恋愛小説家 -27ページ目

宝石箱の中にあるもの

群衆に混ざれば絵になる二人は

流れからぽつり、はみ出しているような気がしました。

深呼吸して見上げると暈のかかった月は地上を照らし

白い光がこころの縺れを静かに昇華していきました。


夜の街は煌びやかで、どこもかしこも人でいっぱい。

ニュースに映る、飾りだらけのゴージャスな宝石箱の中で

泣きたいんだか笑いたいんだか

小さい悩みの何もかもが愚かしく

張りつめていたものが急に、ふっと緩んでしまって

気を失ってしまいそうでした。


特別なことばを伝えたかった訳じゃなく

一目逢えたなら、確かめられたなら

それで十分だと思っていました。


どんなに大勢の中にいても私の唯一、

ただ一人のひとはここにいる。

突き詰めれば、このひとが「在る」ならば

互いにどこで何をして誰といたとしても

私は日々に価値や幸福を見いだせるのでしょう。


スイッチは簡単に切れました。

もう、降参。

私はあなたを愛している。

月の砂漠

冬になるとやってくる灯油の移動販売車は

オルゴールの音色で「月の砂漠」を流している

夕暮れの町に差し込む闇と家路を急ぐ子どもたち

マンション群に灯った窓の数だけ人がいて

それだけたくさん暮らしがある

退屈かもしれないけれど

それが私の暮らし私の町


私たちはときどき駅で待ち合わせをして

その日のことを報告しあいしながら

鍋の中に入れる野菜を吟味したり

匂いにつられてリンゴを一盛り買ったりして

身を寄せ合うように家に帰る

買い物袋を持ってくれることを

冷たい指先を包むふかふかした掌を

当たり前に思ったり感謝しなかったことはない



月の砂漠をはるばると
旅のらくだが行きました
金と銀とのくら置いて
二つならんで行きました

金のくらには銀のかめ
銀のくらには金のかめ
二つのかめはそれぞれに
ひもで結んでありました

先のくらには王子さま
あとのくらにはお姫さま
乗った二人はおそろいの 
白い上着を着てました

ひろい砂漠をひとすじに
二人はどこへいくのでしょう
おぼろにけぶる月の夜を
対のらくだはとぼとぼと
砂丘を越えて行きました
だまって越えて行きました


もしもし?

昼休みに、日向のベンチでぽかぽか読書。

目の前の池から、水が噴出しているところを見たことがありませんが

人はみんなそれを「噴水前」と呼びます。

噴水前には、青春まっさかりの若者ばかり。

木の葉が一枚、舞い落ちてきました。

誰かの声が聴きたくなるのはそういうとき。


友達の赤ちゃんは3ヶ月。

ふにふにした生き物を、抱かせてもらえばよかった。

私はひたすらたこ焼きを焼いていたので、頭を撫でるのが精一杯でした。

期間限定と思われる、乳児のいる母の体形は美しい。

ボッティチェリが描いたふくよかな女性を思わせます。

いい顔している、しあわせなんだね、よかった。

誰かの声が聴きたくなるのはそういうとき。


地下鉄の風に、ニットの穴から入ってくる冷気。白い息。

毎日気になる、ポインセチアの鉢植え。

今年も街を歩けばシュトーレン。

シュトーレン好きご推薦の物やバッタリ見つけたものを含めて

一体、何本食べてしまうことやら。

「待降節に毎週1本ずつキャンドルを灯し、薄く切って少しずつ食べる」と

ドイツ人の知人が言っていたのですが、しきたりを守れず。

12月が近づいています。

誰かの声が聴きたくなるのはそういうとき。


大切なことを伝えようと思っているのに

精神的に慌てているのか、何度も誤打をくりかえして

やっとの思いで文字を綴り、行ったり来たりの夜もあります。

朝になってようやくエアコンを入れ、

自動運転にしたら、猛然とファンが回りだしました。

気付けば指先が手首から麻痺しているほど

冷えた部屋にいたんだなぁと呆れました。

開封後20時間も持続するというカイロを開封。

凝った肩に乗せて一休み。

誰かの声が聴きたくなるのはそういうとき。


手帳を結局まだ買っていないので、困ったぞ。

赤か黒か、形はどれか。

誰かの声が聴きたくなるのはそういうとき。


今日はとうとう冬のコートが出番のようです。

寒い夜風に負けないよう、防寒して出動。

一週間お疲れ様でした、

帰りは本当にさびしいんだろう。

誰かの声が聴きたくなるのはそういうとき。

まぼろし

日付が変わったら金曜日。

そのタイミングでいつも、一つ片付けている仕事。

でも、もう疲れちゃった。


あたたかな床に寝転んで30分過ぎたころ

不思議な訪問を受けました。


うっかり眠っている背中の真ん中を、人差し指で軽くたたくように

トントンと、近くに気配を感じました。

何やら、声も聞こえました。「起きなさいよ」みたいに。


まさか、部屋に誰かいる?


