棘梨の村の李梨12
ごめん、本当に長い話になってしまったね。君の時間を買ったわけだから、ちゃんと金は払うよ。ただ、君の他のお客と同じ事を、君とするつもりはないんだ。だってさ、君はあまりにも李梨そっくりだし。
それに、僕にはいま婚約者がいるんだ。ああ、僕にソフト更新のことを教えてくれた彼女さ。彼女もアンドロイドに育てられた。だからかな、僕とどっか似てる気がするよ。
友人連中は、「二人には共通点がある、というのは、恋するもののよくある錯覚だ」とからかうんだけどね。
彼女は、母親だと信じたままで、十一歳までアンドロイドに育てられた。ある日、お母さんは交通事故で死んだと言われて、そのあと、後妻だという女性が来た。その女性は彼女をまったくの大人として扱った。それが自分のお母さんだと思っていたアンドロイドの、顔とソフトだけを変えたものだと知った時は、それなりにショックだったらしいけど。その時には、彼女はもう、父親を憎むより同情することが出来るくらいに大人だったんだ。
僕のほうが子どもだったかな。父と血がつながっていないと知った時に、ちょっぴりだけど、父を憎んだのだから。
その後、何度も、どうして父は僕を引き取ったのだろうと考えた。
家を継ぐ男の子が欲しくて娘を見殺しにした祖母と、血のつながらない子を引き取って、育児ア ンドロイドを買って帰った父のギャップは、いったい、どこから来たんだろうって。
僕はいまでも考えている。
それに、僕にはいま婚約者がいるんだ。ああ、僕にソフト更新のことを教えてくれた彼女さ。彼女もアンドロイドに育てられた。だからかな、僕とどっか似てる気がするよ。
友人連中は、「二人には共通点がある、というのは、恋するもののよくある錯覚だ」とからかうんだけどね。
彼女は、母親だと信じたままで、十一歳までアンドロイドに育てられた。ある日、お母さんは交通事故で死んだと言われて、そのあと、後妻だという女性が来た。その女性は彼女をまったくの大人として扱った。それが自分のお母さんだと思っていたアンドロイドの、顔とソフトだけを変えたものだと知った時は、それなりにショックだったらしいけど。その時には、彼女はもう、父親を憎むより同情することが出来るくらいに大人だったんだ。
僕のほうが子どもだったかな。父と血がつながっていないと知った時に、ちょっぴりだけど、父を憎んだのだから。
その後、何度も、どうして父は僕を引き取ったのだろうと考えた。
家を継ぐ男の子が欲しくて娘を見殺しにした祖母と、血のつながらない子を引き取って、育児ア ンドロイドを買って帰った父のギャップは、いったい、どこから来たんだろうって。
僕はいまでも考えている。
棘梨の村の李梨11
長い話を聞かせてしまったね。こんな話をしたのは、君に聞きたいことがあったからなんだ。
君に声をかけたのは、君が李梨とうり二つだからだ。たぶん、同じ鋳型から取り出された姉妹なんだろう。こんな仕事をしているということはさ、君は消毒できるんだ。仮に客が病気でも、次の客をとるまでに、病原体をすっかり殺菌してしまえるんだ。ということはさ、あの時、医者の言ったことは嘘なんだね? 李梨を返せなかったのは、病原体を運ぶからではないんだろう? 町へ来てからだけど、僕は、型式遅れの育児アンドロイドを見たんだ。十五・六歳の男の子に、六つ七つの子供にするように話しかけてた。最初はアンドロイドだと思わなかった。李梨と同じように、まるきり人間に見えたから。ちょっとポカンと見ていると、一緒にいた友達が教えてくれた。
「ソフト更新ができなかったんだわ」
って。
「なんだい、それ」
と言ったら、
「子供が大きくなるにつれて、歳に対応できるようにソフトを変えなければいけないの。さもなければ、まったく大人相手のソフトに変えてしまうのよ。どちらにせよ、かなりのお金がかかると聞いたわ」
と教えてくれた。
父は、李梨のソフトを更新できなかったんじゃないかと思う。棘梨のブームが消え去って、うちには経済的な余裕がなかった。李梨の行動と僕の成長が噛み合わなくなる日がくることを、父も知っていたし、医者も知っていたんだろう。僕に李梨との別れをどうやって納得させたらいいのか、父なりに悩んでいたのだと思う。そこへ医者が、病気の人たちを助けるため、というひどくもっともらしい理由をもってやってきたのだ。
