すました顔でさわやかに言い放っているこの腐れ男は、ついさっきまで自分をベッドで散々に弄んでいたのだ。


「べーつにぃ?なーんかいいマジカメネタがないかなぁー?って探してるだけー」


何時ものように軽く答えながら、内心では盛大に毒づく。
(お前のイッてるときの顔、アップしてやろーか!)
出来もしないと解っていてもつい毒づきたくなる。



一年ときに同室になり。
そして、すぐに彼が年下の幼馴染に恋をしていることを知った。
 

彼は事あるごとに「リドル」の話をしていた。
どれほどにかわいいのか。
どれほどに賢いのか。
どれほどに勤勉で真面目なのか。
そして彼の母親にはいつも文句を言っている。


もう少しリドルを自由にさせてやればいいのに。



まるで自分が守りたいんだとでも言わんばかりに、目をキラキラさせてリドルのことを話す彼の話し相手になるうちに、いつしか自分も「リドル」という見たこともない少年に憧れすら抱くようになった。



そして一年がたち。
リドルが入学してきて。
実物のリドルの、あまりにもド真ん中の美少年っぷりと。
その後ろに常にあるトレイの姿に打ちのめされて、自分の本心を知った。



激しく傷ついた心が。
自分がトレイに恋をしていると知らせてくれた。


それからも数か月は悶々と片思いをしていて。
そして、トレイがリドルと帰省して会えなかった春休暇の後すぐに、騙すみたいにして体の関係になった。



図書館の本で見つけた「媚薬」の精製法。
ワザワザそれを作ってトレイに飲ませた。


原因不明の体の暴走に苦しんで布団にくるまっている彼を、介抱するふりでぴったりと張り付いた。
見舞いに来たリドルすら追い返した。


「大丈夫?トレイ君?」

そういって彼の顔を覗き込んだ。

うっすらと額に汗を浮かべた彼の、ちょっと苦しそうな顔に、チクリと心は痛んだけれど。
それはあえて無視した。
「ああ、すまないケイト。風邪かな…なんだろう体が熱い……」



上擦った様な彼の声は、ひどくセクシーで。



寮生たちがよく着ている寮服のTシャツだけに下はセパレートのほうの体操着のジャージだけという鉄板の(お寝間着スタイル)の彼にすらドキドキした。



「風邪じゃない?安心して寝てていいよ?俺が看病したげるから」
何時ものように軽い口調で言いながら、ワザとに彼の体に触れる。


彼がそうされたら我慢がきかないと解っていて、あえて触れた。


「あ……」

目の前の彼がほんの少し戸惑ったように狼狽える。

「どうしたの?」
気づかないふりでワザとに微笑む。
心の中でごめんと謝った。

「い……いや……。あ……いやケイト。悪いが少し一人にしてほしいんだ」

そう言う彼に、気が付かないふりで聞いた。

「えー?どうしたのぉ?水臭いじゃーん?困ってるときは同室は助け合わなくちゃね?」

俺の出したテンション高めの甘ったるい声は、媚薬で発情状態にある彼には、きっと堪らないだろうと解っていて、あえて布団をかけなおすふりで彼の鼻先に自分の項を寄せた。

「ほらほらぁー。病人はじっとしてー?」
そう言って枕を直すふりで彼の髪にワザとに触れた。

そしてその腕が予想通りに力強い腕にがっしりと捕まえられた。


「え……?」

心の中ではそう思っていないのに。
俺はワザとに驚いた声を上げた。


鮮やかに体を入れ替えられて。
ベッドに押し付けられて。
本当は踊りだしたいほど嬉しいくせに戸惑って困惑したふりをした。


「ちょっちょっトレイ君?どーしたの?」


彼に馬乗りになられて、彼のマスタードイエローの綺麗な瞳に射るように見つめられて。

その時だけは本当に気恥ずかしくて視線をそらした。
その逸らした顎を強引に掴まれて引き戻される。



予想通りの大きな掌と。
力強い仕草。

彼がリドルのためにケーキを焼くのを、マジカメのネタ作りと理由をつけて何度も見た。

クリームを泡立てる腕や、パンをこねる手が、いかにも男っぽくて骨ばっていて。

秘かにゾクゾクした。
その掌が自分の顎を強引に掴んでそして引き寄せる。

「ちょっ…ちょ…トレイ君!?」

一応は逃げる素振りで藻掻くふりをした。



「んんっっ……んっ……」


ベッドに押し付けられた姿勢のままに、いいようにキスされる。
それはきっちりとしたフレンチ・キスで。

口の中を彼の舌で掻き回されて息すらできないくらいに血が騒いだ。

予想通りの長い舌は、自分の口の中をいいように蹂躙してくる。

頭の芯が痺れそうなほど上手なキス。

何となく想像していた。
トレイはキスがうまそうだと。


けれどそのキスを現実に喰らって、今更ながらにケイトは動揺した。


自分の心まで丸裸にされそうな恐怖感。


「ごめんケイト……俺、変なんだ……」

いつもより格段に上擦ったセクシーな声が耳元で囁く。

(うわ…悪魔ボイス……)

トレイの声は元々男っぽいほうだが、それが上ずってちょっと掠れると、あり得ないぐらいエロい声になる。

その声を耳元に息と共に送り込まれて、ケイトの腰が一発で砕けた。
そのケイトの体を、ベッドに押し付けるようにしてトレイが制圧して、容赦なくまさぐる。


「と……トレイ君っ…風邪で朦朧としてるとかっ…」

今更ながらに焦って抵抗を始めたケイトだが、トレイとケイトでは元々からして体格が違う。

身長こそ五センチしか違わないが。

華奢なタイプの骨格のケイトと、細身ながら骨太なタイプのトレイでは元々のパワーゲージが違っている。

あっさりと体を制圧下に置かれて、彼の骨ばった掌や指が、自分を蹂躙し始めて。

そこで現実の行為の生々しさに気が付いたところで後の祭りだった。
しかもだ。


トレイは恐らくだが初めてではない。


同室だからわかる。
彼は自分にこそ手を出してこないが、時々寮生や、どうかしたら他寮の生徒にも手を出している。

しかも決まってそれは小柄で、華奢なタイプ。

大抵は一過性の関係で、そのうちに別れるなりしているのか、それを表に出したことはないが、時折部屋に戻ってきたときに、誰かを抱いていたんだという気配を漂わせていることがあった。

そのケイトの予想が当たっていたと言わんばかりに、トレイの手つきは手慣れたもので。
服を取り去るのもあっという間で。


「トレイ君っ……ダメっ……同室でこんなになったらあとが困るっ」


言い訳みたいに漏れ出た言葉は、今はケイトの本心で。

でも薬まで使って火をつけてしまった男の獣性が、そんな言葉で止まるわけがないのは、当のケイトにだって解っていた。


言い訳をする唇をまた容赦なく塞がれて。
今度はもう立てなくなってしまうんじゃないかと思えるほどに上手なキスに翻弄された。

途中からはもう吐息と喘ぎ声しか出てなかったと思う。

そうして彼の掌は予想通りに俺様で暴君で。
まるで本心を見透かされているんじゃないかと思うほど、堂々と敏感な部分を嬲った。

「や……だめ……トレイっ……」

それでも彼の指が自分のもっとも触れられたくないところを触り始めて。
いよいよ焦ってケイトが一際激しく暴れた。


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文責 煌原光織

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