そんなはずないのに、そんな気がして

寝ぼけた返事までしていました。

来てくれたんだね、ありがとう。


Knock, knock, knockin' on heaven's door

天国のドアを叩いているみたいだ。

随想 101118

朝晩は冷え込みます。

暖房を使うようになったので来月の電気料金は跳ね上がりそうです。

かつて、年間光熱費をグラフにして遊んでみたのですが

夏と冬に山があって、春と秋は下がるので面白かったです。


そうそう、ホットカーペットを出しました。

これがなかなか快適で・・・やっぱりごろごろが好き。

岩盤浴みたいに転がって、温みます。

ベンチにも荷物入れにもなるコンテナをテーブルにして

PC作業をしてみました。ソファーが欲しくなりました。


本当に雨が降ると地面が固まるのかな。


来月、姉の家に遊びに行くことになっていますが

彼女のパートナーが育てている立派すぎる家庭菜園を

最近ずっと見ていないのです。

美しく整えられた花壇も良いのですが、

私は土に素朴に並んだ農作物が好きで、どこか落ち着くので

畑が見たいと今とても思っています。


母の住む町にも行ってみたい。

思い立てば、距離があったってすぐに行けるんだってことを

私も知っているのです。

本気になれば、何だって。どこへだって。


駅の構内に新しくできたらしき、ワッフル屋。

匂いが漂っているのですが、朝には早すぎて準備中だし

帰りには反対方面にあるので寄りにくい。

わざわざ階段で反対に渡ってまで買いたいかどうか、分からない。


鞄に、毎日入っているもの。お菓子。

引き出しがどんどん甘いものだらけになっていく。

小説も毎日手にしているのに、座れたら眠ってしまいます。


朝が来て、昼にメロンパンとスープを食べ、夜が来る。

やることが片付いていない、まずいぞ。

忘れ物はない?


