恋愛小説家 -33ページ目

恋をしている

「雨に唄えば」が頭の中を巡っていた、春。

私たちは傘も差さずに、詳しくもない街に降り立ち

商店街を練り歩き、地図を塗りつぶすように歩いて

ときどき立ち止まって目が合えば笑い、お茶をして

帰るころには知らなかった街をすっかり好きになっていた。

もとより、嫌いになるという選択肢はあなたとはない。


とても好き。じゃあどこが好き?

分からないけど好き。


その質問はとても回答に困る類のもので

お腹がすいたら食べたいのか、食べたいからお腹がすくのか

眠くなったら寝たいのか、寝たいから眠くなるのか

定義づけすることができない問題として

ニワトリと卵が生まれた順番みたいにぐるぐる回る。

好きだからそばにいたいのか、そばにいたいから好きなのか

理屈を並べ立てるよりも感じることを信じなさいと

頭でも体でも、五感のどれか一つをしても教えてくれる。


ふと、昔習った数学を思い出した

足し算、引き算、プラスとマイナスのあれこれを学び

マイナスとマイナスを掛け算するとプラスに転じるのを

面白いなぁと思っていた。

私たちの持っている、正の数はそのまま取っておけるのに

ちょっとした負の要素までも、次から次へと正と変わっていくのは

掛け算と同じなのかと考える。


あなたは私と出逢ったことをオセロみたいだと言ったけど

一色になって投了寸前のゲーム板の四隅を取った途端に

すべてがぱたぱたと、裏返しになっていく。

私にも分かる。分かるというより、その流れを感じる。


また逢えばすぐに分かるはず。

理屈を並べ立てるよりも簡単に答えは出ている

私の顔はきっと笑っていて、恋をしている。





結び付き

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階段で息切れしなくなってきたよ
遠回りもますます好きになった
気になるものを報告し合えるのが嬉しい
同時に何か見つけて声がハモると楽しい
足並みが二人三脚になってるね

気ままでいい
気ままがいい

「つかず離れず」がくっついたら離れない
離れたように思えても、熟せばまたやってくる

例えばそんな結び付きが心地いい
そんなあなたが心地いい

愛のオルゴール

何度引越しをしても、捨てられないものがあります。

はっきり言って生活には何の用途も出番もないアイテム。

それでも大分厳選されているのですが、まだいくつかあります。

すべて、懐かしい子ども時代からの「価値なき」たからものです。


手回しのオルゴール。曲は「愛のオルゴール 」。

先日書いた東京タワーの見える病院の売店で、母が買ってくれたものです。

少し錆びていますがいい音で鳴ります。

さびしいときに鳴らすと心が穏やかになる、小さなオルゴール。

確か、全部で3つあったはずですから

おそらく姉と母も、別の音楽が鳴る仲間を持っているはず。

見てしまったからには、きぃきぃ回して一回聴いて、またしまいます。

オルゴールを包んでいるのは、入院していた弟が使っていた綿の切れ端です。


「IドキドキSAIPAN」と書かれた、小さいリュック型のコインパース。

キーホルダーになっています。
間違いなく自分では絶対に選びませんし、使うこともないでしょう。

けれど手元にあるのは、それを捨てるには忍びなく、どこか切ないからです。


その昔、父が初めて海外旅行へ行った時のお土産としてくれました。

数あるお土産の中から、なぜそれを!?と、正直思いました。

けれども旅先で父が選んできてくれた物ならば、異存はありません。

寡黙で怒りっぽく、会話も少なかった父が、
雑多としたお土産売り場で手にとってくれたことが重要なのであって

黄色いナイロンの素材や、虹色のリボン、チープな感じのキーホルダーが

どれを取っても、見慣れるとかわいらしくみえてくるのです。


30センチの物差し。

竹製でよくしなり、下手すると凶器になります。

ちなみにこれを使っていたのは小学生のころです。

ウサギのアップリケが縫い付けられた、花柄の物差し袋に入っています。

母が時間を見つけて拵えてくれたものですね。

達筆な文字で書かれた私の名前が懐かしい。


あれこれ、箱を開いたら時間を忘れてしまいます。


いつか歳を取ったら、この中身を紐解きながら

こんなことがあったねと、一つ一つにまつわるエピソードを教えてあげる。

自分では気に入っていない子ども時代の写真や

もみ消したい失敗談なども、時効になったものとして

笑い話にできるような気がしています。


集合写真のどの子が好きだったとかいう話になったら

当てられても、とぼけてやるんだから(笑)

