S「今週末にあるパウワウというダンスコンテストで優勝すれば、1000ドルの賞金が出る。その賞金をぶんどって、3人で豪遊するぞ」
A「おお、みんなでハワイ旅行にいきましょう。世界一アロハシャツとピナコラーダが似合わないスーを見たい!
ぜひ1000ドルをぶんどるダンスを教えてください!」
S「ならばゴーストダンスの聖地バッドランズにいくぞ」
ラピドシティから1時間車を飛ばすと、スーは牧場のまえで止めた。
A「うわっ、バッファローってこんなに大きかったんだ。牛の2倍くらいあるじゃん」
S「ああ、バッファローは貴重な食糧でもあり、毛皮はテントや服にもなる。そしてもっとも神聖な精霊でもあるのだ」
A「それにしてもうしろの山は、この世の終わりみたいな風景ですね」
天にむかって針のむしろのようにとがった岩山がそそり立ち、悠久の時を刻んできた地層の線がよこに走っている。
S「悪い土地バッドランズ……わしらはマコシカと呼んでいる。この峻厳な岩山には動物も住めない。野兎の死体を探すコンドルくらいじゃ。50万年の歳月をかけて雨と風が刻んできた死の土地だ。
アメリカ政府はわしらの伝統を犯罪とみなし、ダンスを徹底的に取り締まった。祖先たちは死の土地に隠れて死者やバッファローの魂をよみがえらせる幽霊の踊りゴーストダンス踊った」
スーは岩山を登りながらいう。
S「今だからバラすが、おまえとのスエットロッジでわしも意識を失いかけたんじゃ。あんな過酷なスエットロッジは何10年ぶりだからなあ。
もうろうとなったわしにワカンタンカの声が聞こえた。このまま祖先の知恵を封印していたらインディアンも人類も滅ぶ。よそ者であるこいつにすべてを伝えろとな」
はじめてスーの本音を知ったぼくは、岩山のような責任に押しつぶされそうだ。
A「はたしてぼくにそんな資格があるのでしょうか」
S「ワカンタンカの采配を疑うな。着いたぞ」
ぼくが息も絶え絶えにふりかえると、地の果てまでつづくグレートプレインが広がっていた。
A「わあ〜すごいながめ。巨大なバッファローがごま粒ほどに見えますよ」
S「よし、基本の2ステップから教えよう。右へワン・ツー、ワン・ツー。左へワン・ツー、ワン・ツー。
そんなディスコダンスじゃ賞金どころか、笑いもんになるだけじゃ。自分で踊るな。大地のエネルギーや風の動きに身をまかせるんじゃ」
突然、雷鳴が響き、激しい雨が打ちつけてくる。
S「休め、そこの岩陰で雨宿りじゃ」
A「自分のダンスが踊れるようになるまでやめません!」
S「勝手にしろ強情者め。人生とは嵐が過ぎ去るのを待つんじゃない。嵐とともに踊ることを学べ」
ぼくは目を閉じて、雨と風を感じてみる。肩や背中を連打する雨のリズム、風の強弱と角度、横風に身をまかれると、体が螺旋のように旋回する。
雨に打たれて熱で浮かれた幻覚か。岩影が人型になってぬけだしてくる。それもつぎつぎと影が集まってくる。自分の体が操り人形のようにくねくね踊ってる。土砂降りの雨を全身に浴びながらも、踊りを止めることができない。
S「やめろ!」背後から突然の怒鳴り声で正気にかえる。
S「なんじゃ、今の動きは。あの動きはまさにゴースト……祖先の踊りじゃった。わしがまだ子供のころ、じいさんに連れられて秘密の集会で見た動き、この世のものとは思えぬ死者のダンスじゃ。なぜおまえがそれを……
いいか、パウワウは楽しむための祭りじゃ。絶対にそのダンスだけは踊ってはいかんぞ!」
こんなどしゃ降りにもかかわらずイーグルが頭上を旋回している。
S「世界の見方を4つ教えよう。勇者の石で犠牲者から勇者の視点に変えれば世界が変わると教えたじゃろ。
アリの視点、人間の視点、木の視点、イーグルの視点。
この4つの視点を知ることによって、おまえは世界を変えられる。
おまえはボロボロに落ちこんでわしのところにやってきた。世界で自分がいちばん不幸だと、自分のことしか見えない視点。それがアントアイズ。アリの視点じゃ。
おまえは自分にわしらの知恵をさずかる資格がないといった。世間の常識や人の目を気にして挑戦することをあきらめる。それがヒューマンアイズ。人間の視点じゃ。
この岩山からは巨大なバッファローがゴマ粒に見えるといい、世界を高い視点からながめる。それがトゥリーアイズ。木の視点じゃ。
しかしどんなすばらしい知識をもっていても木は動くことも話すこともできない。
イーグルは木よりも高い大空を自由に飛びまわり、獲物をとり、世界に積極的にかかわる。それがイーグルアイズ。神の視点じゃ。
イーグルアイズを獲得するには、おまえのこざかしいエゴや世間の常識でジャッジするな。
正義や善悪を捨てて、人間の愚かさを受け入れろ。
