貫き通した『日々是好日』(にちにちこれこうじつ)【臨時】 | アディクトリポート

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『日々是好日』(にちにちこれこうじつ)

2018/10/17 TOHOシネマズ西新井 スクリーン10 F-14

 

日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ (新潮文庫)
森下 典子
新潮社
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『日々是好日』という題名をどう読めばいいか記憶も定かでないまま、

劇場でかかる予告編も面白く、

観ようかなと考えているうちに、

出演者の樹木希林がお亡くなりに。

2018/9/15

 

2012年頃、中島知子問題の時だか、

2013年の沢尻エリカがらみ?の発言で、

「ガンが全身に転移」と打ち明けながら、

いっこうに病状が深刻化したとは聞かず、

万引き家族』を観ても、

「ピンピンしとるやん(一応、死ぬ役だけど)」としか感じなかった。

 

しかし本木雅弘氏から、一時危篤の報がもたらされ

2018/8/30

その2週後についにご臨終。

 

というわけで、遺作※を見逃すわけにもいくまいと、

アサイチの上映に出かけた。

 

※遺作となるのは、初めて自ら企画も手がけた2019年公開予定の映画『エリカ38』

 

平日の早朝だが、ご年配の観客が押しかけていた。

 

 

内容は、若者向けとはさすがに言い難く、

送り手側もそれはさすがに承知なので、

冒頭に、

子供時代に家族でフェリーニの『道』(1954・未見)と言う映画を観たが、

さっぱり良さがわからず、

映画『日々』の半ばで、

成人してから見返して、

ようやくその良さを実感したというエクスキューズがある。

 

これにはちょっと、イヤな予感がした。

冒頭で「言い訳」する映画に、

『マグノリア』(1999・監督ポール・トーマス・アンダーソン)というのがあったが、

ただダラダラと長い(188分)だけで、

ばらまいたデタラメはとっちらかったまま、

最後にとどめの、唐突な別要素が入り込み、

 

それまでの展開とは無縁に、カエルの雨が降ってくる狂気の映画。

 

映画は崩壊したまま終わった。

 

第72回アカデミー賞3部門にノミネートだが最優秀賞の受賞はなく、アメリカ人はだませなかったが、ベルリン映画祭で金熊賞(グランプリ)を受賞し、

『さよなら、さよならハリウッド』(2002)が示すように

arenn

ヨーロッパ人はコロリとだまされた。

 

だが、『日々是好日』の場合は、

この言い訳への不安は杞憂(きゆう)に終わった。

 

前のブログ(全てが下回る『音タコ!』【臨時】ブログ上位ランキングの秘訣)で、

『音量を上げろタコ!』は、

同日に観た

『日々是好日』(にちにちこれこうじつ)

と、

『コーヒーが冷めないうちに』

の、吟味、推敲の徹底ぶりに比べて、

あまりにもスカスカぶりの乱雑作。

 

——と述べたように、

『日々是好日』は、

  • 題材の選定
  • 舞台設定
  • 配役
  • 脚本
  • 撮影
  • 録音

——と、全ての映画の要素が、考え抜かれ、やり通され尽くし、

本作ならではで、

他のどの作品とも異なる独自世界が築かれている。

 

それを具体的に説明しても、

落語の噺(はなし)の、どこが面白かったかを説明するぐらいヤボなのでやめておく。

 

なので、ここから、

残念だったところを挙げはするが、

作品自体はとにかく必見、

別に以下の指摘が欠けていようが、

良い映画には変わらないのでお間違いなく。

 

録音が驚異的にすぐれた映画で、

お湯(とろりとろり)と水(ポタリポタリ)の音の違いが聞き取れる!

 

後付けのフォーリー(効果音付け)を避け、

同録(一発録りの同時録音)を駆使したからこそだろうが、

そのために弊害も。

 

茶法の所作は、何しろ動作と音が一致しないとダメなため、

カメラ1台でとらえ、極力、同録音声が使われている。

 

お茶を立てて、泡の際(きわ)に三日月が生じる

と樹木希林が説明するが、

その画面撮りのカットは、

後でまとめ撮りで示される。

 

日本の伝統文化の茶道を記録するなら、

デジタルなどの最先端の映画技術を駆使するなんて邪道と考えたのか?

 

寄りのブツ撮りカメラマンを撮影現場にグリーンバック設営で居合わせて、

後で役者の引きの映像から、デジタル処理で消せば良かったのに。

 

同様に、これは本作のみならず、

ほぼ全ての邦画に通じる問題だが、

歳月の経過を通常のメイクと髪型だけで切り抜けるのは手抜きだと思うが、

『あの頃、君を追いかけた』でも、

『検察側の罪人』でも、

『コーヒーが冷めないうちに』でも、

全作でことごとくデジタル処理を使わないのは、

「それは(お金がかかるので)やめときましょう」という協定かなんかがあるのか?

 

『日々是好日』は、黒木華(実年齢はこの原稿執筆時で28歳)と

多部未華子(実年齢29歳)が、

20歳で茶道を習い始め、

25年後の45歳までを黒木は演じるわけだが、

髪型以外はほぼ外観に変わりなく、

それは樹木希林でも同じである。

 

これを手抜きと言わずして…。

 

反対に、

凝った特殊メイクで老化させた鈴木京香の『血と骨』(2004)や、

 

松嶋菜々子主演、さだまさし原作、犬童一心監督の『眉山』(びざん・2007)で、

病気にやつれた宮本信子のデジタル像もあるにはあったが、

どちらもアップにはならず、

引き(ロング)でごまかされた。

 

黒木華の45歳は、

藤田朋子に演じさせるとか、

せめて何かしらの工夫が欲しかったよ。

 

以上、もう一人の武田先生(『日々』劇中の樹木希林の役名)からの感想でした。