大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(12)放送学科長 岩崎富士男さん
2009.05.17 大阪朝刊 21頁 大阪総合 写有 (全1,804字) 

 ◆言葉をど真ん中に置こう

 あれは女優、オードリー・ヘプバーンへのラブコールだったんですよ。昭和48年に私が作詞したテレビアニメ「キューティーハニー」の主題歌です。若いみなさんには歌手、倖田來未が歌ったカバー曲の歌詞といったほうがわかりやすいでしょう。

 「この頃はやりの女の子 お尻の小さな女の子 こっちを向いてよハニー…」。当時、私は広告代理店で働いていて、CMソングをたくさん作っていました。あるとき、オードリー・ヘプバーンを起用してCMを制作することになりました。そこでできたのがこのフレーズでした。

 実際のCMでは、私の作った別の案が採用されましたが、友人の音楽プロデューサーがこのフレーズをとても気に入り、新作アニメの主題歌として使いたいといってきたので、「キューティーハニー」の歌詞が誕生したのです。そのとき、友人に詞をあげてしまったので印税は一切もらっていません。かっこいいでしょ。(笑)

 「キューティーハニー」の原作者は永井豪教授です。今は同じ大阪芸大で教えている仲だけに不思議な出会いを感じます。

 《新緑に彩られた大阪芸大キャンパス。岩崎さんの授業は放送学科の3年生約35人が受講し、広告を「見る側」から「作る側」としてとらえる》

 なにか新しいことを表現するとき、言葉を心のど真ん中に置いてみてください。そうすると、「なにを作りたいか」「どう伝えたいか」がはっきりします。芸大生だからといって、とりあえず絵を描いたり、石を削ったりするのではなく、まず言葉で自分の考えを確たるものにしてください。

 たとえば大阪芸大を一言でいうならば、どんなキーワードが浮かびますか? 思いついてごらん。「えっ、未完成」。うん、いい言葉ですね。

 完成に向かって努力しているが、いまだに到着しない…。つまり大学全体が「未完成」ということは、完成を目指して学生も教師も大学運営までもたくさんの提案を出し合っていこうという姿勢が見えます。

 毎日が提案、毎日が創造、毎日が芸術、そしてそれが永遠に完成しない。しかし、想像力がある限り、時代と一緒に変化していく大学ということになるかな? ほら、言葉で考えるとこんな風にイメージが膨らんでくるでしょ。

 《授業では「コピー100本」などの課題を学生に与える。優秀作には岩崎さん特注の鉛筆1本が進呈される。鉛筆には「この表現は芯(しん)が通っている」などと、しゃれた言葉が刻まれている。5本そろえば岩崎さんとランチができるなどの特典があり、学生は課題と積極的に取り組む》

 広告のアイデアを作る際に大切なのは、しっかり商品を見つめることです。商品はみなさんの生活の役に立とうと思って、けなげに生まれてきているのです。それを発見してあげることです。アイデアとは作るものではなく、発見するものなのです。

 《学科長を務める放送学科は、岩崎さんが専門の「広告」、それに「制作」「アナウンス」の3コースから成る。2年生からコースに分かれて学ぶが、他のコースとも連携を保ちながら現場で通用する技術を養い、社会人としてのセンスも磨く》

 日ごろ、みなさんに「コピーを100本書きなさい」などというのは、物事を全方位で見ることのできる力をつけなさいという意味です。書いて書いて一晩中書いて、もうだめだというところまで書き尽くすと、明け方にふっと神様からすてきなコピーを授かるのです。それはすべてのアイデアにいえます。余分なものをそぎ落とした簡潔なものです。

 不思議なことに、普通の言葉を使っているのに普通じゃないことがいえるのです。つまり、コピーライターとかCMプランナーとかデザイナーという仕事は「たくさん考えているくせに、ちっとも考えていないふりをすること」です。それは芸術作品全体にもいえることかもしれませんね。

 (三宅統二)

