「空白の終着駅」 | 幻想写真作家 七色アリスの幻想劇場

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「空白の終着駅」



「そこの若い方、貴方はどちらの終着駅まで?」
近くに座っていた老夫婦が話しかけてきた。

「僕ですか?僕はこちらまで」
僕は僕だけのパスを見せた

「ほほぅ。これわこれわ。。。。」



「わしらはずいぶんと長い旅を続けてきてやっと次が終着駅なんじゃ」
「残りの人生をゆっくり楽しもうと思いましてねぇ。」


老夫婦はやさしい顔でほほえんで次の駅でおりていった。

小さく小さく見えなくなるまでずっとずっと手を振ってくれていた。




僕はこの駅にはおりなかった。




僕はやっぱり旅を続けていて
この汽車自体からおりるのはやっぱり不可能なんだろう。


いつも、とてつもなく楽しい場所でも
発車のベルの音が聞こえるし、ちゃんと乗車する。


どうやら悲しいかな僕のこの体はそうプログラムされているらしい。


それはこの汽車に乗っている以上、
そしてこの体をもっている以上、
このパスをもっている以上

幸せでもあり不幸でもあるのだ


さっきの老夫婦を思い出しうらやましくなった。

元気で暮らしているだろうか?



僕はまた、猛スピードでめまぐるしく変わる景色をみながら
ふっと昔の駅を思い出すんだろう



ああきっとそうなのだ



いくつかの駅に下車してきて
僕の手には何一つ残ってないけれど

僕のこの頭に刻み込まれたたくさんの美しいものの数は
きっと誰にも負けない




さあ、また発車のベルがなっている。乗り込むんだ




もしかしたらあるかもしれない
ベルの音が聞こえない、
聞こえてものりこみたくない


自分だけの終着駅を目指して




ぼんやりとまたそんなことを考えていた



そうそう、僕のパスはものすごく珍しいものらしく



終着駅の欄は空白なのだがね



終着駅が
ないのか
自分で書き込めということなのか



そうそう


きっとこれが僕の幸せなのだ



そう自分に言い聞かせて



僕はまた旅を続けるしかないのだ




2011「Aliceの幻想劇場」