恋をしている
「雨に唄えば」が頭の中を巡っていた、春。
私たちは傘も差さずに、詳しくもない街に降り立ち
商店街を練り歩き、地図を塗りつぶすように歩いて
ときどき立ち止まって目が合えば笑い、お茶をして
帰るころには知らなかった街をすっかり好きになっていた。
もとより、嫌いになるという選択肢はあなたとはない。
とても好き。じゃあどこが好き?
分からないけど好き。
その質問はとても回答に困る類のもので
お腹がすいたら食べたいのか、食べたいからお腹がすくのか
眠くなったら寝たいのか、寝たいから眠くなるのか
定義づけすることができない問題として
ニワトリと卵が生まれた順番みたいにぐるぐる回る。
好きだからそばにいたいのか、そばにいたいから好きなのか
理屈を並べ立てるよりも感じることを信じなさいと
頭でも体でも、五感のどれか一つをしても教えてくれる。
ふと、昔習った数学を思い出した
足し算、引き算、プラスとマイナスのあれこれを学び
マイナスとマイナスを掛け算するとプラスに転じるのを
面白いなぁと思っていた。
私たちの持っている、正の数はそのまま取っておけるのに
ちょっとした負の要素までも、次から次へと正と変わっていくのは
掛け算と同じなのかと考える。
あなたは私と出逢ったことをオセロみたいだと言ったけど
一色になって投了寸前のゲーム板の四隅を取った途端に
すべてがぱたぱたと、裏返しになっていく。
私にも分かる。分かるというより、その流れを感じる。
また逢えばすぐに分かるはず。
理屈を並べ立てるよりも簡単に答えは出ている
私の顔はきっと笑っていて、恋をしている。