🎼~♪
おばあさん「はい。もしもし、どなたですか」
???「お母さん?…私よ。アイビスよ。娘の声忘れちゃったの?」
随分、久しぶりだこと。お父さんのお葬式以来だったかしらね」
そっちと違って、毎日、目が回るほど忙しいの。連絡する暇なんかなかったわ」
おばあさん「…田舎も毎日、忙しいですよ。
あなたは、こっちにいる時にも、一切手伝わなかったから、知らないだけです」
アイビス「ふうん。まぁそんなこと、どうだっていいんだけどさ。
…それより、聞いたわよ。ラーク兄さんったら、大変な人と結婚するのね!
びっくりしちゃった。元外国の王家のお姫様ですって!?凄い逆玉じゃないの!
ま、ラーク兄さんは、昔からカッコよかったし、頭も良かったけど…でも一体、どこでどうやって、今はもう没落した王家とはいえ、そんなハイソ中のハイソとお近づきに…」
ところで、今日、あなたが電話してきたのは、それが要件なの?」
アイビス「いいえ、そうじゃないわ。
マレットを暫く、そっちの家で預かってほしいのよ。1ヶ月でも10日でもいいんだけど、なるべくなら…」
おばあさん「マレットを…あなたの娘を?…アイビスあなた、そっちで一体、何をしているの?」
アイビス「仕事してるのよ!…忙しいって今、言ったでしょ」
おばあさん「その忙しさは、母親のあなたが、娘を見ることが出来ない程なの?
あなたの旦那様は、何をしているの?」
アイビス「元気よ。…夫婦揃って、今、やってる仕事が、物凄く立て込んじゃってるのよ。
それにマレットは、こっちで塾にやっても、ちっとも勉強しないし、私たちも困っているの。
本人も、私たちの手元から離れたがってるし」
おばあさん「まだ年端も行かない小さな娘が、親元から離れたがっているなんて、母親が自慢げに話すようなことじゃないのよ。
あなた方は、ちゃんと娘に向き合って、話を聞いてあげてるの?」
アイビス「子供自身が望んでることを、自由にさせてあげるのが、親の役目よ。こっちの都会じゃ、それが常識なの。
これだから、時代遅れの田舎は嫌なのよね」
私たちのところでも、今、二人の大切なお子さんたちをお預かりしているの。
ラークはラークで、婚約者のアナスタシアさんのお帰りを待ちながら、新事業を起こす準備を始めているわ。もう一人女の子を見るほどのゆとりは、ありませんよ」
アイビス「その男の子たちのことなんだけど…なんか、色々と評判の良くなかった子たちなんでしょ?
兄さんも母さんも、どうしてそんな子たちを育てることにしちゃったのよ。孤児院では引き受けてくれなかったの?
大丈夫なの?その子たちにお金や家財を盗まれないように、ちゃんと気を付けてる?」
男の子たちは…クックちゃんとロビンちゃんは、よく気配りの出来る、気立ての優しい、可愛い子たちですよ。
私は寧ろあの子たちに、あなたを私の娘として紹介するのが、恥ずかしいわ。どうして、ラークと同じ兄妹なのに、あなたはこんなにも違うのかしら…」
アイビス「お母さんが、ラーク兄さんを贔屓してるのは、昔から知ってるわよ。ラーク兄さんは、私や下の兄さんとは違って、顔も頭の出来も良いし、気性も含めて、死んだ父さんそっくりなんだものね。
でも、本当に私たち、マレットをどうしたらいいか、困っちゃってるのよ」
ラーク「…僕は構いませんよ。
アイビスに、こっちにマレットを連れて来てくれるよう、言って下さい」
おばあさん「大丈夫なの?」
ラーク「二人も三人も、同じようなものです。僕が見ますよ」
・・・・・
クックちゃん「うん、そうなんだ。1週間位の予定だけどね。
それで今、ラークさんが色々準備してる。このパペットシアターも、その子たちと僕らが一緒に遊べるようにって、ラークさんが作ったんだよ」
バルサ材と100均アクリル絵の具、レース。パペットは木の丸ビーズなど、持ち手は竹串です。
ラークさんって、何だか、恐ろしくなるくらい、何やらせても器用なのね。
…ラークさんに、出来ないことってあるのかしら?」
ポムちゃん🍎🍏「頭も良いし、機械の修理や大工仕事も農場経営も、難なくこなしちゃうし、釣りも名人級。
料理も上手だし、歌もダンスも名手だし、こういうのも作れちゃう。人望もあって、大勢の友達がいて、女の子に人気もある。
ホント、ラークさんに苦手なものって、何ひとつなさそうだね✨🐰」
ラーク「…そうです。こと恋愛に関しては、本当に僕、駄目なんですよ、不器用で…
僕に何か、少しでも器用なことがあるとしたら、それを100万分の1でいいから、恋愛に振り当てたいですよ」
ポムちゃん🍎🍏「まあ、そこが、ラークさんの真面目さ誠実さの証でもあるんだけどね。
ナースチャは、ラークさんのその飾らない人柄に惹かれたんだし」
おばあさん「それに、要領も悪いんですよ。ラークは…
要領の良い下の子たちに、こうしてああしてと、矢継ぎ早に頼まれごとをされると、長兄としての責任を感じて、全て一人で背負いこんでしまう。
今回も、そうなんですよ。そこだけは、父親に似てほしくなかったのに…」
ラーク「母さんは、元々、アイビスとはあまり、気が合ってませんでしたね」
トチーちゃん「でも、確かにその妹さんも、相当に押しの強い方ね
私でも、話す前から身構えてしまいそう…」
おばあさん「私も、久々に連絡をしてきた娘に、棘のある言い方をしているのは、判っているんだけどねえ
私自身も、母親失格かもしれないわ」
…ラークさん、ナースチャとお話はしたの?」
ラーク「い、いいえ…」
ポムちゃん🍎🍏「ええっ?…何で?
