裏切りの連鎖/『ふたり』を見て思う〈その5〉 | アディクトリポート

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真実をリポート Addictoe Report

ひさびさに、これの続き。
$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-ふたり

※今回も相変わらず、番組(『ふたり コクリコ坂・父と子の300日戦争~宮崎駿×宮崎吾朗~』)自体の話は、ほとんどありません。

$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-さっさき

2006年に、ル=グウィンが自分のホムペで、映画『ゲド戦記』について内情を暴露し、苦言を呈していたのを読んで、考えた。

$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-a-susi-

これって、英文で公開されてるだけじゃ、意味がないんじゃ?

そもそもは、(おそらく日本人で英語のできる)ファンから映画版の感想を訊かれて、それに答えた形だった。

それでもネットで公開すると言うことは、世界中の誰にでも、閲覧されることは覚悟のはず。

英語でしか公開されてないのは、あくまでもル=グウィンが日本語ができないからに過ぎず、本人としては当然、この問題の一番の当事者である日本人にこそ、読んで、知ってもらいたいはずである。

しかし前回の

$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-せんき

It is not my book.
It is your film.
It is a good film.
の解釈一つとっても、日本人の英語理解力なんてあてにならず、それしきの(=義務教育+高校までの英語教育)レベルでは、ル=グウィンの声明の、皮肉混じりながら、ぱっと見は平易な文章の真意など、くみ取りようもないのもまた事実。

そこでお節介を承知のダメ元で、
私なりに意をくんだ訳文を用意して、
ル=グウィンのページに日本語表記で掲載したらどうかと提案してみることにした。

もちろん、ル=グウィンとはなんの接点もなく、
向こうだって私を信用できっこないだろうから、
『ゲド戦記』の翻訳者にも訳文をチェックしてもらい、了承を得ることを前提に。

ル=グウィンのサイトには、
「多忙なため、即応は出来かねるが、連絡用のメアドはこちら」
という記述程度はあった。
※2011年現在は、メアドは非公開になっている

「まあ、そのうち返事があればめっけモン」
と思ってメールを送ってみたら……
その日のうちに返事が来た!

「ありがとう。良いご提案ですね。翻訳者と相談のうえ、掲載の方向で考えます」

!!!!!

なんでも、言ってみるもんだと思った。

まあ自分も、ガンダムのモビルスーツの設定画が誰の手によるものか、勝手に想像してたら見事に外れたんで、あんまり人のことは言えないけど、基本的に実証主義、つまり当該クリエイターが存命中で健在なら、直接その人物にあたるべきなのは、いうまでもない。

「マンガ夜話」で、『銀河鉄道999』を取り上げた時は公開録画で、
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会場から「メーテルの名前の由来は?」との問いに、司会陣は(断定ではないが)「メーテルリンクでは」と答えていた。

私も同じ答えを、新聞記事で読んだ覚えがあった。

$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-eennde
この人なら、メーテルのコスプレしても、ええんでないの?

ところがはからずも、このインタビューで、松本零士先生ご本人から、
「メーテルというのは、メタから始まる、マザーの語源です。
メタ、メータ、メーテール、マザーという変遷が、自分の中にはありました」
との答えをいただき、そこにはメーテルリンクなんて、一言も出てこなかった。

番組の予算、常連のお歴々のオタク知識により頼む構成等々、「マンガ夜話」なりの事情はわかりますが、松本零士は日本国内に在住で、どちらかというと出たがりな人なのに、なぜ番組が松本零士抜きで進むのか、考えてみればヘンである。



話を戻しますと、
まさかル=グウィンから返事なんてもらえると思ってなかっただけに、
その存在が急に身近に感じられた。

つまり、『ゲド戦記』の偉大なる作家として、俗世から隔絶した別世界に住んでいるように勝手に思い込んでいた人物が、同じ地球の、同じ時代にたしかに生きていて、きちんと礼を尽くして、理屈の通ったことを持ちかければ、真摯かつ即座に対応してくれるんだ、ということを実感して、とてもうれしかった。

