- ネットフリックスでの配信もされますが、映画館で観るのが好きなので有楽町まで。『tick,tick...BOOM!』は2003年にアートスフィアで山本耕史主演で日本初演されたミュージカルですが、マニアックすぎたためか、彼以外ではくり返し上演はされておりません。『RENT』でいちやく時の人となったジョナサン・ラーソンが売れない時代のお話ですが、ラスト近くに「アナタの回りの事をミュージカルにしなさいよ」とアドバイスされる伏線とでも言いますか、ところどころに『RENT』につながるネタが仕込まれているのが見どころ。とはいえ、『RENT』について予備知識がない人が観たら、どうってことないお話です。自信満々に新作ミュージカルを書き上げたものの、内容が商業的でなかったため評価されたのに上演されませんでした、というだけ。処女作ではなく『RENT』誕生の物語にしたら話も盛り上がるのにね。
- そもそも、ジョナサン・ラーソンは今でこそあがめたてられていますが、感情移入しにくい人物なんです。自信過剰なのはアーティストとして100歩譲るとして、ダンサーの恋人が舞台の第一線を退いて教職の道に進もうか真剣に相談んしたがっているのに「今日はだめ」「明日聞くから」とのらりくらりでスルーしまくるし、キャリアチェンジしてリーマンとなった元俳優の親友の仕事をディスりまくって大切なプロジェクトを滅茶苦茶にしちゃうし、親身になってアドバイスしてくれる人の話には切れまくるし。まるで世の中の悩みは自分だけが抱えているかのよう。そもそも社会常識に欠けていて、成功者に対しては敵意丸出しだし、ダブルワークのウェイターの仕事は不平タラタラでプロ意識なしだし、再三督促されている電力会社がついに電気の供給をストップしたら「ミュージカルを書かなきゃならないのにいきなり止めることはないだろう」とか、ホント、自己中。ミュージカル大好きな私ですら「ミュージカルの名前を出せば全て許されると思ってるなんてドン引き」まくりです。絶対、友達にしたくないタイプ。とはいえ、演劇界ってこの手の自意識過剰野郎がやたらと多かったりするので「あ、●●さんと一緒だ」と腹黒く笑うことができる作品でもありました。『RENT』があったから評価されている人だけど、それ以外はダメンズです。成功すれば美談、成功しなかったら困ったちゃん。でも、それがブロードウェイ。アンドリュー・ガーフィールドの演技が素晴らしくて、見事にイライラさせられっぱなしでした( ^^) _U~~
- 笑うといえば、ニューヨーカーの会話って、映画の中ではみんな笑い転げているけれど、日本人的感覚だと「どこが面白いの?」な台詞の応酬で、結構混んでた映画館の客席もシーンとしていました。笑いって言葉の意味だけでなく、バックボーンや文化が絡むのでなかなか難しいものですね。最近はいつどのチャンネルを付けても関西芸人がテレビに出ているのでだいぶ慣れてきましたが、関西の劇団の東京公演で関西のお笑いをされても客席ポカ~ンってことがありましたっけ。
- そして、ブロードウェイものだけあって、キャストが豪華。ソロパートの歌なんてみなさん聞きほれます(ただ、ブロードウェイあるあるですが、協調性がないからかコーラスになるととたんに下手っぴ。押しは強いけれど引いたり揃えたりっていう意識はないみたい)。ジョナサンの商売道具であるキーボードもタッチレスポンス機能のないやつで、作曲の時点で一本調子なので、このあたりも文化ですね。登場するピアノも鍵盤が茶色く(煙草のヤニ?)なったボロボロなもので(さすがに吹き替えのようで音は悪くなかった)、音色を作るのは難しそう。弘法は筆を選ばないってことですかね。ジョナサンの曲って『RENT』もだけど、一回目で惚れる!ということがなく、何度も繰り返してみているうちにジワジワと中毒性が増していくのが特徴。劇中でプロデューサーはこき下ろすのに、似たようなタイプのソンドハイムがジョナサンをやたら評価するのに、思わずニヤリ。
- tick,tick...BOOM! 115分
- 【キャスト】
- 監督:リン=マニュエル・ミランダ
- 製作:ブライアン・グレイザー ロン・ハワード リン=マニュエル・ミランダ
- 製作総指揮:セリア・コスタス ジュリー・ラーソン スティーブン・レベンソン
- 原作:ジョナサン・ラーソン
- 脚本:スティーブン・レベンソン
- 撮影:アリス・ブルックス
- 美術:アレックス・ディジェルランド
- 衣装:メリッサ・トス
- 編集:マイロン・カースタイン アンドリュー・ワイスブラム
- 作曲:ジョナサン・ラーソン
- 音楽:ジョナサン・ラーソン
- 音楽監修:スティーブン・ギジッキ
- 【キャスト】
- Jonathan Larson:Andrew Garfield
Susan:Alexandra Shipp
Michael:Robin de Jesús
Joshua Henry as Roger
Judith Light as Rosa Stevens
Vanessa Hudgens as Karessa Johnson
Stephen Sondheim:Bradley Whitford
Molly:Joanna P. Adler
Simon:Noah Robbins
Freddy:Ben Levi Ross
Herself:Beth Malone
Allen Larson:Joel Grey
Walter Bloom:Richard Kind
Carolyn:Mj Rodriguez
Lauren:Kate Rockwell
Todd:Utkarsh Ambudkar
Building Doorman:Chris Sullivan
a diner patron:Renee Elise Goldsberry
a diner patron:Phillipa Soo
a homeless bum:Adam Pascal
a homeless bum:Daphne Rubin Vega
a homeless bum:Wilson Jermaine Heredia
Judy:Laura Benanti
Peggy:Micaela Diamond
https://www.netflix.com/jp/title/81149184- 2003年6月日本初演時のパンフレット
(演出:吉川徹、主演:山本耕史)
テーマ:映画