だめで弱くて情けないおまえ自身も、あるがままに愛せ」
7、「イーグルアイズ」
Am E7 G D F C Dm E7
アントアイズはアリの視点だ そう 彼らは世界の姿を知らない
ほら 落ちこんだときは世界を見失う 自分のことしか見えない盲人だ
Am E7 G D F C Dm E7
ヒューマンアイズは人間の視点だ みんな 常識 道徳 他人に縛られる
失敗を恐れ なんにも挑まずに 短い人生が瞬く間に過ぎ去る
Am E7 G D F C Dm E7
トゥリーアイズは木の視点だ ほら 高い位置から世界を見わたせる
深い叡智をたくわえているのだが なんにも語らず 動くこともできない
Am E7 G D F C Dm E7
イーグルアイズは神の視点だ そう はるかな大空 自由にかけめぐる
いいか ジャッジや分析 比較なんか捨てちまえ
世界を見つめる巨大な目になれ
Am F G C Dm E7
Ho hey ho hey! You gotta the Eagle eyes
在るがままに世界を見つめろ
Am F G C Dm E7 F E7 A
Ho hey ho hey! You gotta the Eagle eyes
在るがままにおまえは完璧だ
第7章 パウワウ 4P
ラピドシティの公園には、派手な衣装をつけた子供たちから若者たちが集まり、インディアンジュエリーや伝統衣装を売る店、バッファローステーキやタコス屋までいろんなブースが会場のまわりにならんでる。
白人観光客はもちろん、数百人を超える人々でごったがえしていた。
「おまえは今日1000ドルの卵を産むニワトリじゃ」
ちょっとセクシーなインディアンドレスを着たリリーがぼくの肩をだく。
L「風変わりなファンシー・ダンスや風になびく草のようなグラス・ダンス、男女混合で踊る社交ダンスや部族の英雄の踊りもあるわ。
あんたが出場するのは独創性を競うファンシー・ダンスよ。スーにアロハを着せてやりましょ!」
有名なスーを旧友たちがとりかこむ。
「こいつか、おまえの最後の弟子は!スーともあろう者がこんなちんけな東洋人を選ぶとはな。おっと失礼、あんたがたくさんの焼石を耐えた猛者だってのは誰もが知ってるよ」
A「あの、本番まえにちょっと腹ごしらえしてくるよ」
スーの弟子というだけで注目されるぼくはその場をはなれた。
タコス屋台にむかってかけだした腕を乱暴につかまれる。
赤いカウボーイハットのおやじとチンピラみたいな2人の若者が立ちふさがった。
「アメリカ中のメディスンマン志願者が、イエローモンキーにスーを奪われたっておまえを憎んでるぜ。ちょっとつきあってくんねえか」
でっぷりと腹の出たカウボーイおやじに引っぱられ、人目の届かないテントの裏に連れていかれる。
「俺がスーのもとへ送りだしたこの若者が追いだされ、顔に泥を塗られたぜ。くらえ!」
チンピラにはがいじめにされたぼくの腹にカウボーイおやじのボディーブローがめりこみ、ほほがひしゃげるほど強烈な右フックにぼくはすっ飛ばされる。
芝生に転倒したぼくをチンピラふたりがけりまわす。彼らがはいていたカウボーイブーツのつま先の金具がわき腹に食いこむたびに激痛が走った。ぼくがなぐりかえして乱闘になったらスーが汚名を着せられる。うっ、上腕や太ももにも金属のけりが連打される。全身が痛みで麻痺し、ぼくはボロぞうきんのように打ち捨てられた。
「いいざまだ。もうこれでモンキーダンスは踊れねえだろう」
カウボーイおやじの吐いたつばがぼくの首筋にねっとりとはりついた。
司祭のアナウンスが会場に響く。
「つぎはファンシーダンスです。参加者は入場口へお並びください」
スーはぼくをダンサーたちの最後尾に並ばせる。
S「風も花も木もダンスを踊っている、おまえはおまえのダンスを踊れ!」
退役軍人が入場行進の先頭に立ち、ぼくもダンサーたちとアリーナへ入場行進する。会場全員が起立し大きな拍手で迎えられた。勇壮な大太鼓が鳴り響き、歌い手たちがふりしぼるような高音で歌いだす。
ぼくをけりまわしたチンピラが1メートルもある羽飾りをつけて踊りだした。まるでニワトリがエサを突いてるようなダンスなのに、会場からは大きな拍手が鳴り響いた。
チンピラはぼくをふりかえると、どうだといわんばかりにニヤつく。
「さあ、ファンシーダンスは誰が賞金をゲットするのでしょうか? ラストエントリーは、海外から初参加のジャパニーズ、AKIRA!」
やばい! 殴られた痛みで腕があがらない、足が動かない。尻尾を巻いて棄権すればスーが笑いものになる。
バッドランドでいっしょに踊ってくれた死者たちよ、長い眠りから目覚めよ!
