これの続きながら、今回はガンダム登場メカの中でもひときわ異彩を放つ、はぐれMA(モビルアーマー)とでもいうべき、MA-04X ザクレロ。
いいかげんなネーミング(ザクがレロレロ?)にふさわしい、
↑バンダイのプラモのボックスアート
1/550 MA-04X ザクレロ (機動戦士ガンダム)/バンダイ
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何ともとらえどころのないデザインで、
↑1/550スケールのザクレロと、同スケールのGメカBパーツを履いたガンダム。
↓他のモビルアーマーと揃えた1/550だけでは小さすぎるので、キットには1/250も含まれている。
はじめからSDみたい。
他のどのガンダムメカにも似ておらず、
大きさもどっちつかずで、
↑出所不明(ファン作成?)のMA対比図
中途半端。
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たった一話の登場場面も、なかなかにシュール。
↑拡散ビーム砲や、
↓ミサイル等、遠くから敵を攻撃する武器を装備しているのに、
↓結局は広大な宇宙空間でも接近戦となり、
↓ガンタンクにも鎌で切りつけ、
↓Gメカの底をひっかき、
↓さらにガンダムの肘を攻める。
という、いかにも両手が鎌のデザインに都合の良い戦い方をする。
デザイン原案は富野善幸(当時表記)だが、『ガンダム』の画期的な番組内容を、当時のスポンサーの玩具会社のクローバーにまるで理解してもらえず、この時期ヤケを起こして、こういう投げやりなデザイン+物語にしたらしく、
登場回(32話「強行突破作戦」)の脚本を手がけた松崎健一は、無理矢理この機体の活躍シーンを富野に書き加えられた怒りから、のちに「どうしようもないオモチャ」と酷評している。(Wikiより)
ということまで踏まえると、ザクレロの決定稿は、
安彦良和だと思われる。
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もちろん、アッガイやグラブロの時の見方を応用しても、
↑曲面を表現するギザ線のラフな感じ(赤丸内)や、
↓メカらしからぬ微妙な曲線や、直線もフリーハンドで描く安彦タッチ(青丸内)でも判別できる。
安彦画だと特定は可能だが、それだけでなく当時の状況、
すなわち、
*ドム以降、主要なMS(ゴッグ、アッガイ)とMA(グラブロ、ビグロ)をこの時までに安彦良和が決定稿を手がけ、
*大河原氏が、ガンダムではもっぱらリアルな人型兵器をデザインしたかったのに、途中の水陸両用MSの富野ラフから怪獣路線に暴走したことに実は気乗りがしておらず、
とにかくタツノコ時代の鉄獣メカだとか、ギャグメカ路線への先祖返りを敬遠していて、
*それに反して安彦氏は、この怪獣路線をすんなり受け入れていたこと
等々も考え併せると、ザクレロが大河原氏の画だとは考えにくい。
↑放送当時(1978~79年)ではなく、ガンプラ成功後の84年だが、大河原氏の手がけた唯一のザクレロ画稿と思われるMSV用イラスト。
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とはいえ、この投げやりな富野デザインは、
「どんなしょーもないデザインのメカでも、安彦良和の手にかかると、整形手術でも受けたようにサマになって見違える」(高千穂遙・談)と称された安彦氏の手にかかっても、
さすがに「格好良く」「サマになる」ところまでは至らず、
「どうしようもないオモチャ」の印象を払拭できなかったため、
後年にはザクレロのリ・デザインが、
幾多のデザイナー/アーティストによって、色々と試みられる。
(以下順不同)
↓これとか、
↓これとか、
↓これとか、
↓これとか、
↑近藤和久の、おそらく最もオリジナルデザインから遠いザクレロ。
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↓これとか。
↑ザクレロ改
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はたまた、大河原邦男氏による
↓これとか、
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↓同氏が「ガンダムエース」誌上で展開中のMSV-Rで発表された
バリエーション(小変更・バージョン違い)の、
MAN-00X-2 ブラレロとか。
ビグロとビグ・ルフの時と同様、
ザクレロ設定画と後年の大河原画稿を比較すれば、
同じ人間が描いたものでないこともよくわかる。
こうしたザクレロの再評価、再定義のトリを飾ったのは、
真打ちたる安彦良和。
オリジナルでは自分の作画回でない(作画監督は富沢和雄)一話きりの登場で、
劇場版では完全にスルーされた、どう考えても出来損ないのザクレロが、
なぜか『THE ORIGIN』では、出番が大幅に増えている!
19巻に登場するザクレロは、
機動戦士ガンダム THE ORIGIN (19) ソロモン編・前 (角川コミックス・エース .../安彦 良和
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量産MAとして多数ソロモン宙域に配備され、
↑量産型ザクレロは、
↓頭頂部にローマ数字のマーキングがある。
ジム部隊とも互角以上にわたり合った。
また、まだザクレロに出番があるかどうかが未知数だった「オデッサ編」では、
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保険の意味だろうか、
核弾頭を搭載した、ザクレロに酷似した爆撃機まで登場している。
このように、安彦良和がザクレロをえこひいきするのは、そもそも自分が決定稿を手がけたという愛着と共に、さしもの自分でも、テレビ当時はザクレロをカッコ良くは描けなかったことへの、雪辱戦の意味合いも含まれているようだ。
だから、『ジ オリジン』のザクレロのデザインは、ほとんどアニメ設定のままなのに、
拡散ビーム砲を放つコマなど、
絶妙なアングルで、めちゃめちゃサマになっている。
そう、あくまでもデザインは(ほぼ)そのままなのに、カッコ良く見えることこそが重要なのだ。
こうして安彦良和がザクレロで背負った課題は、ほぼ30年の時を経て、『ジ オリジン』で見事に解決されたわけである。
『ジ オリジン』完結にあたり、感想を求められた富野由悠季(現表記)は、
「一言で簡潔には述べられない」
と言っていたが、後日
「文句のつけようがない」云々と、完全に敗北宣言だった。
そりゃそうだ。
自分がヤケクソで書いたストーリーと投げやりに描いたデザインを、こんなにしっかりと拾い、存在価値を与えてくれたんだから。
ザクレロは安彦良和に足を向けて寝られないね。
寝ないけど……。
次回はビグザムを予定。