100分の1

誰かにとって価値があるかどうかより

自分にとって価値があると思えることならそれを信じたい


黙って同意してしまう99人よりも

違うと思ったならば声を上げてNOと言える1人でいたい


「あなたをとても想っている」


もしかしたら私は変わっているかもしれない

けれど胸を張って言えることがある


その個性が万人に愛されるかどうかより

その個性を誰よりも愛している、ここにいる1人を信じて


どうかどうか信じていて



Pick me up, love, from the bottom

Up onto the top, love, everyday

Pay no mind to taunts or advances

I'm gonna take my chances on everyday


Dave Matthews Band 「Everyday



デイブ・マシュー。

私ってオジサン系が好きなのでしょうか・・・

いいえ、断じてそうではありません。

表現することを心から楽しんでいるという波動、

そういったエネルギーが伝わってくる人が好きなのです。

cloudless & cloudiness

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夏にもくもく、入道曇より育った恋心は

方々に淡く散らばって秋が来た。

再びトモダチになって並んで歩く君の
下がった目尻に釣られて
こちらまで笑ってばかりいるのは変わらず。
屈託ない笑顔がいい、それも変わらず。

完璧に見える君にだって不機嫌な日もあるだろうし
気乗りしない仕事とか、面倒な人付き合いとか、

知らないところで色々あるんだろう。

疲れているときのクセを見るからに
いつも笑っていられる訳じゃないはずなのだろうけど

寂しそうに見えないのが、ちょっと癪にさわる。

なのに、まだ笑ってるのは
ふたりでいるのが、満更でもないからだと希望的観測をする。
人目をさらう君だけに横恋慕も気にかかる。
でもね、この曖昧な緊張感も割と気に入っているんだ。

 

ツバメ

いつも近いところにいたけれど

少し離れて見てみる

輪の中から抜け出して外から見てみたら

やはり気のせいではなかった


烏合の集団の中にいても

あなたのことはすぐ分かる

そこで思考も世界も一瞬止まって

また動き出すように見えるんだ


背中から照らす夕暮れに

並んで伸びた影法師までも他の誰でもなく

あなたのことはすぐ分かる

ね、手をつなごう


飽きないねぇと呆れられた

飽きるって何だろうかと思った


たとえば私が好きな食べ物や音楽や

趣味やお気に入りの場所などと同じことで

一息つくことがあったとしても

飽きないものもある


軒先のツバメの家族は

いつの間にか南へ旅立っていたけれど

きっとまた来年も戻ってくる

飽きもせずにね

 

東京タワー

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それはそれは大昔、弟が都内の病院に入院していました。


病室からは東京タワーが見えていました。

向かいのベッドに入院していた、あの女の子は

今も元気で、大人になっているでしょうか。


病気やけがなど、難しい問題を抱える子どもたちに

毎日、夢を見せてくれた東京タワー。

スカイツリーが完成したって、私はこのタワーが好きです。


昨日、外出先から見た東京タワーは

やけに明るいLEDで煌々と夜空に光を放っていましたが

あたたかなオレンジに灯る姿の方が、

身長333mには似合っているように思いました。

初秋

いつか夏の夜に、

窓の外が明るくなるまでおしゃべりしていました。

カーテンの隙間が白んできたのを見て

「もう朝だよ!明日やばいよ!」なんていいながらようやく眠ったのも、

そういえば、同じぐらいの時間だったはずなのです。


今朝4時半に、ふと目が覚めたら窓の外はまだ夜でした。

季節は静かに、けれども確かに変わっているのですね。


まるで修学旅行みたいな日でした。

「もう寝た?」と、ルームメイトに最後までささやくのは誰?


そして早く訪れる、夕暮れ。

人恋しさに、誰かの声が聴きたくなる空色。


秋がやってきました。


バラが咲いた

恋愛小説家


青梗菜を切ったら、バラが咲きました。

それがちょっと嬉しくて、カメラを取り出す私。

料理そっちのけ?まあいいのです。


写真って楽しい。


先日、母から届いた写真が素敵だったので

勝手に紹介しようかと思ったり。(いいでしょうか?)


何がいいって

その人によって見るもの、見る角度、見る高さ、

枠に切り取る範囲などがみんな違っていて

学びや発見がたくさんあるから?でしょうか。


同じコンディションの日に、同じカメラを持って出かけても

持ち帰るのは、一人ひとり違う世界。

美術の授業で公園の景色を写生しても

みんな違う絵を仕上げてくるように。


けれど、自分以外の誰かが持ち帰った世界が

私にとってオーダーメイドの服みたいにしっくりくるならば

自分の眼に近い、もう一対の眼があるということが

嬉しくもあり、やはり学びでもあるのだと思うのです。


という訳で、バラが咲いた。

古美(ふるび)

 
見ればみるほど美しい。
その人には無駄な物が何一つありませんでした。

朝の混んだ電車で、どこへ向かうのでしょう。

黒い帯のカンカン帽子、皺のない白い開襟シャツ、
縁のついた銀眼鏡。
薄手のウールのズボンの膝には持ち手がほころんだ革鞄。
ピカピカに磨かれた茶色い紐靴。

頷きながら読んでいる文庫本は、一体何年もの?
いつか古本屋でみた、骨董品のように焼けた紙。

「古美」のよさ。
頁をめくるふっくらとしたおじいさんの指先もまた
品格があり、優雅であると思いました。