「あっはっは、なんだあのスモウレスラーみたいなステップは!なよなよした踊りはゲイシャガールか!」会場からバカにした笑いが聞こえる。
痛みとともに踊れ。腕を風にゆだねる、上半身がイーグルのように旋回し、腕が翼のように羽ばたきはじめる。
幽霊たちが大地の底からはいだしてきた。見えない影たちがぼくをあやつり、ともに踊りはじめる。
「まさか、あれは葬り去られたゴーストダンスじゃないのか!?」
ぼくの背後に無念の死を遂げた亡霊たちが集まってくるのを感じる。会場からはブーイングと悲鳴があがる。
客席に動揺が走り、観客がざわつきはじめる。目をおおい、耳をふさぐ人までいる。
「気持ち悪い踊りはやめろー!楽しい祭りをだいなしにするつもりか!」
混乱を制するようにスーが立ちあがり、会場を一喝した。
「あれはあなたたちの祖先だ!」
観客たちは息をのんで、地の底からはいでてきた祖先とむきあう。忘れてしまいたい過去、奪われた誇りと連帯、葬ったはずの悔しさと無念、失われた楽園、大地の母は髪を切られ、腹をえぐられ、トラクターにひっかかれた肌が真っ黒いかさぶたにおおわれた。
踊り終えて亡霊は去り、ぼくは芝生に倒れこんだ。
武骨な手が首と膝の裏に伸び、ぼくをだきあげる。
「ふっ、おまえみたいなむこう見ず、見たことないわい」
スーはぼくをだきかかえたまま、ブーイングが降りそそぐ会場を歩いてゆく。預言者モーゼが海をふたつに割ったように人波があとずさる。
「スーも地に落ちたもんだわ、弟子にあんな踊りを許すなんて」
ささやかれる罵詈雑言に見送られ、会場をあとにした。
駐車場にもどると、受賞者の発表が聞こえてきた。もちろんぼくの名前はない。
A「ごめんスー、ハワイへ連れてけなかったね。賞金どころか、完全な敗北だよ」
S「ふっ、なぜおまえが負けたかわかるか」
スーがエンジンをふかしながらふりかえった。
S「おまえが挑んだからじゃ。挑まない者に敗北はない。
負けの少ない人は強い人じゃなく挑まぬ人じゃ。負けの多い人は弱い人じゃなくたくさん挑んだ人じゃ。人は敗北からしか学べん生き物なんじゃよ。負けろ、負けろ、たくさん負けろ。負ければ負けるほど人生は豊かになり、人間はやさしくなれるんじゃよ」
スーがぼくのひたいを人差し指で弾く。
「なあAKIRA……あっぱれな負けっぷりじゃったぞ!」
8、「ハイボクノウタ」カポ2
1、C /B Am /G F G7 C
塾に通う子供たちがホームレスのおじさんを笑う
「ああなったら終わりだね」
切符を買うおばあちゃんに列のうしろで男が叫ぶ
「なにをとろとろやってんだ」
Am Em F E7 Am Em F G7
弱いものに手をさしのべる それがほんとの強さなんだ
敗北の味知るものだけが人を救えるから
C /B Am /G F /E Dm G7
負けろ 負けろ 負けろ 敗れる痛みを知りなさい
負けろ 負けろ 負けろ 失う勇気をもちなさい
傷つく数だけ強くなる やさしい獣よ さあ立ちなさい
第8章 ビジョンクエスト 6P
S「ビジョンクエストはラコタ語でハンブレチアといって、泣いてヴィジョンを求めるという意味じゃ。
ビジョンとはおまえが生まれてきた魂の目的であり、おまえの果たすべき役割じゃ。
人のこない森の奥に4日間ひとりでこもり、飲まず食わずでひたすら祈り、ビジョンを探し求める。すると夢を伝っておまえにメッセージが届けられる。その動物や精霊がおまえの守護霊、トーテムになる。
これから聖地マトパハ山へゆく。
ラコタ族の英雄クレイジーホースがビジョンクエストをおこなった場所だ。4日間おまえは母なる大地に埋葬され、新しいヴィジョンとともに生まれてくるんじゃ」
ぼくたちは山のふもとに車をとめ、スーは州立公園の登山道じゃない道を登っていく。火山のようなごつごつした岩でできていて、低い灌木しか生えていない。
「見ろ、あの崖にある穴こそクレイジーホースがビジョンクエストをおこなった秘密の洞窟じゃ。雨風もしのげるし、危険な野生動物も近づけない。真実のビジョンを求めるにはもってこいの場所じゃ」
頂上に近い岩に穴があいている。龍の口にでものみこまれる気がして身震いした。
ぼくは儀式に必要なものをつめたリュックを背負って崖をよじのぼり、伝説の洞窟にはいずっていった。
「おーいAKIRA。そこに平らになった場所があるじゃろ。タバコをくるんだ76個の布で結界オーサをつくれ。真ん中にチョークチェリーの木を1本立て、イーグルの羽を結べ。そして入口に貝の皿を置いてお供えのスピリットフードをならべ、セージで場を清めろ。
いいか、小便はペットボトルにとっておけ。のどの渇きに耐えられなかったときに飲むんじゃ。4日後の朝、わしが迎えにくるまでは結界のなかから一歩も外にでちゃいかんぞ」
下のほうから太鼓と歌が聴こえてきた。ひとり言のような祈りにぼくは耳を澄ます。
「大いなる精霊よ、あなたが選んでくれたわしの最後の弟子です。わしのレッスンに歯を食いしばってついてきてくれました。まだまだ未熟ですが、やさしく強い心をもっています。
祖先の知恵がもしアメリカで消えても彼によって遠いアジアへ受け継がれていくかもしれません。どうか彼を守り、魂を清め、ビジョンを与えください」
ぼくは洞窟のなかで声を殺して泣いた。どこの馬の骨かわからないガキを拾い、毎日大切なレッスンを惜しみなく与えつくし、我が子のような愛情でつつんでくれるスーに感謝があふれてあふれて、涙が止まらなくなる。
まつ毛をぬぐってのぞくと、もうスーはいない。
暗い洞窟から外をながめると、眼下に森、そのむこうに平原がひろがり、かすかながら人家のようなものも見える。
ぼくはクレージーホースのように英雄でもないし、強くもない。臆病で意気地なしで、ひとりじゃなにもできない淋しがりやだ。
はじめは蓮華座を組んで瞑想していたが、夜が訪れ、忍び寄る孤独と不安に震えだす。
2日目はのどの渇きと空腹が襲いかかってくる。
さらに渇きよりつらいのは孤独だ。
日常は忙しくて思いださない過去の記憶がよみがえってくる。
彼女にフラれた悲しみ、社会の底辺に落ちた絶望感、サンダンスへの恐怖、未来への漠然とした不安などがつぎつぎと襲いかかってくる。
ぼくは自分のことしか考えず、他人にも感謝せず、自分がどう見られているか他人の目におびえ、自分を誰かと比べ、自分で自分を軽蔑し、否定し、責める。人の幸福をねたみ、うらみ、嫉妬する。ぼくが生きているというそれだけで、人を不快にさせている。生まれなきゃよかった。死んだほうがよかった。誰かこのネガティブチェーンを断ち切ってくれ!