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 【プロフィル】岩崎富士男

 いわさき・ふじお クリエイティブディレクター。パナソニック「光のメニュー」をはじめ、数々のヒット作品を制作。カンヌ国際広告フェスティバルグランプリなど多くの賞を受け、国際的にも高い評価を得ている。ペンネーム「クロード・Q」として「キューティーハニー」の主題歌を作詞するなど活動の幅は広い。平成12年4月から大阪芸大教授。16年4月に放送学科長に就任。18年4月から同大図書館長も兼務。

 撮影・甘利慈

産経新聞社

大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(11)写真学科長 織作峰子さん
2009.04.12 大阪朝刊 25頁 大阪総合 写有 (全1,624字) 

 ◆想像力を日々鍛える

 人の顔というのはその人の性格とか、考え方とか、環境とかによって大きく変わっていきます。顔は人の生きざまといっていいくらいのものなのです。だから顔を撮るっていうことは、1枚撮って「これがこの人のすべてです」と表現できたらベストだけど、それは簡単ではないし、それを追求していくことに、写真をやっている意味があるんです。

 そういう意味で、人物だとか風景だとか、自分の好きなことを見つけるのは大切で、好きなこと、自分に合っていることが分かってくると、それをどんどん追求していってほしいんです。でも、ときとして、わざとそれから離れることも大事。自分が好きなものを探すために、あえて違うテーマに挑戦するのも必要なことなんですね。

 《織作さんが学科長を務める写真学科では、多様な写真表現についての理論と技術を勉強したあと、芸術写真、報道写真、広告写真など、それぞれが興味ある専門分野について、さらに高度な技術と知識の習得を目指す。3、4年生を中心に教えている織作さんは、「写真の撮り方はもちろんですが、常識だとか礼儀だとか、社会を徐々に意識させることも大切にしています」と話す》

 ひとつのテーマをやるって、楽しくなったりしんどくなったりします。人生と一緒ですね。でもずーっとやっていくと、ぱっと何かが見えたりとか、いつか何かの形でいいものが出てくるとかいう可能性を秘めているんです。それはもう、とにかく撮っていって、その都度、作品を見ながら感じていくしかないのです。

 それで、この写真を見ていて、見た人の記憶に残像とかが残らないと思う。どこかで見た写真だ、どこかで見たパターンだっていう気がするのね。どんどん撮っていきながら、その中で「ここが違う」というのを何か見つけていけたらいいですね。

 《織作さんのゼミでは、学生たちそれぞれのテーマに応じて個々に指導するのが中心となる。この日の授業も、1人ずつ学生たちが撮影してきた写真を見て織作さんが評価し、今後の方向性や心構えなどについて指南。他の学生たちも、そのやりとりを聞いて参考にしている。1人の少女に絞って撮影を続けている学生に対し、織作さんはその撮影場所についてアドバイスを送りながら、日々の心構えについて語り始めた》

 家と公園とにくくられすぎちゃっているところがあるので、もう少し、海辺とか、少し遠出してみたらどうかな。女の子の気持ちが解きほぐれるところがいいね。でもね、それは日々、生活の中で見ていないといけないんですね。

 みんなも、例えば、学校に来るバスや電車の中で外の風景を観察して、ここでこういうふうに撮ったら、夕方だったら、朝だったらこんなふうに見えるのかなっていうのを日々考えてほしいの。そういう感覚を持っているかいないかで、空想力とか想像力とかが全然変わってきます。

 そうした訓練をしておかないと、いろいろなところでアイデアが浮かばなくなるんです。例えば、プロのカメラマンになったとすると、「今日はだれそれさんの撮影です。場所はここしかありません」ということがほとんどなの。そうしたら、空想力、想像力がないとできないのね。つまらない場所を夢のような空間に変えるのも感覚と感性。だから、日々の訓練で、この場所に人を立たせたときに、どこからどういう角度でどうライティングして、どういうふうに背景を片づけて何を持ってきて…というのを、いろんな場所で想像するのが大事。それを繰り返すと写真が撮りやすくなるので、日々鍛えてくださいね。

 (山口淳也)

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 【プロフィル】織作峰子

 おりさく・みねこ 写真家。ミス・ユニバース日本代表として活動していたときに写真家の大竹省二氏に影響を受け、大竹氏のもとで学んだあと独立。国内外で写真展を開く一方、講演活動なども行う。平成18年4月に大阪芸大写真学科教授となり、19年4月から学科長。

