ザスタのクマさん

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あらゆるアート、デザイン、 特に写真が大好きなクマこと熊谷の作品集。

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いよいよ甲信越も梅雨入りしたようで・・・
僕が創った水滴をためた日本列島の更新です。

☔ 蒼い水の日本列島

三尺×六尺の白いアクリル板を、厚めのガラスを敷いた撮影台
上へ拡げ、まず透明なカッティングシートをそっと貼る。

陸地の輪郭を切り抜く仕事は、地理教師よりも執念深い。
北方領土を切り過ぎては溜息をつき、
九州を削りすぎて反省する。やがて机の上に、
日本がぽっかりと「穴」として現れた。

国土が失われる瞬間を、これほど冷静に眺めたのは
歴史でも政治でもなく、カッティングナイフであった。

穴になった日本へ、今度は水を戻す番である。スポイトを握ると、
私は急に神さまよりも理科準備室の助手に近くなる。
ぽとり、ぽとりと青い水滴を落としてゆくと、本州の背骨がぬらりと光り、
四国は18滴で満員電車になった。九州に至っては、火山とカルデラの
区別もなく、水たまりとして満足している。







スタジオの灯を消し、ストロボ透過光を入れる。
アクリル板の下から白い光が立ち上がり、「蒼水の日本列島」は
ゆっくりと浮上した。海ではなく、光に支えられた国である。
ここには梅雨前線図も、ダムの貯水率もない。
ただ、スポイト一つぶんの天気予報だけが、静かに青く輝いている。

シャッターを切るたびに、ストロボが稲妻のように走る。
瞬間ごとにかたちを変える光の中で、
水滴は、ただ黙って日本列島のふりをしている。

こうして私は、自分のスタジオの片隅で、私製の気象庁になった。
梅雨前線も、豪雨警報も、撮影スケジュールの都合ひとつで決まる。

ただひとつ困ったのは、撮影を終えて照明を消しても、日本列島だけが
しばらく目蓋の裏で光り続けたことである。

スタジオを出ると、本物の空からも、ちょうど良い具合に雨が降り出した。
私は傘を開きながら、小さな声で天気予報を読み上げてみる。

「本日、蒼き日本列島、撮影日和のち、ところにより感傷。」

撮影  文   熊谷

昔のミュージカル、ジーンケリーさん



「嵐が過ぎ去るのを待つな、雨の中で踊れ(Don’t wait for the storm to pass,
dance in the rain.)」でも風邪を引かないように・・・



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あなたのおふくろの味は?


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1955年(昭和30年)6月7日に東京・豊島公会堂で第1回母親大会が開かれた事を
記念して制定された記念日。毎年6月7日に「母親の立場から平和や子ども・
教育・暮らしなどを考える日」とされています。

六月の夕日が、草原をゆっくりとなでている。
茜色の光が、草の一本一本に名前をつけてゆくようだ。

夕日の草原で、母親が赤ん坊を「高い高い」している。
逆光のせいで、二人は真っ黒な切り絵になり、
顔の表情までは見えない。。

高い高い。
母の両腕が、ためらいがちに天へと伸びる。
赤ん坊は、空に放り出された一行の詩のように、
ひととき宙づりになる。

母はもう一度、高い高いをする。
今度は、少しゆっくりと。











赤ん坊の笑い声が、
草原の上で小さな集会をひらき、

平和、という難しい議題を、
ただのくすぐったさに変えてしまう。

やがて腕が疲れ、
母は子を胸に抱き寄せる。
世界を守るには、
筋力も気力もいささか不足している。

それでも、自分の両腕の内側だけは、
戦争に貸さないと決めている。

陽が落ちる。
草原は群青色のホールに変わり、
母と子だけが、
最後列の二席を静かに占めている。

拍手の代わりに、風がそっと吹いた。



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雨の日の楽しみ方を教えて!