3日目にはいると渇きと空腹が麻痺してくる代わりに、現実と想像の境界がまじりあい、幻覚がはじまった。
岩の陰影が人に見えたり、人の顔をした鳥が飛んでいったり、ふと洞窟の奥に人の気配を感じた。
暗闇に目をこらすと、しゃがんだ人影のようなものが浮かびあがった。少年だ。なぜか確信が降ってくる。12歳のクレージーホースだ!
「ふっふっふ、思いっきり絶望すればいい。中途半端な救いなど求めるな。Hit the bottom.どん底に叩きつけられてはじめて思い知る。人が人を100%理解するのは不可能だということを。そして他人を理解できないという絶望を知った者だけが人と自分を許すことができるのだ。おまえの準備ができたようだな。地獄へ落ちろ!」
ぼくが幼いころ、父は酒を飲んでは暴れ、わめき散らしながら母やぼくを殴りつける。父の暴力に耐え切れなくなった母は5歳のぼくを置き去り、1歳になる妹を連れ家をでた。それ以来ぼくは母親に捨てられたというトラウマに苦しめられることになる。
ああ、なぜあんな家族のもとに生まれたのだろう。ぼくがどんなに愛しても、ぼくは捨てられる。ぼくは愛される資格のない人間だ。愛してもらえないなら、はじめから誰も愛さないほうがいい。
ああビジョンどころか、こんなことをしていたらぼくは発狂してしまう!
4日目はずっと雨が降っていた。天から救いの糸を垂らすような白い雨だ。渇きも空腹も感じない。感情が壊死して、嵐のまえの静けさなのかネガティブな記憶の攻撃が不気味におさまっている。
雨音が消えたので外をのぞくと、月明かりに虹がでていた。
「こんな真夜中に虹がでるなんておかしいな」
虹が小刻みに震えだす。待て待て、また幻覚か。虹はゆっくりとくねり、ねじれ、巨大な蛇に変わっていく。虹の蛇だ!
正気にもどるひまさえ与えず、うわっ、こっちへむかってくる!
虹の蛇が洞窟が崩れるような叫びをあげた瞬間、ふわっと翼があらわれた。ぼくは七色に輝くウロコに陶酔し、洞窟の結界へすりよった蛇によじのぼった。蛇は身をひるがえして上昇する。蛇の首をまたいでしがみつき、下界を見ると、ブラックヒルズの森がブロッコリー畑のように小さくなっていく。サウスダコタの暗い大平原にラピドシティやスーフォールズの明かりがまたたいている。
不思議と恐怖はない。どころか蛇を古い友人のように感じる。
蛇「あなたが本当にひとりぼっちかどうか、自分の目でたしかめなさい」
えっ、蛇がしゃべった?ぼくの頭がいに直接響くテレパシックな感覚だ。
虹の蛇はシアトルの明かりを最後に真っ暗な太平洋上を猛スピードで突き進んでいく。あっという間にオアフ島をすぎ、アジア大陸の光が近づいてくる。まぶしいくらい輝く金の龍、日本列島だ!
もっとも明るい東京を北にむかうと、蛇はぼくの実家の庭に降り立った。ぼくらは恐る恐る窓から両親の寝顔をのぞく。
「彼らの夢にはいっていきましょう」虹の蛇がいう。
母は幼いぼくを置きざった罪悪感にさいなまれている。
「ごめんなさい、ごめんなさい、幼いあなたにさびしい思いをさせて」
父も自分自身の弱さを後悔している。
「愛する家族に暴力をふるうなんて、おれは最低の男だ!」
ぼくはずっと被害者というトラウマに悩まされてきたが、もしかするといちばん苦しんでいたのは彼ら自身だったのかもしれない。
ぼくは犠牲者の視点を勇者の視点に移動させてみる。
あの家族から逃れたくて少年時代から独立心を育み、海外へ飛びだした。もし仲のいい家族だったら今のぼくはない。
ぼくがぼくになるためにはどうしてもあの家族が必要だったんだ。
スーと出会うため、ぼくの人生で起こったすべてのできごとが必要だった。ぼくはスーと出会えた今の自分が好きだ。だからぼくは今、ぼくの全人生を肯定する!
