春風や…

/チューリップ手の鳴る方に芽吹くかな

/葉一枚剪って黒星病哀し

/剪定師君が代蘭を如何にせむ如何にせむとて君が代蘭を

/八ッに雪春は名のみの風寒し

/春の風ドレミファドンを踏みはずし

/撫でてゆく葦の芽吹きを鴨游ぶ

/花ほころぶハリーウッドや受粉時季

/山茱萸の清楚水仙のほがらか

/春風やナースコールのごとくゆく

/花無くて手持無沙汰や八つ手の葉

/湯湯婆(ゆたんぽ)の安堵股倉にやさし

/俤や湯湯婆の如婆なりき

/東風(こち)吹かばパンが焼けたと妻の声

/どちら様ですかと春の風

/愚か者の名前誹りやトランプのでも彼の人の馬耳に東風

/桜東風にははやく人の軽はずみ(軽佻)

 

倉石智證

/春兆春眠覚ます鳥の聲

/春は脚長村いっぱいを渡り来る

/初物の韮を飾りて温飩とす

/韮を採りに畑に出でて饂飩かな

/寛解の人ゐてスキーは今年無理

/スキー二本ならべて北のニュース聞く

/玉葱を太からしめて追肥かな

/仏の座残りしものを立カンナ

/一斉にナズナ生え来て落ち着かず

/絹さやに不織布剥いで棚作り

/寒冷紗剥いで春菜の生き生きと

/焦るなよスモモに花芽湧き出ずる

/ハリウッド妻が咲いたと高梯子

/花よりも団子がいいな蒼き空

/手に負えぬものに手を合わす荒れ地かな

/放棄地のそこここにある小春かな

粗土にもようやくほくほくと春の兆しが。

 

倉石智證

病気お見舞い。

/富士色々百万遍の鳥の聲

/おんびんに言葉の意味や春炬燵

/病得て花の咲くのを知りにけり

/水仙の足元飾る百姓家

/うつむいてクリスマスローズ春告げる

/山茱萸や子供はマスクして家に

/枯芝に紅梳き込むや梅の花

/海を出てひげ根は牡蠣の恋心

/風流や風呂の窓から椿かな

/庭前の松に鳩ゐる眸眸紅く

/道に出て釜無川に春の風

/帰り来て恙無しやを線香に鉦打ち鳴らし恙無しやを

/串本やペンシルロケット三度まで長沢芦雪寅の画を描く

/春は鯛尾頭付を兜だけ

/目玉焼き押しくらまんじゅういちぬけた

退院した義兄の家に見舞いにゆく。

すっかり痩せちまったね。

眼鏡の奥の眼が昏ずんで、

「生存率5割なんだって」。

すっかり気弱な風である。

生きて帰って来ると死生観や哲学も変わるんだね。

もう多くの百姓仕事は手放すことにした。

 

倉石智證