役者が生きる!『万引き家族』 | アディクトリポート

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※内容のネタバレは一切ありません。

 

『万引き家族』

2018/6/10 TOHOシネマズ西新井 SCREEN5 F18

 

是枝裕和(これえだ・ひろかず)の原案・脚本・監督・編集作品は、

話の展開が完全に独特な語り口で、

既存作からの引用やパターンの踏襲がないから、

まったく筋立ての予測がつかず、

この先どうなるのかと目が離せないまま、

引きこまれ続けて、食い入るように観てしまう。

 

というのは「良い時」で、

作品ごとに好不調が異なり、

「あの○○の監督が、どうしてこれを」

と「悪い時」…とまではいかずとも、

不調気味なことだって、たまにある。

 

『海街diary』(2015)は劇場では未見。

テレビ初放送の時は書きもの(たしかこのブログ執筆)に追われ、

音声を聴いて画面はあまり見なかったこともあり、

さっぱり響かなかった。

 

先日、6/9にテレビ2回目の放送を、

今度は「ながら視聴」ではなくじっくり見続けて、

画面の力に惹きつけられて、

最後まで見通しはした。

さすがに初回鑑賞より好印象にはなったが、

女優を魅力的に撮ることだけに腐心し、

それ以上ではないのが残念だった。

 

原作ものだと、奮わないのは元(原作)のせいにできるから、

さしもの是枝監督でも、

どうやら全力投球は避けたんではないか。

 

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CMが入って分断されるテレビ放送というハンデもあろうが、

なにしろ『海街diary』には引きこまれることなく、

のめりこまず、

片手間に観てしまう。

 

これなら『空気人形』(2009)の方がずっといいけど、

づな

あの映画、なぜかどこにも触れられず、

すっかり「なかったこと」にされている。

 

かなりきわどい内容から、

とてもテレビ放送は望めないからか、

ご存じない方も多いのでは。

 

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『誰も知らない』にはとにかく戦慄したが、

だれしら

当時の公開館は数えるほど。

チケットのネット予約があたりまえの今となっては懐かしい、

シネカノン有楽町の初日(2004年8月7日)に行列して、

それまでにない語り口と筋立てに圧倒された。

 

実は是枝作品は、

これまたテレビで、

『そして父になる』を観ただけである。

 

本人は気づかずとも、

彼の映画は新しいホラーではないか。

 

『誰も知らない』は、『火垂るの墓』と共に、

傑作だけど、二度と観たくない衝撃作品。

 

『そして父になる』では、

主人公の福山雅治は、

「そうならないように」整えた安全策や保険が次々に崩れて、

まさに「そうなって」しまい、

まるで策を練ったのが嘲笑されるような状況に陥っていく。

 

というように、

人々が不安を抱いていた方向に物事が進んで、

結局手に負えなくなっていくという心理的恐怖こそ、

是枝作品に根ざす根幹だと気づいた。

 

はてさて、

『万引き家族』は、

やはり同様の不安感と恐怖心をあおりながら、

『誰も知らない』

と重なる部分が多く、

最後まで観て、

「あれ、この感覚、たしか最近、別の映画で味わったよな」

と思いだしたのが、

『湯を沸かすほどの熱い愛』

だったが、

具体的なことはネタバレになるので書くのは避けよう。

 

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それでは、

わざわざ『万引き家族』に興味を持って、

今回の記事を読んで下さっている人にも失礼なので、

ならば取りあげるのは、もっぱら役者の演技について。

 

リリー・フランキー

 

リリー・フランキーは、

くしくも今晩、テレビ用再編集版で放送される、

『そして父になる』に続く是枝作品への出演。

 

『そして〜』では、インテリで人を見下す「イヤな奴」(福山雅治)に対し、

庶民の図太い気概を感じさせたが、

今回はそれよりさらに進んで、

あくまでも自己主張を貫く、

ちょっと(かなり)困った人。

 

だが、演技は『そして父になる』にも増してよかったよ。

 

リリー・フランキーの映画初主演作は、

法廷画家の話で、木村多江と共演の

ぐるりのこと。』(2008)だった。

 

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注目作だったので気合いを入れて映画館でガッツリ観たが、

本心を吐露する大事な場面で、

セリフがまったく聞き取れず、

私は作品評価ができなかった。

今でも内容が全く思い出せない。

 

そのセリフの聴き取れなさを例えるなら、

『ぐるり』と同じ2008年の『L change the WorLd』で、

二階堂真希(演:福田麻由子)の父役、


$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-まゆこ
↑(上)作品不明
(中)作品不明
(下)『桜、ふたたびの加奈子』(2013)

 

鶴見辰吾が、娘を守るため自ら死を選びウイルスを注射。

発症によりもがき苦しむ中、何かを必死に伝えるが、

何を言ってるのかさっぱりわからず、

あまりの過剰演技に「ギャグか?」と疑ったのを思い出す。

 

とにかく『ぐるりのこと。』がトラウマで、

『万引き家族』でもリリー・フランキーのセリフが聞き取れなかったらどうしよう、

と心配したが杞憂に終わった。

セリフ以外にも、

たたずまいとか表情、

肉体もいい役者です。

 

安藤サクラ

 

皆さんは、安藤サクラのデビュー作をご存知ですか?