君に声をかけたのは、君が李梨とうり二つだからだ。たぶん、同じ鋳型から取り出された姉妹なんだろう。こんな仕事をしているということはさ、君は消毒できるんだ。仮に客が病気でも、次の客をとるまでに、病原体をすっかり殺菌してしまえるんだ。ということはさ、あの時、医者の言ったことは嘘なんだね? 李梨を返せなかったのは、病原体を運ぶからではないんだろう? 町へ来てからだけど、僕は、型式遅れの育児アンドロイドを見たんだ。十五・六歳の男の子に、六つ七つの子供にするように話しかけてた。最初はアンドロイドだと思わなかった。李梨と同じように、まるきり人間に見えたから。ちょっとポカンと見ていると、一緒にいた友達が教えてくれた。
「ソフト更新ができなかったんだわ」
って。
「なんだい、それ」
と言ったら、
「子供が大きくなるにつれて、歳に対応できるようにソフトを変えなければいけないの。さもなければ、まったく大人相手のソフトに変えてしまうのよ。どちらにせよ、かなりのお金がかかると聞いたわ」
と教えてくれた。
父は、李梨のソフトを更新できなかったんじゃないかと思う。棘梨のブームが消え去って、うちには経済的な余裕がなかった。李梨の行動と僕の成長が噛み合わなくなる日がくることを、父も知っていたし、医者も知っていたんだろう。僕に李梨との別れをどうやって納得させたらいいのか、父なりに悩んでいたのだと思う。そこへ医者が、病気の人たちを助けるため、というひどくもっともらしい理由をもってやってきたのだ。
棘梨の村の李梨10
僕が父に正面から説明を求めたのは、進学で村を離れる少し前だ。
「私がお前を生んだ人と会ったとき、お前は既にお腹にいた。次はあなたの子を産んであげるから待って、と言われて、しばらく一緒に暮らしていた。彼女は、医者も呼ばす、一人でお前を産んだ。そして、濡れた紙を口にはりつけて、お前の息を止めようとしたんだ」
「どうして…?」
「知らない。理由はどうしても話してくれなかった。私が連れていく、と言ったら、翌日、彼女はいなくなっていた」
当時のことを少し調べれば、「貸し腹」にはトラブルも多かったのがわかる。半金を払っていても、妊娠期間の間に「キャンセル離婚」というケースが結構あった。女性が少ないといってもいないわけじゃなし、結婚相手を見つけてしまった男だっていただろう。
それにしてもどうして殺そうと思ったのだろうね。養護施設の前に捨ててくるとか、考えつかなかったんだろうか。中絶ができない時期になって「キャンセル」されて、彼女は、僕の本当の父親を憎んでいたのだろうか。だから僕を憎んだのだろうか。
「別の女性と短い期間だけ籍を入れて、お前を私の子として届け出た」
そ のとき、父は悪びれなかった。いま思い返すと、隠し事をしていたというより、僕がその説明を理解出来る歳になるまで、待っていただけだという感じ、かな。
でも、僕は、自分が家を離れる日が近くてよかったと思った。
「私がお前を生んだ人と会ったとき、お前は既にお腹にいた。次はあなたの子を産んであげるから待って、と言われて、しばらく一緒に暮らしていた。彼女は、医者も呼ばす、一人でお前を産んだ。そして、濡れた紙を口にはりつけて、お前の息を止めようとしたんだ」
「どうして…?」
「知らない。理由はどうしても話してくれなかった。私が連れていく、と言ったら、翌日、彼女はいなくなっていた」
当時のことを少し調べれば、「貸し腹」にはトラブルも多かったのがわかる。半金を払っていても、妊娠期間の間に「キャンセル離婚」というケースが結構あった。女性が少ないといってもいないわけじゃなし、結婚相手を見つけてしまった男だっていただろう。
それにしてもどうして殺そうと思ったのだろうね。養護施設の前に捨ててくるとか、考えつかなかったんだろうか。中絶ができない時期になって「キャンセル」されて、彼女は、僕の本当の父親を憎んでいたのだろうか。だから僕を憎んだのだろうか。
「別の女性と短い期間だけ籍を入れて、お前を私の子として届け出た」
そ のとき、父は悪びれなかった。いま思い返すと、隠し事をしていたというより、僕がその説明を理解出来る歳になるまで、待っていただけだという感じ、かな。
でも、僕は、自分が家を離れる日が近くてよかったと思った。