もしかして、この一週間、ラークさん、一度もナースチャに連絡入れてないんじゃない?」
ラーク「で、でも…
僕が今、連絡を入れたら、バルバラの気持ちがかき乱されて、うまく踊れなくなるかもしれません…。
僕の勘ですが…バルバラは、以前ソニアに強く惹かれていたように、今はナースチャに惹かれています。
僕がナースチャと連絡を取って、それで、バルバラがオーディションを目前に、気持ちが乱れてしまったら…万一、ソニアと同じことになったら…
バルバラが不幸になるのは勿論、ナースチャをも、嘆きと後悔の淵に追いやることになります。
せめて、このオーディションが終わるまでは、バルバラの心を乱すようなことをしたくない。ナースチャもきっと、それを望んでいるんじゃないかと…」
ロビンちゃん「そんなことないよ、ラークさん。
今、ナースチャに連絡しないで、いつするのさ」
クックちゃん「僕らが何度言っても、尻込みしちゃって、全然話聞かないんだもん、ラークさん
このパペットシアターを作ったのも、女の子がここに来るのを承知したのも、そのことを考えないようにするためなんじゃないかと思うよ。
何かしら手を動かしてないと、ナースチャのことばっかり考えてしまって、落ち着かないからでしょ」
ラーク「そ、そうか…そうかな…」
幽子「…恋愛不器用、ここに極まれりか。
こんな小さな子供たちにまで、心配させてどうするんだよ、ラーク。…今すぐ、ナースチャに連絡しな✨」
ラーク「えっ…今ですか?…で、でも…」
おばあさん「そうですよ。あなたは遠慮と取り越し苦労をし過ぎです。
アナスタシアさんだって、あなたからの応援を心から待っていますよ、ラーク
バルバラさんは、大丈夫ですよ。きっともう、心を乱されたりはしません。バルバラさんにも、今では大事な目標が出来て、そこに向けて、全力でひた走っているのですからね」
ラーク「そ、そうです…よね。わ、解りました」
トチーちゃん「因みに、幽子さんには、苦手なものってあるの…?」
幽子「あたしは、理系的なことと怪談話以外は、何ひとつ出来ないよ✨」
トチーちゃん「え、そうなの?」
幽子「あたしの料理の腕前の強烈さは、ラークもあたしの旦那も、よく知ってるよ」
ラーク「ある種、幽子先輩の作る料理は、伝説でした。
僕も一度挑んでみたんですが…いやぁ、若かったと思い知らされました」
幽子「伝説って…卵の白身と黄身を分けろとレシピに書いてあったから、高速遠心分離機を使おうとしたことくらいで…」
ラーク「あれは本当に、今思い出しても、言葉を失います…」
幽子「いや、だって、あたしが白身の中から黄身だけ掬おうとすると、必ず黄身が破けちまうし、どうすれば、黄身と白身をきっかり分離出来るのかが、解らなかったから…💧」
トチーちゃん「…きょ、今日のジャガイモの煮物は、わ、私が作るわね。
幽子さん、どうぞそちらで寛いでいて下さいな」
幽子「料理よりは、絵の方が得意だよ✨🎨
…夫がこないだ、あたしたちが初めて出逢ったP市で演奏したって言ってたからね」
ポムちゃん🍎🍏「へぇ。ナースチャのすぐ近くにいたんだ。幽子さんの旦那さん🐰」
幽子「うん。…その後すぐ、おめでとうっていう手紙を送ってさ、その時、あたしが描いた夫の絵を添えてやったんだよ」
ポムちゃん🍎🍏「へえ、この絵、ポムほしいなあ…」
幽子「うん、我ながら、なかなかよく描けたと思うんだ✨」
ポムちゃん🍎🍏「うん。いいね。この謎の疾走感、ポム好き」
トチーちゃん「…あ、愛情のこもった絵手紙って、とても素敵よね。
ご主人、とても喜ばれたと思うわ…✨
(時にご主人、どんな顔のお方なのかしら…💧)」
・・・・・
バルバラ「私、今日は一日中、限界まで踊ったわよ、ナースチャ!
