第拾七話 コンビニ | 短編ホラー小説 愛猫堂百物語

第拾七話 コンビニ

 
英輔は大きく欠伸した。
深夜のコンビニでのアルバイト。
今夜は、大学の先輩の則夫と一緒だった。
則夫は売り物の漫画を読んでいる。
英輔も携帯ゲームで遊んでいたが飽きてしまった。
 
「暇ですね…」
 
英輔はまた欠伸をした。
則夫は漫画を読みながら
 
「こんな時間に忙しい方がビックリする」
 
とぶっきらぼうに答えた。
 
(それもそうだなぁ…)
 
英輔は誰も映っていない防犯用ビデオのモニターを見つめていた。
 
「トイレ行ってきます」
 
英輔は店のトイレへ向かった。
 
(あれ…?)
 
レジの前に白髪のお婆さんが佇んでいた。
 
(さっき、モニター観た時に誰もいなかったのに…)
 
英輔は不思議に思いながらも
 
「いらっしゃいませ」
 
と声を掛けた。
 
お婆さんは振り返り、すまなそうな顔をして
 
「申し訳ないのですが、ちょっと道を尋ねたいのですが…」
 
と頭を下げた。
英輔は
 
「はい。大丈夫ですよ」
 
と明るく答えた。
すると、お婆さんはホッとした表情になり
 
「申し訳ありません。では、豊島公園の手前のマンションまで、行きたいのですが…」
 
英輔はすぐに場所がわかり
 
「あぁ、わかります。えーと、この道を右に曲がり、この店の裏手に出ると天城という大きな家がありますから……」
 
なるべくお婆さんにわかりやすい様に説明した。
 
「ご親切にありがとうございます…何も買わないのに本当優しくして頂いて…」
 
お婆さんは何度も頭を下げる。
 
「いえ、これもコンビニの役割の一つですから…」
 
英輔はお婆さんに喜んでもらい、本当に嬉しかった。
 
 
 
 
 
「あいつ、誰と喋ってるんだ?」

 
則夫が不思議そうに見つめるモニターには、英輔一人しか映っていなかった。