蛇「さあ、サウスダコタにもどりましょう」
ぼくは両親に別れを告げて虹の蛇にまたがる。見あげれば天の川が輝いている。ラコタ族は天の川を『魂の道』ワナギ・タチハと呼び、物質世界を去ったあと魂の道をとおって祖先たちの住む国へ帰っていくという。
スーがいっていた。「白人牧師は神を信じないものは地獄へ落ちるなんていうが、偉大な祖先がかわいい子孫をいじめるなんてばかばかしい。死んだ祖先はいつも残された家族を守ってくれるんじゃ」
気がつけば長年背負ってきた肩の重荷がなくなっているではないか。
虹の蛇はまたたく間に大平原へもどり、なつかしいスーのログハウスに降り立った。リリーが明日もどるぼくのために鹿肉のシチューとコーンブレッドを準備している。
食欲が急によみがえり、グウーっとお腹が鳴った。
「あら何かしら今の音?まるでAKIRAが帰ってきたように感じたんだけど」
スーがいないと思ったら、森のほうから太鼓の音が聴こえてくる。マジかよ、スーはこんな夜中に森をとりかこむ2キロのメディスンサークル(聖なる輪)をハンドドラムをたたきながらぼくのために祈ってくれているのか。
ぼくはスーの愛情に胸がはち切れそうになる。
「大いなる精霊よ、どうかAKIRAにビジョンを与えてください。すべてのつながるものに祈ります。ほおうぅぅぅー、ミタクェオヤシン」
9、「ミタクオヤシン」
C A7 Dm Fm C G7 F C
この世界が滅んでも声からして歌うから
ひとりぼっちじゃないときみのために歌うから
C /B Am /G F /E Dm G7
あなたが花をながめるとき 花もあなたを見つめている
あなたが鳥の歌を聴くと 鳥もあなたに耳を澄ます
Gm A7 Dm Fm G7 Cm E♭m F7 B♭ D7 G7
ミタクオヤシン すべてのつながるものへ
7つの世代を越えて夢を伝えていこう
C A7 Dm Fm C G7 F C
この世界が滅んでも声からして歌うから
ひとりぼっちじゃないときみのために歌うから
なんど傷ついたってどんな馬鹿にされたって
ひとりぼっちじゃないときみのために歌うから
きみのために歌うからX2 CM7
第9章 サンダンス 5P
4日間のビジョンクエストが終わり、スーがビジョンを読み解いてくれた。
S「なるほど、虹色の蛇がおまえを家族と和解させてくれたのか。
どうやらおまえの使命は、異なるものを虹でつなぎ、和解させる『ピースメイカー』、つまり調停者じゃな。
おまえの守護精霊とインディアンネームは、虹の蛇、レインボー・サーペントじゃ!」
サンダンスでもおまえを守ってくれるはずじゃ。さあ、泣いても笑っても最後の卒業式じゃぞ。
このサンダンスのあと、おまえはこの家をでる。
わしは祖先たちから学んできた知恵をすべておまえに伝えたつもりじゃ。もう思い残すことはない。生きている痛みを思いっきり楽しめ!」
ついに運命の4日間がはじまった。
真夏とはいえ朝晩は15度くらいに冷えこむ。
12人の踊り手たちは暗いうちからスエットロッジで身を清め、日の出とともに東のゲートから円形会場にはいる。
スーは儀式の司祭を10年ぶりに引き受けた。スーの弟子というぼくの甘えを断ち切り、ひとりのサンダンサーとして参加させるための決断だ。
部族長がスーに拡声器をわたした。
「ミタクェオヤシン、わたしが今回の司祭を務めるスーだ」
若い参加者がざわつく。すでに伝説となった人物が司祭を務めることを知り、ただならぬ責任を再認識しているようだ。
「勇敢なる太陽の踊り手たちよ。サンダンスは『ウィンワンヤンク・ワチピ』、太陽を見つめる踊りという意味じゃ。きみたちがおこなったビジョンクエストは個人のビジョンを求める祈りだった。しかしサンダンスは大いなる精霊ワカンタンカと祖先、そして部族全体にささげる祈りじゃ。
だいじょうぶだ。きみたちならできる。『オワキヘ!』」
スーに勇気づけられたダンサーが全員で叫んだ。
「ぼくならできる『オワキヘ!』」
ダンサーの最年少は15歳のチャイトン、最年長は41歳のマトスカなど合計12名だ。
直径20メートルほどの円形会場には、世界の中心をあらわす高さ5メートルほどのチャン・ワカンと呼ばれる精霊の木がそびえ、赤いタバコタイの帯がそよぐ姿は感動的だ。
勇壮な太鼓とともに年長者と女性たちが高音で歌いだす。
「ワカンタンカ・ウンシマライェ(大いなる精霊よ、慈悲を恵みたまえ)」
ダンサーは上半身裸で赤い腰巻を巻き、首に赤いタバコタイの帯をさげ、頭と手首にセージの輪をはめ、ツーステップで踊りはじめた。
これから4日間、朝夕のスエットロッジをおこない、一滴の水も食事も禁止され、日の出から日没まで太陽にあぶられながら毎日12時間も踊りつづける。
ダンサーたちがイーグルの骨でできた笛を吹きながら踊っていると、上空をイーグルが旋回しはじめた。イーグルがやってくることは大いなる精霊に祝福されたという吉兆を意味する。
8月のようしゃない日差しがダンサーをあぶりつづける。日中は35度を超えていた。しかもサウスダコタの夏は乾燥している。
