2026年10月17日 東洋経済オンライン
「うちの親、認知症になったらどうしよう」「最近物忘れが増えた。もしや認知症では……」
高齢者が犬と暮らすことによる健康へのメリットとは? (写真:OKINO / PIXTA)(東洋経済オンライン)
【画像】ペットを飼うなら「犬派?猫派?」 犬と猫、を比較したときの1カ月あたりの支出総額と平均寿命の違い
こんな不安を抱えている人は多いのではないでしょうか。そんな人に、興味深い報告が! シニア世代のペットとの共生が非常に大きな認知症予防になることが、国立環境研究所ら研究チームにより報告されました。ただし、この研究で特定されたのは「犬」限定です。
■「散歩」「地域交流」とメリットいっぱい
国立環境研究所や東京都健康長寿医療センター、東京大学らの研究チームが8月、約1万1200人の高齢者を対象に7.5年間にわたって大規模疫学研究の結果を発表しました。
それによると現在犬を飼育している人は、犬を飼育したことがない人と比較して、要介護認知症の発症リスクが48%低く、犬との暮らしが認知症発症を抑制する可能性がある、とのこと。
犬と暮らす高齢者が増加すると仮定した分析では、医療・介護費が4年間で約5920億円の削減となると報告されています。
この数字を見て、犬と生活している人は、「なるほど!」と頷くとともに、彼らをギュッと抱きしめたくなるのではないでしょうか。
筆者もフレンチブルドッグと生活しています。彼女のおかげで、日々、健康的な生活を過ごしています。朝は5時起きで1時間弱の散歩。散歩中には、地域の犬友と会話を楽しみます。
日中は留守番させることが多いので、夕方は直帰。そして、即夕方の散歩。犬連れの人とは、知らない人(老若男女)でも、会釈や挨拶をかわします。どの方も穏やかな笑顔です。夜はソファに座る私の膝で彼女も寝そべり、1日分のストレスを取り去ってくれます。
国立長寿医療研究センターのホームページには「定期的な運動習慣やバランスの良い食事、社会活動への参加・人との交流や外出等が、認知症になる危険性を低くすることが報告されており、これらを組み合わせて実施することが効果的」と書かれています。
犬を飼った場合、「定期的な運動習慣」と「人との交流や外出」を無理なくできることが、認知症の発症リスクをおさえているといえるでしょう。
他方、「猫の飼い主の認知症発症リスクについては、猫を飼っていない人との間に意味のある差はみられなかった」との報告があります。基本的に猫に散歩は必要なく、散歩はしません。
■老いた親が散歩中に転倒!
親が犬と散歩を楽しんでいる場合はひとまず安心です。
しかし、親に支援や介護が必要となり犬の世話ができなくなったらどうなるでしょう。その犬も年老いていた場合、 親と犬の“老老介護”が始まるかもしれないのです。
こんな親子がいました。
●長男ユタカ(53歳):実家から車で2時間弱のところで家族と暮らす
●父親(85歳):実家で1人暮らし。要支援2。老犬タロウ(16歳)と暮らす
父親は身のまわりのことはできますが、足元がおぼつかない状態。それでも、1日1回の散歩を続けています。しかし、老犬タロウも足元がおぼつかず、散歩中にドテンと倒れてしまうことがあります。
ある日、散歩中、タロウが倒れ込み、支えようとして父親も転倒。自分で起き上がれず救急搬送されました。
幸い大事には至らず軽い打撲で済み、父親は入院せずに帰宅。警察に預けられていたタロウのことはユタカさんが迎えに行きました。
「警察からの帰り道、これ以上、父にタロウの世話は無理だと思いました。でも、私の暮らすマンションは犬を飼うことは禁止されています。それに、私も妻も犬を飼ったことがなく、冷たいようですがタロウと生活したい、とは思わなかったんです」とユタカさん。
ユタカさんは、父親にタロウを手放すことを進言しました。
ユタカ 「オヤジ、もうタロウを飼うのはムリだ。手放そう」
父親 「ムリとは、どういう意味だ。ぼくが責任を持って、看取る。放っておいてくれ」
ユタカさんと父親の思いは平行線です。
ユタカさんは、「犬の『里親』募集サイト」でタロウの新たな飼い主を見つければいいと考えていました。
■「終生飼育」の責任あり
しかし、ペットの譲渡とは、そんなに簡単な話ではありません。
そもそも、動物の飼い主は、終生飼育(寿命を迎えるまで適切に飼育すること)する努力をしなければいけないことが法律で定められています(動物の愛護及び管理に関する法律)。動物を飼う責任はとても重いのです。
ユタカさんの父親の救急搬送の件は、警察から父親が介護サービスで世話になっている地域包括支援センターに連絡されていました。
その後、地域包括支援センターのスタッフが地域のボランティアセンターに問い合わせてくれて、幸運にも散歩に連れて行ってくれる有償ボランティアが見つかったのです。
ユタカさんも自身が安易過ぎたと顧み、帰省の頻度を増やすなどして可能な範囲で父親とタロウのことをサポートするようになりました。
■「親子ローン」ならぬ「親子飼い」
タロウのように、ボランティアがみつからない場合は、ペットを飼っている親にもしものことがあった場合、その世話はどのようにすべきなのでしょう。
周囲を見渡すと、さまざまな方法で備えている親子がいます。
① 何かあった場合は、子どもが引き続き飼うことを約束したうえでペットを迎える(親子リレーローン風)
② 近所に暮らす場合限定だが、親子2世帯で飼っているケースも。平日の日中は親宅で、夜と週末は子宅でという飼い方(親子ペアローン風)
③ 一時的なことなら、ペットシッターやペットホテルを活用。数は多くないが、終身預かるところも(ペットホテルに預けられると、体調を崩す子もいる。元気な頃から預け方を考え、慣らしておくことも必要)
④ 最後の手段として、ユタカさんが検討したように、里親を探す。相談窓口を設置する自治体もある。掛かりつけの獣医に相談するのも一案
今回の研究で認知症の発症リスクを48%も軽減してくれる可能性がある、と分かるなど、ありがたい存在の「犬」。
しかし家族に迎える際には、先々のことをしっかり考えておかなければなりません。犬の平均寿命は15歳前後といわれていますが、最近は“アラウンド20歳”の子も見かけます。
人間と同じで、犬が高齢になると介護力だけでなく経済力も必要です。想像以上に医療費などがかかるケースも珍しくありません。
すでに高齢の親がペットと生活している場合は、親の急な入院などさまざまなケースをシミュレーションしておきたいものです。
<参考>
国立研究開発法人国立環境研究所「犬と暮らす高齢者が増えると4年間で約5,920億円の公的支出削減 —約11,200名の地域在住高齢者を対象とした7.5年間の大規模疫学研究—」
https://www.nies.go.jp/pr/news-and-updates/2026/Press20260818.html
環境省パンフレット「共に生きる高齢ペットとシルバー世代」
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/r0109/pdf/full.pdf



