無から有、有から無
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きらめく (坊津)
世界はときめき、きらめいていた。
深紅のデイゴの花は、ギラギラぎらつく陽射しにワインレッドの光を解き放っていた。
デイゴの深緑の葉を、キラキラ逆光で若草のみずみずしいグラスグリーン色にし、海岸道路の端でデイゴの葉の短い影もユラユラゆれていた。
昼3時過ぎ陽はまだ高い。
目的は鹿児島県坊津(ぼうのつ)からの風景と夕日。
日本三大砂丘の一つ、50kmにおよぶ真白い砂、ウミガメの産卵でも知られ、壮麗な青き松林の続く日本一長い『吹上浜』を爽快に過ぎ、万之瀬川を渡った。
そこは小泉前首相の父の出身地でもあり、万世特攻平和記念館の近くのサンセットブリッジを見た後、267号線を南下し笠沙(かささ)に向かった。
『笠沙』は『古事記』にも書かれ、黒潮と対馬海流がぶつかりさまざまな魚を運び聖徳太子の時代から漁村として栄えた。
笠沙からは東シナ海を泳ぐ鯨が見られ「クジラ・イルカ・ウォチング」の船も出ている。
笠沙は海風の楽園とも言われ、快い潮風が夏の暑さを忘れさせ、宿泊施設もある笠沙恵比寿を過ぎ、全国から小学生を受け入れる「クジラ・イルカ里親制度」のある笠沙小学校も通り過ぎてすぐの野間岬では風力発電の風車が10基悠然とまわっていた。
風車を後にし,細く曲がりくねった坂道、ワインディングロードを登ると笠沙美術館があり駐車場に車を止めた。
美術館は5時をすぎ閉館していたが、そこからの東シナ海の眺めは絶景であった。
急峻な山から夕暮れ時はラピスラズリ、ルリ色の海にビロウ椰子におおわれ、ビロウ島とも呼ばれる沖秋目島が神秘的な姿を横たえていた。
イギリス映画『007』シリーズ、初代ジェームスボンド・ショーンコネリー、丹波哲郎の出演した「007は二度死ぬ」の撮影地に、この沖秋目島や坊津が選ばれたのが疑問であったが見ると理解できる。
この島の探検にはシーカヤックで、また釣りのポイントでもありイサキ、イシダイが釣れる。
笠沙から珍しい形の岩、立神岩のある枕崎の50kmにおよぶリアス式海岸で断崖絶壁を貫く226号線。
アップダウンの連続、5つ以上ある入り江に岬、それに続く奇岩、岩礁、道幅は狭いが行きかう車2台にバイク1台だけの軽快、爽快な走行、木々の隙間より木漏れ日のように紺碧の海、近くの無人島、遠くかすむ島影と薄きかすかな白い雲が見え隠れし、ひと夏の生をこれ以上ない声で謳歌するセミの鳴き声は透き通る蒼い空に広がっていった。
入り江沿い降りると風光明媚な景色とともに、どこか懐かしい音のゆらぎ潮騒とサンゴに戯れ泳ぐ熱帯魚のエメラルドグリーンの海の上を吹いて来る潮風は、ほほなで薫り癒し、プライベートビーチのような海水浴場のやしの葉をゆらし、深き山へ黄昏時に帰る最後の小鳥のさえずりも心地よいテンポで運びさって行った。
中学の教科書に書かれている、聖武天皇に招かれ6度目に盲目となるも坊津の秋目に上陸し唐招提寺を建立した鑑真の記念館を過ぎ、山田洋次監督『寅さん』シリーズ「寅さん真実一路」の撮影地、丸木浜も過ぎ、もうひとつの目的地、坊津の「坊の浦」、江戸時代の浮世絵師、安藤(歌川)広重の描いた『坊の浦、双剣石の図』の場所へ急いだ。
双剣石は27mと21mの荒削りの岩が海に2つ鋭い剣のように突き出しているのでこの名がついたと言う。
急ぎデジカメで撮った。足元にはコバルトブルーの熱帯魚と思われる魚が泳いでいた。
今から2000年前のローマの詩人ホラチウスの言葉「今日を楽しめ、明日を信用するな」は『今日のバラを摘みとれ、明日は信用するな』が正しいらしい。
双剣石を撮った後、引き返し秋目の荘厳で秀麗な夕日を見ることができた。
この日は満月であることを知っていた。
帰り道、すべてを見守るように輝き、車を走らせるとどこまでも付き添ってくれた。
星振るような小高い丘で車を止め夜空を見上げた。
白鳥座は天空を舞い、星たちはいっせいにきらめいた。