二期会『タンホイザー』東京文化会館 | てるみん ~エンターテインメントな日々~

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 「ワーグナーのエキスパート、揃い踏み!」という謳い文句のプロダクションは、キャストのみなさんが絶唱で、頑張って声を張り上げるので、金切り声、かつ、ピッチもあちこち怪しくて、ハラハラ・ドキドキ120%の公演でした。『タンホイザー』は、各幕約1時間の3幕物という、ワーグナーの作品の中ではコンパクトな作品なんですが、「最後まで声が持つか?」とか、「途中で空中分解しないか?」とか、ハラハラ・ドキドキ120%の公演でした。ドイツ・オペラ(ワーグナーに「オペラじゃなくて楽劇です!」と叱られそうw)を日本人が演じるには肉体的ハードルの高さを感じます。楽器(体躯)が異なるため声に余裕がなく「必死感」が伝わってくるので、聴いていてこちらの喉が痛くなってきます。ソプラノやテノールはドラマティックさが求められるし、バスは低音をズドンッと響かせなければならないのに苦戦する中、得なのはバリトン歌手。今日もヴォルフラム:友清 崇が登場すると安心する公演でした。表キャストは唯一の招聘歌手、サイモン・オニールが絶賛されていたのでまた違う雰囲気だったのかもしれません。裏キャストによる最終公演は約半分の客入りでした。

 

 タイトルこそ『タンホイザー』ですが、舞台ではハインリッヒと呼ばれています。知らないと「あれ、主役はいつ出てくるの?」となるトラップ! ストーリーは展開がゆったりだし、正直、あってないようなもの。さらに、キース・ウォーナーの演出がところどころ意味不明だったりして「理解しよう」と思うと困ってしまうのですが、聞き覚えのあるメロディが次々に登場するし、コーラスは聴き映えするし(演奏も良かった)、ワーグナー節が存分に楽しめます。影コーラス→舞台を横切りながら徐々に増えていくコーラス、花道を利用したトランペット舞台など、芝居としてはつまらないけれど、楽曲としては聴きごたえタップリで楽しめます。そして、無理のある演唱であったとしても、ライブ会場ではその場の空気感というものがあるので結構楽しめるんです。自分でも訳が分からないけれどワクワクしました。「とにかく上演しちゃえ!」の熱意が良かったのかも。

 

 それにしても、人間ドラマではなく、宗教の話にいつしかすり替わっていて、わかりにくくないけれど身近でもないお話で、なんだか、信者ではないのにどこかの教団をお話を聴いているような居心地の悪さが伴うのがワーグナーあるある。そして、ワーグナーの作品となると男性客が急増するのが謎。ワグネリアンって他の作曲に興味ないのかしらん? 幕間の会話も「今日の●●さんが素敵」よりも「前、●●オペラが来日した時は~」とか観劇自慢があちこちでなされているのも独特の空気感。ワーグナーはラブシーンを描くのが下手ってのも独特なんですが、あ、それゆえに照れずに観られるってか??? 今日も官能的とか色っぽいとか、そういった俗的な表現は皆無でした。

 

 

【スタッフ】
指揮:アクセル・コーバー
演出:キース・ウォーナー
演出補:カタリーナ・カステニング
装置:ボリス・クドルチカ
衣裳:カスパー・グラーナー
照明:ジョン・ビショップ
振付:カール・アルフレッド・シュライナー
映像:ミコワイ・モレンダ
合唱指揮:三澤洋史
音楽アシスタント:石坂 宏
演出助手:彌六
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
公演監督補:大野徹也

【キャスト】
ヘルマン:狩野賢一
タンホイザー:片寄純也
ヴォルフラム:友清 崇
ヴァルター:前川健生
ビーテロルフ:菅原洋平
ハインリヒ:伊藤 潤
ラインマル:(変更前)倉本晋児→(変更後)水島正樹
エリーザベト:梶田真未
ヴェーヌス:土屋優子
牧童:七澤 結
4人の小姓:本田ゆりこ、黒田詩織、実川裕紀、本多 都

合唱:二期会合唱団
管弦楽:読売日本交響楽団