1日目に15歳のチャイトンが倒れた。日陰に運びこまれるが、セージに浸した水が数滴、口に落とされただけだ。
30分ほどで会場にもどったチャイトンは雷鳴のような拍手で迎えいれられた。
2日目には41歳のマトスカがよろけて足をくじき、待機している救護車で病院に運ばれる。
マトスカもまたギプス姿で踊りに復帰した。
命がけな儀式なだけに介護係や救急係もきちんと用意されている。
インディアン社会の特徴は、弱いものを大切にすることだ。
いっしょに暮らしていると、彼らは未開どころか、高度に洗練され、自然の理にかなった生き方をしていることがわかる。
助け合い、支え合い、敬いあい、みんなでひとつの命を生きているのだ。
3日目にはぼくも体力の限界に達していた。
ぼくはもう踊るどころかふらふらと立っているのがやっとだ。倒れたい、このまま意識を失い、なにもかも投げだして大地にだかれて眠りたい。
スーにすがりつくような視線を投げかける。もういいでしょ、ここまでがんばったでしょ。あなたが選んだ弟子は根性なしの弱虫です。
何度もよろけ、つまずき、もうだめだというとき、ぼくは祖先が見ているというイーグルを見あげた。すると一滴のしずくがほほを打つ。
うおぉぉぉー祝福の雨だ!なんという歓喜、歓喜、歓喜。ダンサーたちは天をみあげ、口をはり裂けんばかりに開き、祝福の雨を全身で味わう。干ばつにしおれた草が生き返るようにダンサーたちは目を合わせ、うなずき、生命力をとりもどしていくのがわかる。
この雨がなければぼくは確実に倒れていただろう。
あのときスーがいった言葉、「世界は鏡でできている」。
人間と自然が響き合っていることを極限状態で思い知らされた。
最終日、ダンサーたちはひとりの脱落者もなく、渾身の力をふり絞って踊りきる。
祭りのハイライトである最後の苦行がはじまった。
ぼくはスーの待つ精霊の木へとふらふらの足どりで歩いていく。
S「しゃべるな。おまえの気持ちは痛いほどわかっている」
スーはぼくの胸肉をぐいっとつまみあげ、先をとがらせたイーグルの爪を刺した。「うううっ」、とてつもない激痛に歯を食いしばって耐える。ぐいぐい回転させながら爪を押しこまれるたびに鈍い痛みが全身にひろがっていく。ぷちんと、反対側の皮がやぶれ、爪が貫通した。あざやかな鮮血が腹を伝って赤い腰巻を黒く染めていく。バッファローの革ひもで木から吊ったロープとつながれる。
スーの顔がぼやけ、ブレ、父と母の顔が重なっていく。彼らは痛みをとおしてぼくに大切なことを教えてくれた。それを今全身で理解した!
母よ、あなたが産んでくれたからこの命を感じられる。
父よ、あなたが育ててくれたからこの痛みを感じられる。
今こそトラウマを引きちぎるときだ。ぼくは精霊の木へ感謝の祈りをささげると、バッファローのように大地をけり、全身全霊でうしろむきに走りだす!
「ありがとうーーーー!」
日本語の絶叫とともに、胸の皮がぶっちぎれる。うしろむきに吹き飛ばされ、ドスンとやわらかい岩にぶつかり、樹木のような腕でだきとめられた。
スーだ。いつもぼくのうしろにはスーがいた。岩山で夕日をながめたときも、草原で風に吹かれたときも、バッドランドで雨に打たれたときも、ひとりで洞窟にこもっていたときでさえ、スーがいてくれた。ぼくはスーの想いにずっと守られてきたんだ。
「最後までよくがんばった。おまえはわしの誇りじゃ」
ぼくは赤ん坊のように顔をくしゃくしゃにして泣きだした。
「がんばれたのはぜんぶスーのおかげなんだよう、スーに恥をかかせたくなかったんだよう、スーの誇りになりたかったんだよう」
スーはうしろからぼくをぎゅうとだきしめてくれた。
「わしの仕事は終わった。おまえはわしであり、わしはおまえ、世界そのものじゃ」
10、ウレシパモシリ
C G Am F C G F Fm C
わたしは大地 わたしは大空 わたしは月 わたしは太陽
わたしは花 わたしは鳥 そしてわたしはあなた
1
ふたつの道を目の前にして 自分自身が迷ったときは
道ばたの石をめくってごらん そこにわたしがいるから
自分で積んだ不幸の壁に 閉じこめられておびえる夜は
星を見あげて話してごらん そこにわたしがいるから
Am Em F E7 G7
わたしとあなた へだててる線が消えてく
わたしたち 同じ愛から生まれたの
わたしは大地 わたしは大空 わたしは月 わたしは太陽
わたしは花 わたしは鳥 そしてわたしはあなた
わたしは涙 わたしは笑顔 わたしは孤独 わたしは怒り
わたしは許しわたしは祈り そしてわたしはあなた
わたしは試練 わたしは学び わたしは光 わたしは命
わたしは愛 わたしは神 そしてわたしはあなた
第10章 別れ 2P
4ヶ月お世話になった家を出るぼくの荷造りをリリーは手伝いながら、スーが寝室で着替えている間に耳打ちする。
L「スーはサンダンスの4日間で寿命が10年くらい縮んだんじゃないの。あんたの足がふらつくたびに飛びだしていきそうになるのをあたしが何度も押さえつけたのよ。もう小学生の運動会じゃないんだから。
