インヘリタンス~継承~前篇@東京芸術劇場プレイハウス | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 最近の演劇賞受賞作品というと、マイノリティか差別問題かどちらかって位、重い作品、そして長い作品が多いような気がします。『インヘリタンス』もニューヨークのゲイたち、そして他民族の扱った作品で2部6時間半という長大作。とはいえ、トニー賞やオリヴィエ章受賞しているし、現地だったら言葉の問題もあってたぶんパスしてしまうであろう作品を翻訳版で観られるのは嬉しい限り。脱ぐシーンや、ラブシーンも多いけれど、不思議と「見てられない」とこちらが照れてしまうことがないです。良いんだか、悪いんだかわからないけど、役者がかなりセーブしてます。これからご覧になる方はご安心を。

 

 第一幕は登場人物の紹介的部分があって、結構しんどいけれど、ここさえ頑張ればあとは一気に芝居が流れ始めます。良く「自由の国アメリカ」という宣伝文句を見かけますけど、演劇界からさっすると「差別と偏見と貧富の差が大きい国」という印象の方が強いですね。日本って島国だからか、大々的な差別ってほとんどないでしょ? 偏見とディスり合いだって、せいぜい『翔んで埼玉』クラスのお約束位ですもの。(日本も大陸の一部だったらまた違うかもしれませんけど)。今回も、人種問題や生活クラス問題などてんこ盛りで、嫉妬と劣等感丸出し。日本版だとどうしても人種は見た目で分からないし、貧富の差も分かりにくい中、この手の問題点を日本人で見せるのは難しいですね。バックボーンや社会状況が把握できるまで、単なる「嫌な奴」になりかねないんですもの。このあたり、見た目だけで納得させることのできるブロードウェイならではの演劇だと思います。それゆえに、日本版はゲイの恋愛にフォーカスした作りになるんですが、ここの表現が和風「オネエ」になってしまうのは、わかりやすさ優先ですかね。とってもステレオタイプな表現。

 

 舞台はBGMもほとんどなく、ほぼ台詞のみで進行します。ストレートプレイにありがちな大仰なセリフ回しを大声でというスタイルではなく、ストレスなくすっと芝居に入り込めたのは、役者の演技力がとても高いカンパニーの証明。セクシーな場面も次々に出てきますが、果敢に挑戦した役者根性、観客が照れることなく集中できる演技、長大な台詞の数々を初日なのにほぼ完ぺきに仕上げてきていること、さらには客席の空気をちゃんと掴んでの間合い(そして多分アドリブも!)に感服しました。ミュージカルだと声のパワーやダンスについては若手が有利だったりしがちですが、ストレートプレイになるとベテランの芝居力がハンパなく、篠井英介と山路和弘の存在感とお芝居がことに染み入りました。後半は後日改めて観る予定ですが、男だけのカンパニーに紅一点で麻実れいが加わるとどんな変化が起きるのか、前半でとりあえず収束したような芝居がどう展開するのか楽しみです。

 

【スタッフ】
作:マシュー・ロペス
演出:熊林弘高
訳:早船歌江子
ドラマターグ:田丸一宏
美術:二村周作
照明:佐藤啓
映像:松澤延拓
音響:長野朋美
衣装:伊藤佐智子
ヘアメイク:稲垣亮弐
ムーブメント:柳本雅寛
インティマシ―コーディネート:西山ももこ
舞台監督:齋藤英明

【キャスト】
エリック・グラス:福士誠治
トビー・ダーリング:田中俊介
アダム・マクドウェル/レオ:新原泰佑
ジャスパー/ポール・ウィルコックス:柾木玲弥
ジェイソン1/ドアマン:百瀬 朔
若き日のヘンリー/他のエージェント:野村祐希
若き日のウォルター/タッカー:佐藤峻輔
ピーター・ウエスト:久具巨林
チャールズ・ウィルコックス/トビーのエージェント:山本直寛
ジェイソン2/診療所の人:山森大輔
トリスタン/ディーラー:岩瀬 亮
ウォルター・プール/エドワード・モーガン・フォースター:篠井英介
ヘンリー・ウィルコックス:山路和弘