人は誰でも、一人一人違っている。
遺伝子情報が全く同一の双子でさえも違っている。
同じ人はひとりもいない。
この単純な事実を私は本でも講演でも繰り返しているが、なぜか理解
してもらえない。どうしてだろう?
先日もメールが来た。自分をアスペルガーと確信して医師に診断してもらおうと
思ったが、諸事情によりしてもらえなかった人から。「自分が誰なのかわからない」
???理解に苦しむ。レッテル貼りってそんなに大したことなのか?
あなたがイチゴジャムのビンか何かだったとして、そこにオレンジマーマレードの
ラベルを貼ったら、中身が変わる…わけがない。
どういう診断をされようとされまいと、「その人」は「その人」に違いない。日本人はなぜ、
(勤務先の会社名とか役職とかもそうだが)安直なレッテルを貼りたがるんだろう?
さて、レッテル貼りに反対している人を見つけた。一応、親向けの本なんだけど、
困ったことに翻訳版は分厚くて文字が多く、とても問題がある子どもの親(似た傾向の
ある人が多い)が読破できるとは思えない代物。残念なので概要だけ紹介しておく。
(関連サイトの一部を翻訳させてもらえないか交渉中)著者はアメリカの小児科医。
* * * *
「発達障害」「アスペルガー症候群」「LD」といった分類は人間の個体差に比べて余りにも
おおざっぱすぎるし、分類さえつけば、その「箱」に放り込んでおしまい、肝心の成長に
応じた発達のフォローがない現状では、意味がない。
著者(レヴィーン先生)はIQテストなんかよりももっと細かく、神経学や脳科学と、実際の
子どもの観察を組み合わせて問題点を探り出す方法をすすめている。チェックポイントも、
従来のIQテストなんかよりずっといろいろある。たとえばこんな感じ。
○人間の脳の神経発達システムにはこんな種類がある
注意制御: 脳の管理部門。心の能力資源を集中管理していて、いつ、どこで何をすべき
か、適切に注意を向け、エネルギー分配をする。
入力制御:雑多な外界から重要と思われるものを選んで取り込む。余分な
刺激に惑わされず、自主的に情報を取捨選択し処理する。
出力制御:しっかり考え、落ち着いて複数の選択肢を検討し、過去の経験
から必要な情報を適切な時に取り出して使う。経験から将来を
見通す能力もここから発する。
ここが不調な時は、過集中、注意散漫、同時並列思考の不具合、早すぎるまたは遅
すぎる思考…などが起こると考えられる。
順序: 一年の十二ヶ月の順番を正しく把握したり、しなければならない物事に優先順位を
つけたり、勉強や運動などで段階ごとに順番に説明されることを正しく理解する。時間感覚
も順序の一部なので、限られた時間の有効活用ができる。この能力が不調だと、教わった
とおりにできない、時間を守れない、次に何をすべきかわからない、という混乱状態に
なってしまう。
空間秩序: 心の中に画像を思い浮かべたりして、言葉を使わないで思考する能力。地図
を読む力なども含まれる。ここが不調だと、運動のやり方を手本を見て真似したり、思った
通りの絵や立体作品を制作したり、数学的に思考する(記号や数式で考える)ことができ
にくくなる。
記憶: 持続時間が短い短期記憶と、脳に蓄えられる長期記憶がある。記憶のファイルを
上手に作り、図書館のように脳の中に体系的に分類して保管し、必要とされる時に的確に
取り出せると、ものごとの理解に役立てることができる。この機能が不調だと、物事が覚え
られない、知っていることなのに質問されても答えられない、といった混乱が起こる。
「頭が悪い」と思ってしまいがち。必要なことが覚えられない場合、訓練することもできる
し、同時に外部記憶(メモ、パソコン)などを使って補強することもできる。
言語: 言語は他の学科の学習にも道具として使用されるので、知識を得るには大変
重要。入出力いずれにも「音声」「書字」の二種類あり、得意不得意は人それぞれ。
不具合がある場合は本人の適性にあった形で補強し、のばしていくこと。(書字が
苦手ならコンピュータを使わせる、音声入力が苦手なら録音する)。言語に弱みが
あって質問に答えたりできないため「頭が悪い」と思い込んでいる場合もある。
言語入力:本を読んだり、話を聞いたりして理解することであらゆる分野の
知識を得ることができる。
言語出力:思っていることを積極的に表現し、伝えることができる。他人と
コミュニケーションするにも必要な能力。
運動: 運動には大きく分けて微細協調運動(手先などのこまかな動き)と、粗大筋肉運動
(スポーツなどで使うダイナミックな動き)の二種類ある。得意不得意はあっていい。本人に
あった、楽しめる種目で運動能力を伸ばすこと、そのための指示を適切に理解できる
ことが大切。指示は「順序」が苦手な場合理解しにくいし、言語入力の「音声」が苦手な
場合もついていきにくいので、困っているようなら適切なサポートが必要。
社会思考: 以下の二種類に大別されるが、いずれにせよ、対人技能というものを
理解し、有効に使えるようになる、社会の価値観を認識できる能力。
社会的言語機能:相手に応じた言葉遣い、話題の選び方、会話のやりとり。
社会的行動:場に合った服装、ふるまい方など。
この分野が苦手な子どもは学校でいじめなど不当な扱いを受けやすいので注意が必要
だが、社会的な価値観にも生活スタイルにも多様性を認め、いろいろな人がいていいのだ
という認識が、すべての子ども(と親)にいきわたることが何より大切。
高次思考: 人間のもっとも深く高いレベルでの考え。「概念」形成(それはどのような
ものか、類似のものをまとめて考える思考法)、創造(自分ならではのものを創り
出す)力、問題解決(問題点は何か、それに対して何ができるか、選択肢は何か)
する力、批判的分析(CMや流行についての記事を読み、裏にはどのような意図が働いて
いるかを冷静に考える)力などを身につけることが、成長し、社会人として生きていくうえで
一番大切。
ひとくちに発達と言っても、これぐらい細分化して見ていく必要があるそうだ。
細かく分析するためにはいくつかのテストやら診察があり、その結果、発達のどの部分
に問題点があるかをつきとめたら、本人に「きみの長所はここだけど、こんな弱点もある」
と知らせ、本人の意見を聞きながら親や教師、必要なら訓練士やセラピスト、精神科医
なども共同して問題点をどう扱うか(訓練で補う、回避する、両方を行う等)方針を決め、
あとは定期的に進み具合を観察していくわけ。
本人の特技や、熱中していることを利用して弱点を補強する(トラックの趣味について書く
ことで言語を訓練するなど)もおおいにすすめられている。
教師と幼児期~学齢期の子どもを持つ親にとって特に役立つ本なので、がんばって読み
通そうと思う方はこちら。↓
- メル レヴィーン, Mel Levine, 岩谷 宏, メル・レヴィ―ン, 岩谷 宏
- ひとりひとりこころを育てる