毎晩家に帰ってからもあーでもないこーでもないってあんたのことばっかり話しつづけてるし、AKIRAが断食してるあいだはわしも食わないって、自分も断食してたのよ。あら、もどってきた。今のはないしょね」
S「準備はできたか」
ぼくはきたときと同じバックパックに荷物をつめ、スーに教えられたストーキングの掟どおり痕跡を残さないように掃除を終えた。
A「永遠に住みつきたいけど、またニューヨークにもどります」
S「おっと、おまえにスー大学メディスンマン学科修士課程の卒業証書をわたそう」
スーの知恵がぜんぶつまってるというタバコの革袋だ。赤石の火受けがついた子牛の骨のパイプと厳選した薬草のスーブレンドがつまっている。
「ええっ、だってこれ、スーの宝物でしょ」
「大事なものほど人にあげろってポトラッチで教えたじゃろ。わしは今日から禁煙する」
「ぷっ、絶対うそ」リリーが吹きだす。
スーとリリーがラピドシティのバス・ディーポ(ターミナル)まで送ってくれる。
リリーはぼくの足が地面からはなれるほどハグしてくれる。
L「いつでもコーンブレッドを食べに帰ってらっしゃい。人類が滅亡してもあたしのレストランは開いてるわよ」
スーの野太い腕にだきしめられる。スーに感謝の言葉を告げようとしたが、ダメだ。「サンキュー」じゃあまりにもたりない。
S「なにもいうな。おまえの気持ちはわしがいちばんわかってる。
わしの人生最後の弟子よ。知識は過去、知恵は未来じゃ。わしの伝えた知識の上に自分の体験を重ねて知恵にしていきなさい。
わしの未来の弟子たちをたのんだぞ。大切なことを学んだら、つぎはそれを人に教えることを学ばねばならない。
最後に世界一美しい別れの言葉を教えよう。
ウーニッシュ。美しいままでいてくださいという意味じゃ。
わしと会ってるときもおまえは美しかった。だから別れたあとも美しいままでいておくれ」
ぼくは彼らの見える席にのりこみ、ガラス窓に顔を押しつけ、彼らを笑わせる。バスが走りだし、彼らが視界から消えた瞬間、思わず最高部座席にダッシュしてうしろの窓から手をふる。
満面の笑顔で手をふるリリーが泣き崩れるのをスーがだき起す姿が遠ざかっていく。ふたりのシルエットがお人形のように縮んでいき、小さな点になって、……消えていった。
つきせぬ泉のごとく湧いてくる感謝を胸に、ぼくは目のまえにつづく道を見すえた。
11、彼岸桜
1 、G D Em Bm C G Am7 D7
あなたにもらった愛情にわたしはなにを返せただろう
G D B7 Em Bm C G Am7 D7 G
こごえるひな鳥つつむように ぬくめてくれた深い愛
悲しい時には肩をだき 迷う時には(背)中を押す
どんなに世界が変わっても あなたへの感謝は変わらない B7
Em Bm7 Am7 D7 G C G Am B7
彼岸桜がきよく散ってゆくのは 命をつぎに手わたすため
Em Bm7 Am7 D7 G Am Bm F#7 B7 D7
またねって手を振る最後のうしろ姿も 桜吹雪がかき消してゆく
G D Em Bm C G C D7
さくらさくら キラキラ輝け 命いっぱい咲き誇れ
冬を忍んだものたちに喜びの春が贈られる
さくらさくら ハラハラ舞い散れ もっときれいに咲くために
涙の落ち葉で人生は豊かに花開くC G D7
G D Em Bm C G Am7 D7
あなたに笑われないように 涙ぬぐって歩きだそう
どんなに心が曇っても あなたはわたしの日の光
第11章 スーの死 2P
スーのライフレッスンから1年後、ぼくはニューヨークアカデミーという美術学校にかよっていた。現代アートの巨匠アンディ・ウォーホルから奨学金をもらい、アーティストとしての道を歩みはじめたんだ。
スーの息子ポキュから突然電話があった。
「スーが倒れた。あんたの名前を何度もつぶいやいている」
ぼくは急いでグレイハウンドバスにのりこんだ。
スーのライフレッスンによってぼくの人生は変わった。
「ミタクェオヤシン」(私とつながるすべてのものに感謝します)
本当にすべてはつながっていた。自分を愛することができるようになると、ぼくを生んでくれた親、ぼくを支えてくれる仲間たち、ときにぼくを批判する人たちまで愛おしくなる。道ばたの花や街路樹、蝶や鳥にまで「ぼくはここにいるよ」とつい話しかけてしまう。
スーのレッスンのおかげで、自分をとりかこむ世界そのものが愛おしくて愛おしくてたまらなくなったんだ。
ぼくがかつて住んだスーのログハウスにかけつけると、わずかの間に年老いたリリーがかけよってきてだきしめてくれる。
「おかえり、かわいい息子よ。スーはうわごとのようにあんたを呼んでいたよ」
ポキュのバーベキューで会った親族たちが集まっていた。
ぼくはベッドにかけより、スーの骨ばった手をにぎった。
「スー、AKIRAです。あなたの最後の弟子です」
スーはゆっくりとやせこけた顔をこちらにむけると、唇の両端があがっていき、なつかしい微笑みがよみがえる。
