5/15 試写で鑑賞
私のインド映画への偏見は相当なもので、
良さに魅入られた日本人による“なんちゃって版”
『ナトゥ 踊る!ニンジャ伝説』(2000・日本映画)
とか、
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『スラムドッグ$ミリオネア』(2008・イギリス映画)
等の“まがいもの”しか見ておらず、
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ようやく
『ロボット・完全版』(2012)
が初めて鑑賞した本物のインド映画。
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しかし、『ロボット』のまさに予想通りの内容=典型的なインド映画、
すなわち
- 女優は美人
- 男優はひげ面でイカツイおっさん
- いきなり歌い出し、踊り出す
- 歌とダンスがメインで、それに分断されるドラマの本筋は添え物という主従逆転
の連続、パターン化に、
私の期待するものはインド映画にはないと判断。
『バーフバリ』の好評を知っても、
まったく観る気がしない。
インドにはいかにも典型的なインド映画しかないのか?
『人間機械』はその疑問に答え、
これまでの娯楽作では決して見なかった、
インド社会の闇が延々と映し出された。
インドにも、まともな社会派映画監督がいたわけだ。
というわけで、典型的なインド映画には望めないものを見せてくれる、
『人間機械』をまずは強くオススメしておき、
ここで早々と路線変更。
※本作については、後日ネタバレビューも書く予定です
と約束しておいた『万引き家族』に話題を移す。
『万引き家族』の評価ポイントは、
- 着眼点のユニークさと、
- 是枝(これえだ)監督の過去作を振り返り、明らかな改善点が盛り込まれているかどうか
——で、
その視点を持っていなければ当然、
正当な作品評価ができるわけがない。
ところが、カンヌ映画祭のパルム・ドール賞受賞につられて、
初めて是枝作品に接した人の中には、
真意がさっぱり伝わらず、
満足できなかった腹いせに、
言いがかりや捨て台詞を、
Yahoo!映画レビューの低評価に残しているのを散見した。
わかってないなあ、
と思いつつ、
相手は「どうせ私はバカなんでわかりませんよ」と開き直っているからタチが悪い。
むかし、ダウンタウンの松本人志が、
山﨑邦生(現:月亭邦生)の幼稚すぎる言動に呆れて、
「お砂場で遊んどき」
といさめていたが、
『万引き家族』が理解できず、いいがかりをつけてる奴は、
まだ映画経験値(映画偏差値)が足りないんだから、
むりして背伸びして是枝映画なんか観ないで、
せいぜい『バーフバリ』でも見ときなよ。
という気分にさえなる。
※あくまでも私個人の感想です。
さてそうした「言いがかり低評価」を記憶の限りでたどっておくと、
リリー・フランキーが作業現場で働く場面で、
準備体操の様子がリアルでなく、
「是枝よ、勉強し直せ」
というのがあって、
「よりによってケチをつけるのがそこかよ!」と、ひたすら呆れた。
肉体作業現場の様子がやけにリアルな作品と言えば、
宮迫博之と仲里依紗主演の、
『純喫茶磯辺』(2008/7/5公開)が思い出される。
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肉体労働の現場では作業に入る前に、
各分担の責任者が今日の作業の留意点を説明するが、
これが完全なルーティンに堕し、
単なる通過儀礼や呪文唱えと化している様子がめちゃめちゃリアル。
監督・脚本の吉田恵輔氏に、現場経験があるんだろう。
意外な拾い物的な小品で、
けっこう気に入って記憶に残ってはいるが、
『純喫茶磯辺』を褒める際に、
このガテン系現場のリアル描写(だけ)をあげつらったら、
果たして作品を正当に評価していることになるだろうか。
これとまったく同じ理屈で、
『万引き家族』の作業現場のシーンをくさして、
「だからダメ作品」ってことにはならないだろう。
ちょうど10年前の作品、『純喫茶磯辺』の知名度や興行成績が、
今後10年経過しようと、
『万引き家族』と逆転するはずがない。
さて、是枝監督と言えば、
