グリーンブック Green Book (2018) ☆☆ | 映画の楽しさ2300通り

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ある映画好きからすべての映画好きへの恋文
Love Letters to all the Movie Lovers From a Movie Lover

先日の記事で「もやもやする」作品の例として挙げましたが、「事実と異なるために映画作品の質が下がることはない」と書いたように、作品として評価できないと感じたわけではありません。
むしろ面白く観たし、感動的でもありました。ヴィゴ・モーテンセンも好きだし、もやもやがなければ3つ☆にしたかもしれません。

事実かどうか以前に、この作品に対しては、ヴィゴが演じた主人公トニー・"リップ"・ヴァレロンガ「白人の救世主」として描かれているという、人種差別的な意味合いでの批判もあります。他方では、マハーシャラ・アリが演じたドクター・ドナルド・シャーリー「マジカル・ニグロ」だという指摘もあり、娯楽主体の映画産業にはまだまだ多くの課題が残されているようです。
※「白人の救世主」「マジカル・ニグロ」の説明はWikipedia等でご確認ください。

そうした点に目をつぶって、面白ければそれでいい、という気は毛頭ありませんが、「白人の救世主」という指摘について言えば、ヴァレロンガもまたドクター・シャーリーとの旅により無知や偏見から救われるわけだし、ドクター・シャーリーはヴァレロンガのサポートを受けつつも基本的には自らの勇気と信念により行動しているので、どちらかと言えば「相棒」的であり、救う人と救われる人という感じではありません。
「マジカル・ニグロ」については、当時の社会においてはドクター・シャーリーの存在そのものがマジック的であったろうことを考えると、妥当な描かれ方だと思います。

ピーター・ファレリーの演出はドラマチックというよりは、シンプルかつ丁寧で、このような題材には適したスタイルと感じました。フライドチキンのエピソードなどはありきたりと言えなくもないですが、主役二人のうまさで楽しいシーンに仕上がっています。

ヴィゴ・モーテンセンは「ロード・オブ・ザ・リング」「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「イースタン・プロミス」での精悍な容姿に比べかなり体重を増やしていますが、デ・ニーロにしろデンゼル・ワシントンにしろ、よくもこう体重調整して芝居ができるな、と感心。それだけでなく演技も素晴らしいですが、徹底的に練習したというマハーシャラ・アリのピアノ演奏の指使いも見事。手だけのアップは本職(クリス・ボウワーズ)が演じたそうですが、指先もしっかり映るミディアムからフルのショットでも本当に超絶技巧の持ち主のようでした。
もちろん、アリも演奏シーンだけがよかったわけではありません。孤高を保った品のよさの一方で時折見せる笑顔の無邪気な(計算されてますね)かわいらしさも印象的です。

 

ラストも素敵な終わり方でしたが、「エイプリルの七面鳥」を思いだしました。フランク・キャプラ的なエンディングともいえるかもしれません。
ただ個人にとどまらない社会による差別・偏見・ヘイトがテーマだけに、「何かが解決した」ということにはならないことも、もやもやの一因だと感じました。