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カエルの日は、毎年6月6日に「ケロケロ」という鳴き声の語呂合わせから制定された、日本のカエルにちなんだ記念日で、カエルの魅力発信や関連イベントが各地で行われます


今日はそろそろ梅雨入りかな!?にふさわしい1枚の更新。


朝の光が、田の面に零れていた。
まだ眠そうな稲の列をなぞるように、
うっすら靄が流れている。

やがて、光が水面にほどけて、
世界が一瞬だけ金色になる。
その一拍を逃すまいと、

アマカエルが一匹、
どこからともなく跳び出してきた。








ぴしりと決めたつもりのジャンプは、
途中で少し迷ったらしく、
着地点を一寸ほど見誤る。

泥水が小さくはねて、
カエルの背に斑点のような
飛沫を散らした。

カエルは咳払いをひとつして、
何事もなかったふうに胸をそらす。

朝日が、その丸い背中を
金色のボタンのように光らせている。

通りすがりの雲さえ、
笑いをこらえているように見えた。




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撮影  文   熊谷

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老後の趣味にしたいことは?


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6月5日は語呂合わせで老後の日。
「老後についてみんなで考え、支え合う行動を起こす日」として
(一社)神戸市老人福祉施設連盟が2008年に制定した記念日。

七転八起との言葉がありますが、
生死の境を3度ほど彷徨って、まだ3転4起位に過ぎないかな・・・
(経済苦は、ほぼ絶え間無く続いているけど)

だから、10転する位迄、僕には老後は無いと思っているよ。

ところで、僕のデスクの前の壁にはこんなA4のプリントと
縦長の絵葉書が飾ってあって

上の一枚は上の一枚はジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した
『創造の柱』は無限のかけらであり、永遠を求める様な、
星雲の指の形に見える造形が好きだ。

下の一枚は晩年の葛飾北斎が描いた『富士越龍図』

僕が最も尊敬する葛飾北斎は、
日本を代表する江戸後期の浮世絵師であり、
海外でも最も名の知れた画家です。

北斎は森羅万象を描き続け、生涯で3万点を超える作品を発表しました。
なかでも『北斎漫画』や『富嶽三十六景』は北斎の代表作です。

まさに老後、70歳代に入ってからは代表作『冨嶽三十六景』を描いた頃
平均寿命50歳以下の時代。「思えば七十歳以前に描いたものはみな、
取るに足らないものだった』と述べてます。








九十年の風雪を吸い込み、なお「神妙の域は百歳から」と豪語した男が、
最後に選んだのが富士と龍であったことは、いささか出来すぎた話だが、

雪をいただく山の静謐さと、墨一色で天を突き破ろうとする
龍の暴力的な上昇とが、一幅のうちに矛盾なく同居しているのを
見るとき、我々はむしろ、これは偶然ではなく、
老境という名の必然だったのだと思い知らされる。

この龍は祝意の象徴としての吉祥図ではない。
出世を約したはずの天上は、すでに描き手の寿命の彼方にある。

にもかかわらず、鱗一枚一枚はなお尖り、爪は紙を破らんばかりに
研ぎ澄まされている。老いは肉体を奪っても、
線のうちに潜む野心までは取り上げそこねたらしい。

浅草の貸長屋に戻った90歳の春ごろ、
病床に伏すようになり、4月半ばに世を去る。

「いや、もうあと5年長生きできたら、
本当の画工になることができたものを」が最後の言葉。

北斎が願った「あと五年」の命は与えられなかった。
その代わりに彼は、この一匹の龍に、自らの未完の野望を
封じ込めて手放したのだろう。

富士を越えるとは、ついに自分自身をも越えきれなかった
絵師の、最後の虚勢であり、同時に唯一の真実であった。

紙上の龍は今日もなお、天を知らぬ顔で昇り続けている。

あの龍は、こちらを振り向きもしないが、道だけは残してくれた。
富士のふもとから天頂まで、迷いなく伸びる一本の上昇気流。

ふと気がつく。これは若さへの未練ではなく、
未熟であり続けることへの固執なのだ。

完成してしまえば、龍はただの蛇になる。
老いとは、天井ではなく、上を見なくなる
現在進行形、瞬間の名なのだろう。

そして九十までは、まだ幾らか年が残っている。

その端っこにしがみつきさえすれば、私のような未熟者でも、
ほんの少しだけ、北斎の背中に近づけるような気がするのである。





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撮影  文   熊谷



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最近見た虫教えて!