それと同時に、ネットやメールという、瞬時にメッセージを世界中に伝え、即応の体制も整った時代になったんだなとも、つくづく感じ入った。
※現在はエージェント経由とのことで、ル=グウィン本人と直接メールでコンタクトを取る道は閉ざされましたが

ところが、またすぐにル=グウィンからメールが来て、
「相談しましたが、すでに様々な日本語訳がネットに氾濫してもいるため、あえて代表訳を一つに定めるまでもないだろうとの結論に達しました」
とのこと。

やっぱり、邪魔が入りましたね。

まあ、どうせそういうところに落ち着くだろうとは思ってましたが。

訳者とは、ル=グウィンが全幅の信頼をおく、
the delightful Japanese translator of the later Earthsea books, Ms Masako Shimizu
(私の『ゲド戦記/アースシー物語』後期作の日本語版の翻訳者、明朗快活でさばけた性格の清水真砂子さん)

$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-まさこ
清水真砂子氏のことだろう。

清水氏は宮崎駿氏と面識があったそうで、それがジブリでの『ゲド戦記』映画化の前交渉にもつながっていた。
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それだけに、ジブリの名折れになる、ル=グウィンの声明の日本語公開には手を貸せなかったのだろう。

だけど、なんだかなあ。

翻訳者は、ル=グウィンの原作あってこそ、自分の現在の地位があったはずなのに、
なんでたかだか1本の見苦しい後付け(=しかも原作軽視で単なる名義貸しが実態だった)アニメの監督や会社の方を気遣ったりするのか?

そもそも、もしも清水氏の訳した小説版『ゲド戦記』が、原作の英文の忠実な翻訳でなく、映画『ゲド戦記』と同じように、「権利をいったん手に入れたら、好き勝手に内容を改変していい」と曲解されて、清水真砂子オリジナルの別の小説にすり替わっていたりしたら、清水氏には翻訳者の資質も資格もないわけだから、たちまちクビになったに決まってる。

同じことをあてはめれば、どれだけジブリが愚行の限りを尽くし、ル=グウィンに失礼千万かは、清水氏の立場なら、人一倍わかるはずではないか。

常々お世話になっていて、「今の自分があるのは、この人のおかげ」なル=グウィンが、苦しい胸の内をやむなく自分のホムペで英語で吐露してるんなら、面識も親交もある翻訳者ならなおのこと、
「私が日本語に訳します」
と、たちまち名乗りを上げて、実際にそうすべきなんじゃないの~?

「ゲド戦記」の世界 (岩波ブックレット)/清水 真砂子

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というよりも、これまでル=グウィンにお世話になりっぱなしで、彼女の文才(リテラシー)と創造力(クリエイティビティ)と想像力(イマジネーション)のおこぼれにあずかって来たことへの、一生に一度できるかできないかの、貴重な恩返しのチャンスだと思うけど?

猫の恩返し / ギブリーズ episode2 [DVD]/宮崎駿

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ああ、それなのに、それなのに!
「しかるべくして当然」の動きが、別の誰か(この場合は私)から提案されたら、それが実現する前に未然に防ぐ方に動いて、情報の隠蔽に回るなんて、ダブルエージェント(=二重スパイ)じゃん。
$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-abue

明らかにジブリの立場が上。
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ル=グウィンの立場が下。
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主従関係の逆転、本末転倒じゃないか!

ル=グウィンも、つくづく「はずれ」の翻訳者に、たかられちゃったよなあ。

そんなこんなで、ル=グウィンは、「私はジブリに裏切られた」とホムペで告発したことで、
$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-buru-to
シネマクラシック ジュリアス・シーザー [DVD]/出演者不明

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長年信頼していた翻訳者にまで、新たに裏切られる結果になってしまったわけである。

あまりにも気の毒なので、せっかくル=グウィンとメールでやりとりできる環境にもあることだし、率直に思うところを述べることにした。

というのも、私がお節介を申し出た動機の中には、ル=グウィンに、
「アニメ業界のトップに君臨するスタジオジブリでさえが、版権意識がこれほどずさんということは、日本人の文化レベルは総じて未開人・野蛮人レベルなのでは」
$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-resu
<エンタメ・プライス>人類創世 [DVD]/エヴェレット・マッギル