 撮影・桐山弘太

産経新聞社

大阪芸大発 著名人教員の紙上講義】(10)音楽学科教授 MALTAさん
2009.04.05 大阪朝刊 23頁 大阪総合 写有 (全1,609字) 

 ◆「好き」を続けて生きていく

 音楽が持っているエネルギーってすごいんですよ。音楽で人が元気になれます。たとえ壁にぶつかっても音楽があれば乗り越えられます。音楽は人間が動き出せるだけのパワーを持っているのです。だから私は音楽の持つすばらしさを伝えたいのです。

 《人気サックス奏者のMALTAさんだが、大阪芸大教授としては別の顔をのぞかせる。「いい音楽家を世界に送り出すのが使命」と力説。1年次の学生を対象にしたスタジオでの個人レッスンでは、「音楽は世界共通のメディア」と語りかける。「ミュージシャンとしては職人芸を披露し、ファンを魅了したい」と話すが、キャンパス内ではその思いを封印する。「ただ、音楽に対する気持ちは教授であってもミュージシャンでも同じ。熱く打ち込むこと」と断言する》

 サックスはいかに、いい音を出すかにかかっています。聴く人を感動させる音を出すことが求められます。そのためにはまずドレミが正しくリズムよく吹けることが求められます。さらに、人の心に響くメロディーが演奏できるよう楽器をマスターしなければなりません。

 お客さんにあの音をもう一度聴きたいと思ってもらうためには、あきることなく練習をしましょう。学生のあなたのように10代だったら1日8時間以上練習しても疲れないでしょう。私が10代のころは、もっと吹いていました。体力が続く限り、練習に励んでください。基礎をつくるにはそれしかありません。

 《授業はここから、口にあてて息を吹き込む管楽器の部品「マウスピース」の説明に入る。複数のマウスピースを学生に使ってもらい、その学生に適したマウスピースを選ぶ》

 あのマウスピースとこのマウスピース、自分で実際に吹いてみてどちらが吹きやすかったかな? このマウスピースは音質的にはよかったけれど、力が余分に要る労力があるように思えました。どうでしたか。何時間吹いても疲れないマウスピースのほうがいいと思いますよ。楽しく吹けるマウスピースなら、「さあ演奏するぞ」というやる気が持続しますからね。

 マウスピースの選び方ひとつとっても勉強になるでしょう。そうしたことが芸大に入った意義にもつながります。何に打ち込んだら楽しいのかということが徐々に分かってくるはずです。あなたの能力を見抜き、助言するのがわれわれ教える立場の人たちです。あなたは、そうしたアドバイスを受け、一芸に秀でることを目指してください。

 《音楽学科では演奏技法のほか、音楽理論やオリジナル曲の創作、アレンジの仕方なども指導。演奏系のアーティストだけではなく、作曲家、プロデューサー、音楽ライターといった音楽系の仕事に就く人の養成にも力を入れている》

 音楽をとことん好きになる情熱を培ってほしいですね。ただ好きになるという思いだけでなく、「好きこそものの上手なれ」が原点であるべきです。好きが継続になり、生きるための道になれば私はうれしいですね。

 音楽が本当に好きになり、続けていく。実は、それがプロとして生きていける秘訣(ひけつ)でもあります。好きという気持ちを持ち続けてください。そして音楽のすばらしさを多くの人に伝え、夢と感動を与えていってください。そのためには、あなた自身が音楽のパワーやすばらしさにいつも感動していてほしいですね。

 (三宅統二)

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 【プロフィル】MALTA(マルタ)

 サックス奏者。13歳からサックスを吹き始め、東京芸大卒業後、米国に留学。ライオネル・ハンプトン楽団のコンサートマスターを経て、昭和58年にアルバム「MALTA」で日本デビュー。トークにも定評があり、テレビ番組に多数出演。雑誌への連載、バイクチームの監督としても活躍する。全日本高等学校選抜吹奏楽大会で審査員を務め、「マルタ賞」を設立するなど音楽発展に尽力。平成20年4月から大阪芸大音楽学科教授。

 撮影・前川純一郎

産経新聞社