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今日は虫の日。

虫の日とは、毎年6月4日に「む(6)し(4)」の語呂合わせから、
昆虫や虫の命・自然環境に目を向けるための記念日です。

🐞 雨上がりの情景

台風の名残りの雲が、まだ西の空に皺を寄せている。
濡れた校庭の隅で、四葉のクローバが一枚だけ、やけに慎ましく光っていた。

その小さな緑の卓上に、一匹の天道虫がよろめき上がる。
翅の水滴が重いらしく、殻は雨後の路面のように鈍く曇っている。










🌱 虫の日のまなざし

風の去った世界には、人間の言葉より先に、
虫の沈黙が戻ってくる。
彼は多分、避難所からの帰途なのであろう。

押し流された草の林を、
甲冑一枚で渡り切った英雄にしては、
その斑点はあまりに滑稽である。

四葉は、そんな彼の帰還を祝して、
偶然を一枚多く生やしたにすぎない。

🌈 ささやかな終章

空のどこかで、遅れてきた陽が顔を出す。
天道虫は、名に負われたその天を、
確かめるように翅を割る。

だが飛び立たず、ただ丸くなる。
幸運を拾い上げるのは、
いつだって人間の役目で、

虫の仕事は、そこに在るだけのことらしい。




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台風6号のせいで梅雨入りに、ピッタリな更新です。

みなさん、カメラを持って出かけたとき、少なくとも1回ぐらいは
水溜りやガラスに映っている風景や人を撮ったことがありませんか?

今回は海外の写真コミュニティーで「映り込み」をテーマとした
素晴らしい作品を紹介します。


Image Source
http://stylishwebdesigner.com/examples-of-reflection-photography/



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運河に知らない宮殿が




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プールに暗黒のジャンプ台



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水中の女性が上の逆水面に



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水に横たわる女性の上半身と映り込み



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歩道の水たまりかがみ込み、手で触れる若い女性。



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歩道の水たまりが映すピンク傘の少年と雲空



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ガラステーブルと少年


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窓ガラスと外を眺める少女



僕もたまに映り込みを撮る

水たまりのほとりに僕はしゃがんでゐた。





雨垂れ、金色の街灯やヘッドライトを映す水の紋を見てた。

時を忘れて孤独な考えに耽る人のように。

私はそれらを撮るつもりではなかつた。

ただ、そこに落ちてゐる名もない光の煌めきを

拾ひ上げたかつたのである。

熊谷



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家庭用品「エリエール」のブランドにおいて赤ちゃん用の紙おむつ
「GOO.N(グ~ン)」を製造・販売する大王製紙株式会社が制定。

ということで、今日の!枚

六月二日、暦には「おむつの日」とある。
0・6・2を「お・む・つ」と読ませた人間の知恵に、
私は苦笑しながら、『子年の年賀状用』に撮影した
一枚の写真に目を落とす。

人種も国籍も時代も越えて、最初に身につける
共通の「衣服」が、よりによっておむつであるという事実。

世界でいちばん愉快で、いちばん抒情的な冗談ではないかと。









真ん中には三十年前の息子。まだ言葉もおぼつかない頃、
白いおむつが腹のあたりで不格好に膨らんでいる。
左には黒人の女の子。右には白人の女の子。

ミッキーとミニーの髪飾りの三人は並んで座り、
まだ世界の差別も戦争も知らぬ顔で、同じ方向を見ている。 

レンズのこちら側で私はただ一心に、彼らの未来を信じ、
「はい、ピース」と号令をかけ、シャッターを切った。

その瞬間、私はふと、この三人のうしろに見えない
赤ん坊たちの行列を感じる。紙おむつを腰に巻き、
まだ世界の境界線を知らないまま、ただ笑顔のほうへと
よちよち歩いてくる無数の子らである。