「ああAKIRAか、わしの体は老朽化したんでおまえの心に引っ越すことにしたよ。同居人を喜ばせたいなら、いっぱい笑え、いっぱい愛せ、人生という果実を味わいつくせ。
おまえに最後のレッスンを授けたくて、天国へいくのをしぶっておったんじゃ」
「はい、最後のレッスンを伝えてください!」
「最初のスエットロッジで人間を愚かなまま信じろっていったじゃろ。わしもおまえも生きている人間はみんな愚かじゃ。だから少しでも幸せになろうとそれぞれの道を選び、みんな必死で生きておる。必死で生きてない人間なんかひとりもおらん。
だからおまえの一生をかけて、おまえが出会うすべての人にこのひと言を伝えていってほしいんじゃ。
アタニキリ!(Atanikili)あなたはすばらしい! とな。
泣いている人も、落ちこんでる人も、自分を責めている人も、病気の人も、障がいをもっている人も、お金のない人も、家のない人も、おまえを憎む人も、敵対する人も、罪を犯した人すらも、命あるものすべての人はすばらしい勇者なのじゃ。
それがわしの最後のレッスン、最後の弟子への最後の遺言じゃ。いってみろ」
ぼくはスーの胸に顔をうずめてだきしめた。ごつごつした肋骨から衰えていく鼓動が伝わってくる。
ぼくはありったけの感謝をこめてスーに叫んだ。
「スー、アタニキリーー!」(スー、あなたはすばらしい!)
スーは満足げに微笑みながらまぶたをゆっくりと閉じる。
その日の夕方、スーは魂の道である天の川をとおって祖先の国へ旅立っていった。
12、「今日は死ぬのにもってこいの日だ」
C E7 Am /G F Dm G7
おまえが生まれるとき 世界は笑い おまえは泣く
おまえが死ぬとき 世界は泣き おまえは笑う
C C7 Am /G F Fm C
Today is a very good day to die
愛する子供たちよ 旅立ちの時がきた
Today is a very good day to die
父なる太陽と母の大地へ返る E7
Am F G7 C E7 Am F D7 G7
What a peaceful mind 空は澄みわたり
What a beautiful world 風が歌いだす
さよならなんていらない
いつか帰ってくる ここへ帰ってくる
さよならなんていらない
また憎み合うために また愛し合うために
今日は死ぬのにもってこいの日だ
生まれ変わるのにもってこいの日だ
第12章 受け継がれる教え 2P
ぼくは日本に帰国してからスーの教えを『勇者の石』という歌にしてライブで伝えつづけてきた。
ある日、『勇者の石』を聴いた障がいをもつ子供のお母さんが泣きながらステージにかけよってくる。
「私たちはずっと自分を運命や社会の犠牲者だと思ってきました。でも本当は、勇者だったんですね!」
翌年、その子が入院している病院でボランティアライブをおこなうと、お母さんは別人のように自信にあふれ、こういった。
「私は障害をもつ娘を誇りに思います。そしてこんなすばらしい勇者を生んだ私も勇者なんだと思えるようになりました」
子供の障がいという現実はなにひとつ変わらないが、現実を見る視点が『犠牲者』から『勇者』に変わっただけで、世界はみずみずしい輝きをもって立ちあらわれてくる。
そのお母さんは今、全国から講演に呼ばれ、『勇者の石』の話を伝えている。
スーから授かった『勇者の石』という教えは波紋のようにひろがっていき、スーが亡くなってから30年の月日がたった2017年、『勇者の日』が日本記念日協会から正式認定を受け11月11日に制定された。
テレビやネットの「今日は何の日?」というコーナーで『勇者の日』が紹介されるようになったのだ。以来毎年全国で『勇者の祭典』が開かれている。
今年は10年目の勇者の日は、11月7日土曜日埼玉県草加市アコスホールで祝われる。
毎年ぼくも出演するので北陸や前からお越しください。
『勇者』というのは、障がいや心の病、病気やケガ、地震や災害など、それぞれの『試練を越えてきた人』だ。
世の中に試練をくぐらない人は誰ひとりいない。つまり生きてる人全員、そしてあなたが勇者なんだ!
『勇者の日』は、ひとりひとりが「あの試練があったから今の自分がある」と感謝し、自分自身を勇者としてだきしめる記念日になる。
障がい者だけでなく、すべての人がちがいを認め、たがいを讃え、この青い惑星でともに生きていく『家族』であると知る日なんだ。
スーはこの世を去ったが、そのメッセージは『勇者の石』として世界にひろまっていくだろう。
このオペラを聞いてしまったあなたもスーの弟子です。
おそらくスーは天国でピースパイプをくゆらしながら、あなたにこう言うでしょう。
「おまえが大切なことを学んだら、つぎはそれを人に教えることを学ばねばならない」
あなたの愛する家族に、悩んでいる仲間にスーの知恵を伝えていってください。
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メッセンジャー:杉山明