ナースチャが、ここまで私のハードルを一気に上げてくるなんて、思いもよらなかったんだもの…
でも大丈夫、あの衣装を着て踊っていて、体のどっかに負担が来るようなことは、全く無かったわ✨✨
バレエ学校の衣装係の人も、バレエ教室の子達も、先生たちも、この衣装を見て、本当に驚いて感心してたわよ✨」
それに、明日がオーディションだからって、あんまり無茶をして踊り過ぎるのは、かえって良くないわ。
…ココア淹れるわね。もう、今日は何もせずに、よくおやすみなさい」
バルバラ「いや、あんた、めちゃくちゃ上げたのよ、ナースチャ。
私、あんたが私の舞台衣裳を作るって言ってくれた時、そりゃ嬉しかったわ。
だけど、この国に来たばかりの、私とそこまで歳も違わない、当然プロでもないデザイナー学校の一留学生が、ここまで本格的なデザインの衣装を、こんな短期間で作りあげるだろうなんて、全っ然、思ってもみなかったの💦💦
正直『私のバレエの技術で、ナースチャの衣装の未熟さをカバーしてあげなきゃ』位の気持ちでいたのよ💧」
バルバラ「うん、プロを目指す人の仕事って、こんな感じなんだね…✨私も、この衣装を泣かせない仕事をしなきゃって、多分、人生で一番、この1週間は夢中になったよ✨
…ところで、ナースチャ、私がここに寝泊まりするようになってから、ラークとは連絡取り合ってないの?
私がここに来てから、これまで、ラークとあんたが連絡を取り合う所を、一度も見てないけど…😟」
私の方からも、なかなか連絡する時間が取れないのだけれど…この一週間、ラークさんから、一度も連絡が来ないのよ…
ラークさん、新しい事業を始めると言ってたから、それでなのかしら…」
バルバラ「…私のせいかな」
ナースチャ「え?」
バルバラ「私に遠慮しているんじゃないかしら。ラークは。
私とは、元々互いの印象が悪かったし、それに、私がナースチャのことを…」
バルバラ「…いや、何でもないわ。
私を本番前に、ソニアの時みたいに動揺させないようにと、気を回して、ラークは、あんたに連絡出来ないでいるのかもよ🤔」
ナースチャ「うう…そういう理由なのかしら、そうなのかしら…」
バルバラ「困った未来の旦那だな。あいつ…💧
私は大丈夫だってば。だから…」
♪~♪
ナースチャ「もしもし。
…あ、ら、ら、ら、ら、ラークさん?!ラークさんなの!!」
・・・・・
???「あの…ごめん下さい…」
クックちゃん&ロビンちゃん「は~い!今、戸を開けますね。
…おばあちゃ~ん、お客様だよ~」
おばあさん「はい。あら?…こんな遅く、どちらさまかしら?」
…マレット、あなた、たった一人で、ここまでやって来たの?😟💦」
・・・・・
これまでのお話
登場人物&設定
・・・・・
「ゴリヴォーグのケークウォーク」ドビュッシー
なんとドビュッシー自身の演奏。
「ゴリヴォーグ」とは、イギリスの「2つのオランダ人形とゴリヴォーグの冒険」という児童書(フローレンス・アプトン作)に書かれた黒人人形の名前。
オランダ人形というのは、例の「人形の家」のトチーちゃん、つまり一文人形です。
そのゴリヴォーグが、ケークウォークというダンスを踊り回る様を書いています。
私が昔、これを弾いた時には「小さなくろんぼ」と訳されており、元のタイトルは「Le petit Negre」なんで、この方がニュアンス的には正確です。
欧米で、Negreが差別用語になり、ドビュッシー自身がつけたタイトルを「Le petit Noir」に改名し、日本もそれに従って「小さな黒人」に変えちゃったんですが…そういうのってなんか姑息でキライ