彼らは国籍という言葉を知らず、
肌の違いもミッキーとミニーほどの差としか思わないだろう。

ストロボの煌めきは、その一人ひとりの未来を、
一瞬、白く照らし出す。

おむつを卒業したのちも、デズニーヘアーバンドを忘れたのちも、
その眩しさだけは、どうか胸のどこかに残りますように。

できたら、すべての赤ん坊の、おむつが似合う時間が、
もう少しだけ長く、もっと平和であるようにと。



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撮影  文 熊谷

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6月なので、ブログのヘッダーを変えました。





アカデミア橋から見る、カナルグランデ大運河の夕景運河・ゴンドラ・建築物と、
ベネチアを代表するものが凝縮されていますね。
奥に見えるきれいな円形の建築物は、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂です。

夕映のアカデミア橋というのは、たいてい写真家と観光客と、
それから少しだけ詩人を寄せ集める場所である。

私がそのどれに属するかは、本人としても判然としない。
ただ、橋の欄干に肘を置いて、カナル・グランデを一枚に
押し込めようとするあたり、俗物の端くれであることは疑いない。

奥のサンタ・マリア・デッラ・サルーテの丸屋根は、その上に慎ましやかな
後光を頂き、老いた修道女の様な顔つきで、なおも観光客カメラに耐えている。

どこかで油の焦げる匂いと、古い水の匂いがまじり合って、
今日という一日の底の方から立ちのぼる。

ゴンドラはといえば、さすがにこの時間ともなると勤勉さを失い、
店仕舞いを決め込んで、ため息のような波だけ残して
桟橋の陰へ引き上げてしまった。

その代わりと言っては何だが、モーターボートが一隻、
こちらに向かって直進してくる。
水面を割るその進路は、図々しいまでに一直線である。



原画

アカアカデミア橋から見る、カナルグランデ大運河の夕景




ボートの先端が、真っ直ぐこちらの胸元を狙っているように見えるのは、
運河の向きのせいなのか、それとも自分が世界中の遠近法の消失点に立っている、
ささやかな思い上がりのせいなのか。

ベネチアという都市そのものが、沈みかけた時間の上にしがみつく
建築物の群れだとすれば、その上に橋を架けて眺めている自分は、
沈みゆく物語を見物するだけの、無責任な観客にすぎないのかもしれない。

夕映えは、いつのまにか、群青に変わっていた。
運河に灯る明かりが、風にちぎられた金箔のように、
ちょっとずつ揺れている。欄干の上を、後から来た観光客の肘が、
入れ替わり立ち替わり占領していく。

本当のところ、あの瞬間、私がレンズ越しに見つめていたのは、
ベネチアでもボートでもなく、轢かれ損ねた自分の胸の内だったのかもしれない。
けれど、それをそのまま写すには、この街は、あまりに絵になり過ぎる。

そこで私は、アカデミア橋を後にしながら、こう考えることにした。
抒情とは、臆病な自意識が、風景に払う、ささやかな落とし前なのだ、と。

撮影  文 熊谷




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毎年5月31日は、世界保健機関(WHO)が定めた世界禁煙デー
(World No Tobacco Day)です。
喫煙は世界中で心血管疾患、呼吸器疾患、がんなどの様々な病気の原因となっており、
年間800万人以上が喫煙関連の疾患で死亡しています。

咽頭癌ステージ3と宣告された日のことを、医師はもう忘れているだろうが、
私は喉の奥まで覚えている。あの日、私は長年の相棒だった煙草を、
実に文学的な所作でゴミ箱に叩き込んだ。