窓を大きく開けて、深呼吸をしよう。

バベルの塔

もう逢わないと決めていた。

逢いたくない、逢っちゃだめだと本能がささやく。

これといって用事もないし、私も今はもう元気にしている。

でもちょっとぐらい気になっていたかもしれない。

完全には消し去ることはできないみたいだ。

そもそも繋がりがまるでないともいえない距離感だから

何年か先、どこかでバッタリ出逢ったとしても

何事もなかったかのように振舞いたかった。

「やあ、久しぶり。どのぐらいぶり?」なんて普通に会話して。


ところが不意に私を呼んだ「その声」はほとんど叫びに近く、

後ろから追いかけてくる気配から逃げるように

私はもつれる足で、ひたすら一目散に階段を下りた。

振り返らない、絶対につかまらない。


そうだ、この感じはよく憶えている。

ブレーキのない車に乗って坂を下るような切迫した気持ち。

大切にされているはずなのに、身を滅ぼすようなすれすれの愛情。

そこには石を積んで出来上がった塔のような精神世界があって

愛されていることを恐れるほど、閉塞感に満ちていたんだ。


ゆうべ見た夢は、こんな風だった。


天に届くほど高い塔の一番上で窓から外を眺めていた。

きらきら瞬く地上は魅惑的で、危険だと言われるようには見えない。

一日に三度届けられる上等な食事で、空腹を知らず

自分で選んだものでない上等な服は、いつも寸足らずだった。


一度だけ、開いたままのドアから外に出てみたら

心地よい風が吹き、音楽が聞こえ、いい匂いがした。

けれども指が土に触れた途端、裸足だったことに気付き、戸惑った。

その上、右も左も分からない世界は不安に満ちていた。

どうしたらいいのか分からずにへたり込み

親切に聞こえる言葉を従順に信じた。


「ほら、言った通りだ。外の世界は怖いんだ。

 ここが一番安全なんだよ。もう二度と、出ようとしちゃいけない

 この塔はじき、天まで届くのだから。」


そして窓は塞がれ、瞳は光を失った。

上等な食事は手つかずのまま下げられ、上等な服に埃が積もる。

ここから出たいと、涙を流した。

「それほど言うなら外に出ればいい」

空からの声に、私は塔を抜け出した。

いびつな螺旋階段を転がるように駆け下り、何度も倒れた。

裸足でも、右も左も分からなくても、走るしかなかった。

はあ、はあ、肩で息をした。もう、追いかけてこないで。


壁からぐらついた小石を一つ引き抜いた途端

さっきまでいた見事な壁も、階段もすべて崩れ

塔は消え去り、ごろごろとした石の山だけが残った。

天に届くと思い込んでいた空想はすべて崩壊したのだと悟った。

轟音と白煙の向こうに、ゆらゆらと影が見えた。

不吉な予感はどこかに消えていた。



足を止めた。追いつかれようと、つかまろうとも

もう、逃げない。

世界は歪んでなどいない。

たいへんなこと/北極星

むき出しの思いを吐き出して

聴き手を困らせるようなことを言うのは

いけないことだと思っていた

グーで殴るぐらい痛い話もあるはずだから

そんなことしちゃいけないとずっとずっと思って

求める心に蓋をして平気な振りをしていた

そのうちそんなことすら忘れてしまっていた

 

駅からの道のりの4分と数十秒だけ

あなたの声を聴き名残惜しいまま切った

そのときちょうど最後の信号が赤になり

足を止めた途端

たいへんなことに気付いてしまった

 

あなたがいない世界なら

私は誰に語りかけようとするだろう

家族や親友、空に草花

思い浮かぶ顔はみんなとても優しいのに

どこか違っている気がして

やっぱり駄目と首を横に振るばかり

 

曇っているけれど北の空を見上げ不動の星に祈ろう

私の座標を教えてください

電話は本当に苦手だし

用事なんて一つも無いけれど

打ち明けるから聴いて

 

たいへんなことに気付いてしまった

あなたがいない世界なら

もしかしたら私はひとりぼっちなのかもしれないよ

 

昨日歩いた道

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昨日二人で歩いた道を一人で歩いたのです。
そうしたら、風も光も色も似ているのに
鮮やかだった世界は息をひそめ沈黙していました。
白い冬に包まれると心ばかりがざわめき、恋しくなります。
あなたが歩いたときにも同じことを感じましたか?


言葉は口に出すほど核心から離れてしまうから、
もどかしさのあまり、涙が溢れます。
ありがとう、ありがとう、あなたのことが、明日もとても好きです。

どこまでも道が続くならば、

どこまで行けるか見てみたい。

どこまでも歩いていけると信じています。

消えない魔法

容れ物が明らかに間違っていますが、コーヒーは美味しいです。

 

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「シンデレラの魔法は12時にとけてしまったのに

 どうしてガラスの靴は残っているの?」

 

素朴な疑問をぶつけられて、しばし思案。

子どもの頃から不思議だったのです。

ガラスの靴だけは、なぜ消えなかったのかと。

 

手がかりは、片方の靴だけ。

この靴にピッタリの足をした人が自分の「運命の人」だと

王子様は町を探し回って、見つけた。

 

靴が消えなかったのは

今は魔法使いのやさしさだったんじゃないかと思う。

 

街がきらきら光る。瞳がきらきら光る。

12時を過ぎても、王子様は消えずにそばにいる。



All "I" Wanted

2002年、ラジオで耳にするたびに英語が簡単で、
やっと聞き取れるようになったのかしら?と錯覚した曲。
歌詞が当時の気分にも合っていて、

隣町のタワレコまで買いに行きました。


もう8年も前のこととは俄かに信じがたく
年月は嘘みたいに長く、遅いようで早い。


私が知り合い、通り過ぎ、今もつながっている人たちのことも。
途切れたようで、これから先にもう一度、いや何度でも
引き合い、つながり、また離れていく人たちも。


なんだか泣きたくなった。


If you want to
I can save you
I can take you away from here
So lonely inside
So busy out there
And all you wanted was somebody who cares

Michelle Branch 「All You Wanted


なんだか泣きたくなった。 
それならば泣けばいいさと今なら思える。
それならば泣けばいいよときっと言ってくれる。
黙って、言ってくれる。