世間に認知された出世作は、
『誰も知らない』(2004)だが、
内容が衝撃過ぎて、
二度と見たくないトラウマ映画になってしまった。
是枝作品は、これまで他のどの映画作家も取り扱わなかった題材を取りあげ、
(ここが『人間機械』と製作姿勢が共通している)
そうするからには問題を告発、糾弾する意図もあるだけに、
取って付けたように安易な解決で終わりにしないわけだが。
だから是枝作品と言えば、
たちまち『誰も知らない』の恐怖が甦り、
また失意と絶望のドン底にたたき落とされるのではと身構えたのはたしか。
しかしビクビクしながらテレビで見た(2015/2/7)、
『そして父になる』には、それがなかった。
恐怖から解放されたこともあってか、
先日放送された3回目(2018/6/16 是枝による「特別再編集版」)は、
初回放送より印象がずっと良かった。
このように、是枝作品は確実に進化しており、
『万引き家族』にも大いなる進歩が見られた。
まずは笑いの要素の拡大。
JKリフレ店で働く、信代(安藤サクラ)の妹という(ことになっている)亜紀(松岡茉優)は、
「どんなに絶望的な境遇にあると、そこよりもここがいいと思えるのだろう」
と心配になるほどに、
悲惨な寄せ集め家族に身を寄せている。
ところが彼女の身元は作品中盤に明らかになり、
その意外さと皮肉の効いた暴露に、
笑いが止まらなかった。
このように『万引き家族』鑑賞中ずっと、
笑いと涙のバランスは絶妙で、
「下がると思えばまた上がる」
感情の波にゆさぶられながらも気がかりは、
おそらくは本作の主人公に据えられたであろう、
最年少のゆり(りん、北条じゅり/演:佐々木みゆ)が、
これほどの環境の激変に遭ってしまって、
果たしてこの先、まともな生き方ができるのかという、
たまらない不安であり、
それが最大の関心事だからこそ、
固唾を飲んで見続けた。
すると不安が的中したかのように、
祥太(城桧吏=じょう・かいり)が「りん」をかばうためにしくじったあたりから、
これまで隠してきた家族の秘密が次々に暴かれ、
守り通してきたものが全て崩れ去る。
ああ、やっぱり。
『誰も知らない』と同じように、最後は悲劇と絶望なのか。
一方、「じゅり」は元の家族に戻されたことで以前と同様に虐待の被害者となり、
治に発見されたときと同じバルコニーでただ遠くを眺めているのだった。
——となっていますが、
このストーリーを書いた人はバカですか?
※いや、ネタバレ防止の映画パンフからの転載かも知れませんけど。
私が一度だけ観た映画を思い返せば、
りんは、もとの北条家に「じゅり」として戻る。
母親の北条希(片山萌美)は夫・北条保(山田裕貴)の暴力を受け、顔に傷がある。
りんは、柴田家で学んだ、
癒やしの接触を希に試みるも、
そういうスキンシップが皆無だった希に気味悪がられて拒絶される。
新たな母、柴田信代(安藤サクラ)から、
本当に好きな人にはどう接するかを学んだ“りん”は、
ここで実の母=北条希には、自分への愛がないことを感じ取り、
柴田家で覚えたビー玉遊びに興じて、
母・希への心を閉ざす。
いっぽう、娘への対応は全てウップン晴らしだった母親の希は、
不手際の原因は常に娘にあるので、
「ごめんなさいは?」と謝罪を要求するも、
りんはこれを完全無視。
かくしてりんはこの歳にして親離れが済み、
希の方は事件を経ても反省がなく、おそらく永遠に子離れができない。
最後のシーンは、“じゅり”が寒空に放置され、
柴田治(リリー・フランキー)が見るに見かねて彼女を連れ去ったのと同じベランダだが、
彼女は一人遊びに興じていて心細さがなく、
もしもこの光景を目撃されても、誰も保護しようとは思わないまでに成長している。
というわけで、映画『万引き家族』は希望に終わり、
『誰も知らない』のように、トラウマになったりしない。
是枝氏は映画監督なので、
セリフで全てを説明せず、
じゅりの無言の姿勢で全てを示す。
ああ、それなのにそれなのに。
「モヤモヤする」
「釈然としない終わり方」
「ラストシーンが理解できた人はいるのか」
云々のマヌケ発言に接すると、
「キミはお砂場で遊んどき」
としか言えないよ。
「ただし熱中症だけには、気をつけてくれよな」
(野沢雅子の声マネ、アイデンティティの田島直弥の声で)