ブラック・クランズマン BLACKkKLANSMAN (2018) ☆☆ | 映画の楽しさ2300通り

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スパイク・リーの「ドゥ・ザ・ライト・シング」を観たのはボストンでした。日本語字幕などないので、すべてのセリフが理解できたわけではありませんが、その必要はないパワフルな映像と役者たちの迫真演技、そしてテーマの重さに圧倒され、映画の印象は強烈かつ面白かったものの、スパイク・リー作品を観るのはつらいな、と思ってしまいました。

それから15年以上たって作られた「インサイド・マン」(自分が観たのはさらにあとでしたが)。デンゼル・ワシントンジョディ・フォスタークライヴ・オーウェンらスターが出演しているとはいえ、同じ監督の作品かと思うくらい、未だ解決されないアメリカの人種問題に関するエピソードはほとんどない、洗練され、サスペンスにあふれた犯罪映画でした。

そして本作。タイトルどおり白人(というかWASP)至上主義組織、KKK(Ku Klax Klan)を扱った映画ですから、うかつには観られない厳しいテーマであることは必至と思われました。
とはいえ、すでに40年近いキャリアがあり、「インサイド・マン」だけでなく「オールドボーイ」(未見)のリメイクまで監督しているリーですから、実話をベースにしたプロットをどう料理するのか。怖いもの見たさもあって観始めるといきなり、の展開に「そう来るか!」と思いましたが、本筋のストーリーが始まってみるとこれがとにかく面白い。
実際にあった話ですから悪名高い白人至上主義のKKKに黒人が入会する、という奇想天外のプロットの面白さはリーの手柄ではないとしても、相当に問題あるテーマをいわばコメディ仕立てで、なのにシリアスにサスペンスフルに描く手腕(リーは脚本にも参加)は脱帽ものです。

インファナル・アフェア」やリメイク版の「ディパーテッド」でも描かれた潜入捜査の話ですが、潜入捜査官は江戸時代の隠密や現代のスパイと同じように、常に命の危険と隣り合わせの状況であるだけに、正体がばれやしないかひやひやはらはら緊張の連続。なのに、実話に比較的忠実だからでしょうか、最近の刑事映画につきものの派手な(過剰な?)アクションがほとんどない、リアリスティックで暴力描写が嫌いな映画ファンにも観やすい作品になっています。

ブラック・クランズマンを演じるのは、リーの親友だというデンゼル・ワシントンの息子、ジョン=デヴィット・ワシントン。相棒のユダヤ人(黒人同様KKKの仇敵)警官はアダム・ドライバー。二人ともに好演ですが、特に気に入ったのは、ジョン=デヴィットの相手役となるローラ・ハリアー。まじめで、一本気で、芯が強い学生活動家のリーダーをキュートに演じています。

特にすごいなと思うのは、現役の政治活動家を悪役として実名で登場させていること。映画に対して本人から何らかの抗議があったかどうかは確認していませんが、こういうこともできるのか、という驚きがあるアメリカ映画は、まだまだ捨てたものではありません。
さらにエンディングもオープニング同様予想外で「こう来たか!」と思いましたが、これも詳しくは言わずにおきましょう。

傑出したエンターテインメントでありながら、米国内に存在し続ける人種問題・ヘイトクライムを明確に意識し、表現する作品に仕上げたスパイク・リーが、オスカーを争った「グリーンブック」の作品賞受賞に対して「不快感を表すコメントを残し」た(Wikipediaより※)というのもわからなくはありません。
とりあえず2つ☆(大好き)を付けましたが、しばらく自分の中で評価が(愛が)移ろうのを楽しみ確かめたい1本です。

※「グリーンブック」に対するスパイク・リーその他のコメントについてはWikipedia等を参照してください。