 

いやいや、

『愛のむきだし』(2009) より前で、

なぜか?フィルモグラフィーでは筆頭になっている、

『長い散歩』(2006)とかのウエイトレス役兼脚本でもなくて、

たぶん

『風の外側』(2007) の真理子役なんですよ。

 

2007年に父・奥田瑛二が監督を務める映画『風の外側』に、

クランクイン直前に降板した主演女優の代役として出演しデビュー。

『風の外側』には両親が出演しているほか、姉・桃子も助監督として参加している。

 

Wikiにもない、この奥田瑛二監督作、

試写で観たんですけど、

珍品でした。

安藤サクラは主演なんだが、

すごいヘンな役で、

「よくも奥田瑛二は、娘にこんな役を演(や)らせたよな」

と驚いたし、その役に適任とも思わなかったが、

急遽の代役だったのかと「なるほど」

 

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その後も

『愛のむきだし』(2009)

色即ぜねれいしょん』(2009)

クヒオ大佐』(2009)

と、2009年の出演作はどれもヘンな役か、

「どこに出てたっけ?」のチョイ役。

 

実に久々に、

『万引き家族』で再見した安藤サクラは、

ヘンじゃなかった。

 

いや、たしかに世ズレはしてるんだが、

言ってることと、やってることは真理を突いていて、

かなりまとも。

 

安藤サクラの出演作中、

もっとも彼女らしく輝いているのではないか。

 

松岡茉優

「おはガール」時代(2008年4月7日 - 2010年3月26日)も知らず、

「あまちゃん」(2013)も放送年末のダイジェストしか見ていないため、

松岡茉優(まつおか・まゆ)は、お笑い番組の司会でしか知らなかった。

 

『愛のむきだし』(2009)

桐島、部活やめるってよ』(2012)

——にも出てたそうだが全く印象がない。

 

左利きで胸が豊かと言う点で、

 

「海街diary」の夏帆(かほ)と似通っているが、

どっこい、

あちらに松岡は不適任だし、

こちらに夏帆も違うところが、

改めて是枝作品のキャスティングの素晴らしさを物語る。

 

※子役について書くとネタバレになるので省略します。

 

樹木希林

 

なにしろ樹木希林は暴走女優で、

本人の勝手に任せると、

竹中直人と同様に始末に負えなくなる。

 

『リターナー』(2002)でノートPCを手前に置いた姿のウソ臭さとか、

どうせ使いこなせないくせに…。

 

『東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(2007年)なんて、

今では誰もふり返らない映画が、

日本アカデミー賞を総獲り。

 

  • 第31回日本アカデミー賞(2008年2月15日発表)
    • 最優秀作品賞:「東京タワー 〜オカンとボクと、時々、オトン〜」
    • 最優秀監督賞:松岡錠司
    • 最優秀脚本賞:松尾スズキ
    • 最優秀主演女優賞:樹木希林
    • 最優秀助演男優賞:小林薫
    • 優秀主演男優賞:オダギリジョー
    • 優秀助演女優賞:松たか子
    • 新人俳優賞:内田也哉子

 

日本アカデミー賞受賞を巡る出来レース騒動

 

その年、多くの賞レースで賞を総なめにしていた『それでもボクはやってない』に全く票が入らず、

日本アカデミー賞主催の日本テレビが出資した本作が賞をほぼ独占するという不自然な結果だった。

この結果に、国内映画関係者・映画ファンから、

審査員による不正な票操作が行われたのではないかという意見が挙がった。

最優秀主演女優賞を受賞した樹木希林も受賞時のインタビューで

「これは組織票だ、この結果はおかしい」と審査結果を痛烈に批判し、

作品賞や監督賞をはじめほとんどの受賞は不当だと話して、会場は騒然となる。

後日、樹木希林は雑誌インタビューでも「あの結果は私も納得していない」と語った。

 

——となっているが、私の記憶では、

授賞式の樹木希林は、ただ大喜びしてたけどなあ。

 

式を見てるこちらが、

「…んだよ、衝撃作の『それでもボクは〜』はスルーで、

なんでユルユル甘々の『東京タワー』ばっかり受賞なんだよ」

と苦々しく画面を見つめていた反発心からの記憶違いか。

 

とにかく樹木希林の、

うろたえるほどに喜ぶ様子が、

竹中直人が、

『ウォーターボーイズ』(2001)とかでやった、

場面つなぎの謎の演技を思い出させて、

イライラさせられたのかも。

 

それやこれやで、

リリー・フランキーの“聞き取れないセリフ恐怖症”と共に、

樹木希林の、“個人解釈の暴走演技恐怖症”もあったが、

『万引き家族』では危惧されたことは全く起こらず、

樹木希林の役者としての良さが存分に引き出されていた。

是枝作品に出演した俳優で、

悔いの残る人はいないと思う。

※本作については、後日ネタバレビューも書く予定です。