短編ホラー小説 愛猫堂百物語
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第拾八話 バンジージャンプ

 
早紀はドキドキしていた。
友達と遊びに来た遊園地にバンジージャンプがあり、みんなで跳ぼうという事になったのだ。
料金を支払い、専用の装具を身につける。
跳ぶ順番をジャンケンで決める事になり、負けた早紀が一番に跳ぶ事に決まった。
早紀達の前に若い男性が二人、順番待ちをしていた。
やがて男性達の順番が来て、最初の男性が跳ぶ。
 
ギリリッ
 
ロープが軋み、音がした。
地上5m手前でロープは伸びきり、男性は歓声と共にゴムの戻りで空中を舞った。
男性が降ろされた後で、係員が音がしたロープを念入りに点検している。
早紀は不安になり友達に言った。
 
「凄い音がしたけど、大丈夫かな?」
 
「係員の人が確認しているんだから大丈夫だよ」
 
(そうなんだけど…)
 
早紀の不安は消えなかった。
次の男性が跳ぶ。
 
ギリリッギリリッ
 
さらにロープが軋んだ。
男性が降ろされた後に、係員が早紀にこう言った。
 
「だいぶロープが老朽化したみたいなので、新素材の新しいロープと交換します。しばらくお待ち下さい」
 
早紀はラッキーと、心でガッツポーズした。
 
新しいロープを装着した早紀は、位置についた。
風が気持ち良い。
景色が綺麗だ。
思いっ切り深呼吸して、早紀は躊躇なく跳んだ。
 
 
新素材のロープは軋む事なく、スルスルと伸びていった。
耐久強度は抜群。
作りもしっかりしている。
ただ残念な事が一つだけあった。
新素材のロープは古いロープより10mほど長く、その事を係員が失念していた事だ。
 
 
そして、地上から何かが潰れる様な鈍い音が届いた。

第拾七話 コンビニ

 
英輔は大きく欠伸した。
深夜のコンビニでのアルバイト。
今夜は、大学の先輩の則夫と一緒だった。
則夫は売り物の漫画を読んでいる。
英輔も携帯ゲームで遊んでいたが飽きてしまった。
 
「暇ですね…」
 
英輔はまた欠伸をした。
則夫は漫画を読みながら
 
「こんな時間に忙しい方がビックリする」
 
とぶっきらぼうに答えた。
 
(それもそうだなぁ…)
 
英輔は誰も映っていない防犯用ビデオのモニターを見つめていた。
 
「トイレ行ってきます」
 
英輔は店のトイレへ向かった。
 
(あれ…?)
 
レジの前に白髪のお婆さんが佇んでいた。
 
(さっき、モニター観た時に誰もいなかったのに…)
 
英輔は不思議に思いながらも
 
「いらっしゃいませ」
 
と声を掛けた。
 
お婆さんは振り返り、すまなそうな顔をして
 
「申し訳ないのですが、ちょっと道を尋ねたいのですが…」
 
と頭を下げた。
英輔は
 
「はい。大丈夫ですよ」
 
と明るく答えた。
すると、お婆さんはホッとした表情になり
 
「申し訳ありません。では、豊島公園の手前のマンションまで、行きたいのですが…」
 
英輔はすぐに場所がわかり
 
「あぁ、わかります。えーと、この道を右に曲がり、この店の裏手に出ると天城という大きな家がありますから……」
 
なるべくお婆さんにわかりやすい様に説明した。
 
「ご親切にありがとうございます…何も買わないのに本当優しくして頂いて…」
 
お婆さんは何度も頭を下げる。
 
「いえ、これもコンビニの役割の一つですから…」
 
英輔はお婆さんに喜んでもらい、本当に嬉しかった。
 
 
 
 
 
「あいつ、誰と喋ってるんだ?」

 
則夫が不思議そうに見つめるモニターには、英輔一人しか映っていなかった。

第拾六話 窓辺の女

 
遼介は背中に汗が流れるのを感じた。
それはとても暑い、真夏の夜の事だった。
遼介はバイトを終え、缶ビールを片手に家路を歩いていた。
Tシャツが汗ばんで、気持ち悪い。
溜め息を漏らした遼介は、ふと近くのアパートの灯りを見上げた。
二階の部屋の一つ、半分開けた窓で、カーテンが揺れている。
そのカーテンの陰に、女性が立っていた。
灯りを背にしているので、表情までは窺えなかったが、色の白い女性である事はわかる。
缶ビールを飲んで、少しほろ酔い気分だった遼介は、彼女に手を振ってみた。
すると、彼女がお辞儀をした様に見えた。
 
(おっ…!)
 
調子づいた遼介は、彼女に声を掛けてみる。
 
「ねぇ、一緒に飲まない?」
 
缶ビールを上げて、彼女に見せる。
彼女は少し、うなづいた様に見えた。
 
「本当?ちょっと待ってて」
 
遼介は缶ビールを買う為、コンビニへと急いだ。
 
 
缶ビールと肴を買った遼介は、アパートの前に着いた。
見上げると、彼女はまだ窓辺にいる。
コンビニ袋を上げ、遼介は彼女に言った。
 
「部屋に行っていい?」
 
彼女は無言のまま、うなづいた様に見えた。
 
(やった。ラッキー!)
 
遼介はアパートの階段を上がり、彼女の部屋の前に着いた。
ひとつ深呼吸をして、チャイムを鳴らす。
 
(あれ…?)
 
しかし、応答は無かった。
ドアノブに手を伸ばすと、鍵が掛かっていなかったので、そのまま開けてみる。
 
「こんばんは…」
 
玄関に身体を滑り込ませながら、遼介は声を掛けてみた。
やはり、応答が無いので、遼介は玄関で靴を脱ぎ、家に上がった。
 
「えーと…お邪魔します」
 
声を掛けながら、遼介は彼女がいる部屋に入り込む。
彼女はまだ、窓辺にいた。
 
「勝手に上がっちゃってゴメン…返事が無かったからさぁ」
 
そう言って遼介は、彼女の肩に手を掛けた。
 
(うっ…冷たい…)
 
遼介は肩に置いた手を、引っ込める。
その時、部屋にスッと、風が入り込んだ。
 
ギッ…ギッ…ギッ…
 
何かが軋む音と共に、彼女が振り向いた。
 
 
口から舌が飛び出し、目は飛び出さんばかりに開かれた彼女の首には、天井から吊り下げられたロープが巻かれていた。
 
ギッ…ギッ…ギッ…
 
風で彼女の死体は、まるでお辞儀している様に揺れ始めた。
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