無謀な瞬間 The Reckless Moment (1949) ☆☆ | 映画の楽しさ2300通り

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以前ご紹介した「格安DVDセット」の古い映画もぼちぼち観進めている中で、聞いたこともなかったのに観てみたらめちゃくちゃ面白かった1本に出会いました。
マックス・オフュルス監督、ジェームズ・メイスンジョーン・ベネット主演の「無謀な瞬間」。コスミック出版「サスペンス映画コレクション」の「名優が演じる犯罪の世界」に収録されています。

自分はオフュルス監督も知らず、本作の存在も知らなかったわけですが、観終わった後検索してみたら結構な高評価で、割とたくさんの人が古い映画を観て面白いと感じているのだな、と嬉しくなりました。

話は、分別が足りない若い娘がいい年をして甲斐性のない男に騙されそうになるのを母親が防ごうとする、という今でもどこかにありそうなところから始まります。
母親を演じるジョーン・ベネットは、193,40年代に活躍したということでほとんど観た記憶はありませんでしたが、エリザベス・テイラーが花嫁を、スペンサー・トレーシーがその父を演じた「花嫁の父」の母親役、ハンフリー・ボガートが脱獄囚を演じた「俺たちは天使じゃない」の雑貨店の妻役は観ていたようです。「サスペリア」にも出ていますが、これは未見。

その母親が、頼りにしている夫が長期の出張で留守にしている間、娘と息子(このキャラクターが最高!)に義父を抱えてお手伝いさんのサポートを得ながら一家を切り盛りする過程で、娘の不祥事が持ち上がるのですが、それが犯罪事件に発展して・・・という展開の中で、ベネットの気丈でありながらもろさも垣間見せる「一家の大黒柱」的な活躍がまず見どころです。

もうひとつの見どころが、そこに悪党役として登場するジェームズ・メイスンのスマートなかっこよさ
イギリスの俳優なので、3,40年代のイギリス映画をあまり観ていない自分にとってはいわばノーマーク。観たなかで比較的古いのが「海底二万哩」(1954)のネモ船長、愛する映画にリストした「地中海殺人事件」は1982年の作品でメイスンはすでに70歳を過ぎており、若いころの颯爽とした2枚目ぶりは想像していませんでした。やはり格安セットで購入した「邪魔者は殺せ」がますます楽しみになった次第。

その悪党が、家庭を護ろうとひとりけなげに奮闘するベネットに定石通りほだされるあたりが唐突という見方もあるようですが、彼女の涙ぐましい努力には観客も共感するくらいだから、どうやら悪党稼業に嫌気がさしており、ベネットに母の面影も観ている様子のメイスンが恋愛感情ではなくても「護ってあげたい」と思うようになるのは十分理解できます。
メイスンの思いがベネットになかなか届かないことを示すエピソードもさりげなく泣かせます。

オフュルス監督の演出は"流麗なカメラワーク"が特徴ということですが、流麗かどうかはともかく、エキストラも含めて巧みに配置された人物と主要登場人物の無理のない動きが織りなす流れのある演出は、ストレスなく観るものを引き込みます。

自分が観た格安DVD以外でも「マックス・オヒュルス傑作選」の1本として販売されていますが、Amazonその他で3000円以上。上記セットなら1800円で、ほかにも「悪魔の往く町」「裸の町」「ガラスの鍵」「」(いずれも☆☆)などもろもろ入ってお得です(コスミック出版からいくらかもらっているわけではありません)。