もっと早く気づけ、と煙もないのに目がしみた。
奇跡というのは、宗教書の専売特許だと思っていたが、
九割方諦めていた声が、ある日、留守電のように戻ってきた。
「ただいま留守にしております」程度のか細さではあったが、
それでも自分の声が自分に向かってくるのは、なかなか悪くない体験だった。

それでも不思議なもので、人は失いかけて初めて、
自分の声が案外いい奴だったと知る。
九割方沈んだところで、残り一割がちゃっかり生き延びたのは、
医学か偶然か、それとも未練だろうか。




もしも昔の一本が、いま目の前で煙を揺らしてきても、たぶん言える。
「すまないね。こっちはもう、声で遊ぶほうが忙しいんだ。」って




めでたし、と思ったのも束の間、四年後に白血病がやって来た。
カルテを覗くと、病名欄に「続・がん物語」とでも書いてありそうである。
どうやら放射線治療のお釣りらしい。

世の中にはポイント還元という親切な制度があるが、
がん治療の還元ポイントが白血病というのは、
どう考えても説明不足である。

骨も血も心も、一度はボロ雑巾のようになった。
ところが不思議なもので、雑巾も干しておくと、
またそこそこ拭けるようになる。

退院して九年たった今、私はこのくたびれた身体で、
相変わらず写真を撮り、よく食べ、そこそこ笑い、ときどき涙ぐむ。
 
声は相変わらず少し掠れている。しかし、この掠れには、
四度目の焼き直しに耐えた陶器のような、妙な艶がある。

振り返れば、身体はすでに新品ではない。
保証期間をとっくに過ぎ、部品もあちこち交換待ちだ。
けれど、ボロボロのラジオほど、ダイヤルをゆっくり回す楽しみがある。
雑音の向こうから、かすかに音楽を拾い上げるように、
私は毎朝、自分の声を確かめる。「まだ、聞こえるか」

14年前に投げ捨てた最後の一本の代わりに、今日もその言葉を
胸のポケットに差し込んで、「世界禁煙デー」という名の、
ちょっとした記念日を歩いている。


撮影 文 熊谷




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今日はゴミゼロの日。「ゴ(5)ミ(3)ゼロ(0)」の語呂合わせです。
関東地方知事会が1982(昭和57)年から実施、
各都道府県の環境美化推進協議会を中心に全国に広まっています。

ということで、本日は僕がこの道を進む、きっかけの中の一枚です。

村はひるさがりの眠りに沈んでいた。
土の家々は影を短くまとめ、
犬の吠え声さえ、どこか遠い峡谷の向こうで
聞こえるように鈍くなっている。

広場の隅で、二つのごみ箱だけが、
陽光をまといながら宙に浮かんでいた。

地面に影があるのに、箱は地を離れている。
錆びた金属の側面には、かつて貼られていたであろう
紙片の白い跡が、消えかけた文字の亡霊のように残っている。

誰かの手が投げ入れたはずの缶詰も紙くずも、
とっくに回収車とともに去り、
残されたのは、使命を忘れた容れ物だけだ。






奈良原一高《消滅した時間 アメリカン・インディアン村の二つのごみ箱、ミューメキシコ州》(1972)
世界で一番美しいゴミ箱写真に違いない!



この村の老人は言った。
「時間は、ここでは輪になって戻ってくる」と。

けれども今、レンズの中では、輪はほどけ、
芯だけが空中にぶらさがっている。昨日のごみと明日のごみの
あいだにあるはずの今日が、ふいに抜き取られてしまったようだ。

もしも風が一度だけ強く吹けば、箱は音もなく倒れ、
ありふれた風景の道具に戻るだろう。その瞬間、消えていた時間は
また流れはじめ、人々は何事もなかったように、
昼餉の残りを投げ入れるに違いない。

写真家は、それが起こる前の、
世界が一拍だけ息を止めた刹那を盗み取った。

フィルムの上でだけ、ごみ箱はいつまでも宙に留まり、
この村の「今日の不在」を語りつづけるのである。



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