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幻想写真作家 七色アリスの幻想劇場

幻想写真作家七色アリスの幻想写真文学

「真っ白な顔した教師と真っ赤なキャンパス」

~2012「Aliceの幻想劇場」~

作:七色アリス


とある薄暗い金曜日、
真っ白な顔した教師が灰色の教室で
真っ白な顔した僕に
課題を与えました

それは
自画像をかくという課題でした

ああなんだってとてつもなく
面倒くさい課題を与えてくださったのか


真っ白な顔した
なんの特徴もない自分をどうやって
描けというのでしょうか



先日、みんなと少しだけ違う僕の顔を
批判なさったのはあなただというのに


だから僕は机の上のケシゴムで
自分の顔を消したのですよ

それをなんだっていまさら
自画像を描けとおっしゃるのか



まあ、そうおっしゃっている
教師の顔も真っ白ですから僕は同情心から

描いてみることに決めました




しかし、もうずいぶんと前に消してしまっていたので
それはそれは大変な作業でした



もう思い出すのは不可能に近い領域に達していましたので

僕は理想のアニムスアニマを描くことに決めました


そう、だってもう自分の性別もわからないくらいに
自分の顔を忘れてしまっていましたから


ですが、こんな面倒くさい課題をくださった
教師に少しだけ感謝しようと思いました

この僕がひさびさに少しだけ楽しい気分となったんです


僕は僕の望む形では生まれませんでしたから

どうしてぼくはみんなのように
真っ白い顔をして生まれなかったのか

くる日もくる日もそれだけ考え生きていた頃の自分を思い出して
少しだけ懐かしい気持ちが蘇りました



あと
僕が得意なのは絵を描くことだったんじゃないかなとも
思い出しました



が、そんな素敵な気持ちはあっというまに
なくなりました


僕はもともと絵がうまかったのですから
それはもう悲劇でしかありませんでした


油絵の具を何度も塗り固めて描いていく顔をみて

僕は何かを思い出しそうになって

怖くて怖くて
僕は
こんなんじゃだめだとキャンパスを切り刻みました
もう何度切り刻んだことでしょう

描いては消す
描いては消す

理想のアニムスアニマを描いているはずなのに
何かを思い出しそうになり

描いてはキャンパスを切り刻む行為を繰り返しました

夢中になりすぎて
ご飯をたべるのも忘れるくらいに



僕の母親らしき真っ白な顔した方が
僕を心配し、お部屋を訪問いたしました


そうして
僕の顔を見て悲鳴をあげました





ああなんということか
僕はすっかり夢中になりすぎて

あろうことか、
キャンパスではなくて
真っ白い自分の顔を切り刻んでおりました



真っ白い教師の嫌がらせによって

思い出してしまった
目と鼻と

僕自身を


月曜日、

真っ白い教師はこれは自画像ではないと
怒り狂うでしょう

そして、真っ白い顔したクラスの残りのやつらは
ただただ嘲り笑うんでしょう

ですが、きっとクラスでは何名かは
明日僕と同じ
真っ赤なアニムスアニマの自画像を提出することでしょう


そんなことを考えていると
少しだけ気分がよくなって僕は


ふふふと微笑みました



さあ、理想のアニムスアニマを完成させましょうか


僕はまたペタペタと絵の具を重ねだしました


「少女と母と手鞠歌」

原作:七色アリス



ひとーつ ぐんじょう そらのいろ

ふたつ しゅいろ ちのいろ




少女は

ボロボロの手鞠を手にしながら

数え歌を作り始めた




いつ帰るかわからない

母ちゃんをまってるあいだはいつも何かしらの遊びをみつける




9999回手鞠をつけば母ちゃんが帰ると信じて

手鞠をしていたのだが

9999回手鞠をついても

まったく母ちゃんが帰るふしがみあたらないから




今度は数え歌を作って遊び始めた



いつつ こんじき 

むっつ しろいろ  




母ちゃんのことをずっと思ってただ待っているよりも




そばにあるおもちゃで遊んでいれば

その時は楽しいから




手鞠のいろんな糸の色のことなんか

考えてれば

すぐに時間がたって

お腹がすいて

眠くなって

また明日がくるから




そうすれば明日こそ

母ちゃんが帰ってくるかもしれないから




そして少女は

今度はそれを唄にしてみようとも思った




複雑に絡みあっている

ボロボロの手鞠の糸の事なんかを考えてみてるうちに

数え歌にして

9999回つけば

その時こそ母が帰ってくるはずじゃないかと

思ったのだ




まずは複雑に絡んでいる糸の色のことを唄にしてみる

遊びすぎて