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と混同視されてはたまらない、という危機感とともに、
「私は原作者として、ごくごく当然のことを述べたまでのこと」
と、意を決してのル=グウィンの声明に対して、日本人からのレスポンスもフィードバック(反応や感想)も皆無では、これまたル=グウィンに、
「日本人はもしかして、全員、教養も常識もないバカ(愚民)なのか?」
と思われかねないので、英語が読み書きできる(=教養のある)日本人の誰かが、
「まったくあなたのおっしゃるとおり! 同じ日本人としてジブリの蛮行が恥ずかしい」
という(=常識をわきまえた)思いを伝えるべきだとも考えたからである。

そこでこう書いた。

*映画『ゲド戦記』が原作小説と内容が異なるのは、別に『シュナの旅』という原作があるためで、エンディングクレジットに、その旨の記載がある。

シュナの旅 (アニメージュ文庫 (B‐001))/宮崎 駿

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つまりあっとビックリ、映画『ゲド戦記』は、小説『ゲド戦記』の映画化ではなく、『シュナの旅』の映画化だった。
※だったらなんで、題名が『シュナの旅』じゃないのかといえば、それはひとえに、宮崎父子の確執が原因だった。
という状況は、2011年の番組(『ふたり コクリコ坂・父と子の300日戦争~宮崎駿×宮崎吾朗~』)を観て、初めて把握した。

このことを、まるであなたに伝えていないジブリは、さらに裏切りの度を増している。

*あなた(ル=グウィン)は、アニメ『ゲド戦記』について「こんなはずじゃなかった」と文句を言う少し前に、アメリカの実写テレビミニシリーズについても、「話が違う」と愚痴をこぼしていたが、
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この調子では、「二度あることは三度ある」のことわざどおり、また「こんなはずじゃなかった」がくり返されかねませんよね?

*私は版権管理がひときわ厳しいルーカスフィルムと何度か仕事をしましたが、そのチェック体制の徹底ぶりはすさまじく、少しでも契約条項に違反したら、即刻ペナルティものでした。
同じように、契約で起きうるトラブルの細部まで条項化し、約束を破ったら公開を許可しないぐらいの厳しさでのぞまないと、また同じことの繰り返しじゃないんですか?

すぐに返事が来た。

「ありがとう。版権管理の一切は、息子に任せていますので、あなたのアドバイスを彼に伝えておきました。
ですので、今後似たようなトラブルは、発生しないことでしょう」


………。

?????????

呆れてこれ以上メールのやりとりはしてないけど、これを読んだ時の私の素直な感想は、以下の通り。

「あのー、ええっとですね。あなたの映画『ゲド戦記』に対しての不満は、
$作家集団Addictoe オフィシャルブログ-pao
単なる宮崎駿の息子って言うだけで、創作の才に恵まれているかもわからない、ずぶの素人の吾朗が監督して、
作家集団Addictoe オフィシャルブログ-gororo
案の定、素人の作品にしか仕上がらなかったところにもあるんですよね?

同じことは、あなたの息子という血縁のつながりだけで、版権管理の才能があるかどうかもわからない素人に、素人では務まる(勤まる)はずのない仕事をあてがった、あなたにもあてはまるんじゃないんですか?

言葉を換えれば、あなたの息子が版権管理をしてたからこそ、二度もトラブルが続いてしまったのに、同じ人間にこの先も任せて、どうして違う結果が期待できるなんて、見込めてしまえるんでしょうか?」

ダメだこりゃ。

ル=グウィン女史に、私から、
「目くそ鼻くそを笑う」
「人の振り見て我が振り直せ」
「五十歩百歩」
「大同小異」
という日本のことわざを、心密かに捧げます。

私が本件から得た教訓:身につけた知恵や教養は、生きてるうちに使いましょう。

いかがでしたか?

次回もお楽しみに~。