヘリタンス~継承~後篇@東京芸術劇場プレイハウス | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 ちょっと間を空けて後篇を観てきました。前篇は結構面白く観たんですが、後篇は個人的に力尽きてしまいました。おそらく、日本人だけによる公演に慣れてしまって、「この人は何人なんだろう?」など考えずに観るので、人種問題が見えなくなってしまったのが原因かと思います。そして、これといったヤマもなければオチもなく、同時代を扱った『RENT』との違いはここって感じ。『RENT』はミュージカルなので、楽曲で人種を表現できるのが大きいけれど、ストレートプレイで、メイクで人種表現をせず、ちょっとした台詞の中からその人のバックボーンを探りながら観るのは、日本版の弱点ですね。登場しただけでその人物のバックボーンが見える、なんて皆無なので。

ブロードウェイ版キャストたち

 

役者の存在だけであれこれ語れるのが多人種カンパニーの強み

 

 前篇でドロドロに絡み合った人間関係が整理されたように見えたのですが、モテ男:トビーの魅力が最後までわからずじまい。ヒステリックだし、人の話は聞かないし、攻撃的だし、何よりも自己中。恋人:レオをドラッグ付けにしてヤリ部屋に連れて行き、15人の男たちに犯されているのを眺めながら「お前もこういうの好きだろ?」って、そりゃ、娼婦とウリ専の男は違いますが、それでもねぇ。エリックだってヘンリーと結婚式に元彼:トビーを呼ぼうとするし、その後もトビーの問題に首を突っ込むし、結局のところ「別れても好きな人」として未練タラタラ。「優しい」と紹介されることが多いエリックですが、結婚相手のヘンリーに優しいか?と思うとかなり残酷な方です。ヘンリーがかつて関係を持っていたウリ:レオが病気になったのを知って、元客なんだから支援しろとか、何だか支離滅裂。そして、そんなエリックの友人関係もクセモノ揃いで、ヘンリーが白人でかつ政党が違うというだけでやたらと攻撃的。「俺が、俺が」でないと生き残れないというアメリカの多国籍社会ですが、あまりに全員が攻撃的なのに疲れてしまいました。みんな、相手を理解しようとか、相手に事前に説明しようという感覚がなく、とにかく自己中な言動を繰り返し、攻撃し合うばかり。とりあえず、ヘンリーが一番真っ当に見え、そして、一番真っ当な人がみんなに逆差別されるのが気の毒で、気の毒で。嫌な奴が改心したりすることなく、最後まで嫌な奴でした。芝居のオチも「みんなでシェアハウスに住もう」って、6時間半かけてこれかいっ! 連続ドラマならばともかく、劇場の演劇としては長ければ良いってもんじゃないなぁと思った次第。と、前篇の時とは違って「長いなぁ」とばかり感じて幕となったのでした。人間の集中力には限度ってものがあります!

 良く、LGBTQにかけては後進国だ、と言われる日本ですが、ほとんどトラブルなく生活できる(入院の時や産相続とかで家族扱いされないという法律上の問題はありますが)、人間関係においては差別があるわけでなく、良い意味で「好きにして」「人は人、自分は自分」がまかり通っているあたり、実は先進国なんじゃないかとも思ったりします。あ、東京の状況しか知りませんけど💦

 

 

【スタッフ】
作:マシュー・ロペス
演出:熊林弘高
訳:早船歌江子
ドラマターグ:田丸一宏
美術:二村周作
照明:佐藤啓
映像:松澤延拓
音響:長野朋美
衣装:伊藤佐智子
ヘアメイク:稲垣亮弐
ムーブメント:柳本雅寛
インティマシ―コーディネート:西山ももこ
舞台監督:齋藤英明

【キャスト】
エリック・グラス:福士誠治
トビー・ダーリング:田中俊介
アダム・マクドウェル/レオ:新原泰佑
ジャスパー/ポール・ウィルコックス:柾木玲弥
ジェイソン1/ドアマン:百瀬 朔
若き日のヘンリー/他のエージェント:野村祐希
若き日のウォルター/タッカー:佐藤峻輔
ピーター・ウエスト:久具巨林
チャールズ・ウィルコックス/トビーのエージェント:山本直寛
ジェイソン2/診療所の人:山森大輔
トリスタン/ディーラー:岩瀬 亮
ウォルター・プール/エドワード・モーガン・フォースター:篠井英介
ヘンリー・ウィルコックス:山路和弘

マーガレット・アベリー:麻実れい