ボロボロになって壊れてきてしまった手鞠




ずっしりとおもたい手鞠を手にして

少女はずっと糸の色を唄にしてゆく




ななつ むらさき

やっつ くろいろ




この唄ができあがって

9999回ついた時に母ちゃんはきっと帰ってくるだろう




母ちゃん早く帰ってきて





わたしはもうすぐ

母ちゃんよりも歳をとってしまう





それでもわたしは母を待ち続けるために

今日も唄をつくって手鞠を続けるのだ




ここのつ
 
とおー


2012「Aliceの幻想劇場」





「蛇時計を左回転する方法」


その部屋の時計の短針と長針は蛇の体でできていた



蛇がうねうねと右回転するたびに時間はうねうねと進み
蛇がうねうねと左回転するたびに時間が逆にうねうねと進む


左側に大好物のねずみを置いて
さあこちらへおいで

どんどん左回転して時間をもどしておくれ蛇時計

君がまだこの部屋にいた頃に時をもどすのだ

なあ、なんともおいしそうだろう
ゆっくりと舌をだして
おいしいねずみを手にいれるために
左回転しておくれ

お願い蛇時計
おいしいねずみならいくらでも用意するから
君がまだこの部屋へいた頃まで時間をもどしておくれ

左回転したならばぐるぐると
蛇時計の短針と長針が絡みあい
もとにはもどらなくなればいい

まわれまわれ蛇時計

2012.2「Aliceの幻想劇場」
「赤い線」


$幻想写真作家 七色アリスの幻想劇場


写真&ストーリー:七色アリス

ほらまた赤い線が一本私の前にひかれた

線が増えるたびに
わたしはわたしをひとつずつ失う
またひとつ人というものから遠くなってゆく

右半分から人でわなくなる
上から
下から

いや、いっそのこと赤い線だらけにして人じゃなくなればいい
私じゃなくなればいい

線と線をたばね、ぐちゃぐちゃにひかれるうちにそれは真っ赤な面となり
わたしじゃなくなる
わたしは赤い線に飲まれ消えてしまえばいい

さあ赤い線を今日も描き続けるのだ

わたしが消えてなくなるまで描き続けるんだ


2012.2「Aliceの幻想劇場」
「顔がないピエロ」

Photo&Story:七色アリス
衣装協力:ペイデフェ


$幻想写真作家 七色アリスの幻想劇場

ぼくは顔がないピエロ
本当は顔をもって生まれたんだけど
生きてゆくのにじゃまだから
ある日すてることにしたんだ

だってこのサーカス団で生き残っていくためには
顔はどうしても必要なかったんだ
いやあってはならなかったんだ
僕は自分の顔の皮をはいで
面を被った

ある日、となりに同じようなサーカス小屋がやってきた
こちらの団長と新しい小屋の団長が握手をかわす

その後ろで
ぼくと同じ顔したピエロがひょっこり現れた

僕と同じ顔したピエロ
みんなの笑顔のために
顔を捨てたピエロ
無機質な笑い顔のピエロ

君も僕と同じ血がきっと流れてるんだろう



こちらの団長が溜め息をついた
あちらのサーカスがきてから
こちらのサーカスがめっきりダメになったと

ぼくはひっそりとあちらのサーカスを偵察しにきた
いや、あの僕とそっくりなピエロも気になっていたから
同じ血が流れているピエロにあいたかった

人魚の華麗な水中ショーに
ゴーレムの勇ましい怪力
妖精達の秘密の綱渡り
猛獣の血なまぐさい匂い

僕たちのショーとなんら変わりない

しかし
小さな
いや大きな違いに
ぼくは落胆した

この僕の役目
あいつだったのだ

大きな違い
僕は顔がないピエロなのに
あちらのピエロには顔があったのだ

震える僕に
あいつはそっと笑いかけながら
耳元で何かを囁いた

~2010「Aliceの幻想劇場」~
「空白の終着駅」



「そこの若い方、貴方はどちらの終着駅まで?」
近くに座っていた老夫婦が話しかけてきた。

「僕ですか?僕はこちらまで」
僕は僕だけのパスを見せた

「ほほぅ。これわこれわ。。。。」



「わしらはずいぶんと長い旅を続けてきてやっと次が終着駅なんじゃ」
「残りの人生をゆっくり楽しもうと思いましてねぇ。」


老夫婦はやさしい顔でほほえんで次の駅でおりていった。

小さく小さく見えなくなるまでずっとずっと手を振ってくれていた。




僕はこの駅にはおりなかった。




僕はやっぱり旅を続けていて
この汽車自体からおりるのはやっぱり不可能なんだろう。


いつも、とてつもなく楽しい場所でも
発車のベルの音が聞こえるし、ちゃんと乗車する。


どうやら悲しいかな僕のこの体はそうプログラムされているらしい。


それはこの汽車に乗っている以上、
そしてこの体をもっている以上、
このパスをもっている以上

幸せでもあり不幸でもあるのだ


さっきの老夫婦を思い出しうらやましくなった。

元気で暮らしているだろうか?



僕はまた、猛スピードでめまぐるしく変わる景色をみながら
ふっと昔の駅を思い出すんだろう



ああきっとそうなのだ



いくつかの駅に下車してきて
僕の手には何一つ残ってないけれど

僕のこの頭に刻み込まれたたくさんの美しいものの数は
きっと誰にも負けない




さあ、また発車のベルがなっている。乗り込むんだ




もしかしたらあるかもしれない
ベルの音が聞こえない、
聞こえてものりこみたくない


自分だけの終着駅を目指して




ぼんやりとまたそんなことを考えていた



そうそう、僕のパスはものすごく珍しいものらしく



終着駅の欄は空白なのだがね



終着駅が
ないのか
自分で書き込めということなのか



そうそう


きっとこれが僕の幸せなのだ



そう自分に言い聞かせて



僕はまた旅を続けるしかないのだ




2011「Aliceの幻想劇場」
「また、こちらであったときはよろしくな 」



澄んだきれいな果てしない蒼の空間の中
たくさんの人のカタチをした物達がふわふわと眠っている


僕はもう先に眠るね
といってとなりにいた彼はもうずいぶん先に旅立ってしまった

彼が今回与えられたのは
たった5年の命だった

生まれる意味なぞあるのだろうか


楽しみ、苦しみ、悲しみ
のある世界へ


またこちらへ来たときはよろしくな
といってとなりにいた彼はもうずいぶん先に旅立ってしまった

彼に与えられた前回の命は
87年

ふわりふわりと蒼の空中に僕らは浮きながら
ずっと87年間のハナシをゆったりきいていた

87年分の
楽しみ、苦しみ、悲しみをただ淡々と


またあちらの世界の思い出話でも語ろうではないか

ふわりふわりと蒼の空中に浮きながら
僕は眠りという旅立ちをまつ


ああ、そうだね
またこちらであったときはよろしくな

またその時まで
おやすみ

うん おやすみ
おやすみ


2011「Aliceの幻想劇場」
「大好きなサンタさんへ6年目のメリークリスマス」


大好きな大好きなサンタさん
今年のクリスマスは
僕が君に素敵な愛をこめたプレゼントをしよう



今日は楽しいクリスマス
僕のお家はたくさん兄弟がいるから
毎年毎年大変さ
プレゼントをもらうにもひとくろう

列をつくって順番待ち
その時がたのしくてしかたない

ママは一人ずつほおにキスしながらこういうのさ
「はい今年一年よくがんばりました。
サンタさんから預かったわよ。メリークリスマス」


でもさ
僕のばんになると
いつもいつも
プレゼントがなくなるの

ごめんねサンタさんたら忘れちゃったみたい
来年皆よりもっといいものをもらえるはずよ ママはいつもそう囁く

ごめんねサンタさんたらまた忘れちゃったみたい
来年皆よりもっともっと本当にいいものをもらえるはずよ ママはいつもそう囁く

そういって毎年この悪夢の日がやってくる

きっと僕はこの家の子じゃないんだ

サンタに気に入ってもらえるように
兄弟の何十倍も勉強をがんばってきたのに
また僕はプレゼントをもらえない
ああこの家の子じゃないからなんだね

1年目はどうして僕だけがと泣くことを覚え
2年目にどうして僕だけがと恨むことを覚え
3年目にとうとう虫を殺すと1年を越せるようになり
4年目にとうとう鳥を殺すと1年を越せるようになり
5年目にとうとう猫を殺すと1年を越せるようになり
僕は僕を保って来た

もうサンタさんなんて
きっといないんじゃないかと気付いてしまうくらいに
僕は大きくなりすぎた

もうすぐ6年目のクリスマスが来る

きっと今年もそうなんだろう

ねえママ

今年は僕がサンタさんに愛をこめたプレゼントをしようと思うんだ

6年分の大きな大きな愛のプレゼントを

ママだけに内緒で教えてあげるから
こっちを振り返っちゃダメだよ

永久に内緒
ママだけに教えてあげる



2011「Aliceの幻想劇場」
「ひとりぼっちの粘土人形」


おうちでひとりぼっちはさびしくて
ふとねんど遊びをはじめたことがはじまりだった

ねんどをこねてお人形作り

ぼくと
ぱぱとままと

おにいちゃんと
おねえちゃんと
ともだちと

ねんどでこしらえる

そのこしらえたねんどのおともだち人形が
とってもさびしいかおにできちゃったから

また
ぱぱとままと

おにいちゃんと
おねえちゃんと
ともだちと

ねんどでこしらえる

またそのこしらえたねんどのおともだち人形が
とってもさびしいかおにできちゃったから

また
ぱぱとままと

おにいちゃんと
おねえちゃんと
ともだちと

ねんどでこしらえる


そしてまたまたそのこしらえたねんどのおともだち人形が
とってもさびしいかおにできちゃったから

また
ぱぱとままと

おにいちゃんと
おねえちゃんと
ともだちと

ねんどでこしらえる




どこまでこしらえれば

さびしいかおの人形はできないのかなと
ふと考えながら

ぼくはひたすら
せっせと人形づくりに没頭する

ああもうそろそろ
ねんどがなくなってしまうでわないか

そう思いながら

ぼくはせっせと粘土の人形づくり

さびしいかおの人形達に囲まれながら
ぼくは粘土をこねつづける



2011「Aliceの幻想劇場」