棘梨の村の李梨10 | タコノキはうまく踊れない

棘梨の村の李梨10

 僕が父に正面から説明を求めたのは、進学で村を離れる少し前だ。
「私がお前を生んだ人と会ったとき、お前は既にお腹にいた。次はあなたの子を産んであげるから待って、と言われて、しばらく一緒に暮らしていた。彼女は、医者も呼ばす、一人でお前を産んだ。そして、濡れた紙を口にはりつけて、お前の息を止めようとしたんだ」
「どうして…?」
「知らない。理由はどうしても話してくれなかった。私が連れていく、と言ったら、翌日、彼女はいなくなっていた」
 当時のことを少し調べれば、「貸し腹」にはトラブルも多かったのがわかる。半金を払っていても、妊娠期間の間に「キャンセル離婚」というケースが結構あった。女性が少ないといってもいないわけじゃなし、結婚相手を見つけてしまった男だっていただろう。
 それにしてもどうして殺そうと思ったのだろうね。養護施設の前に捨ててくるとか、考えつかなかったんだろうか。中絶ができない時期になって「キャンセル」されて、彼女は、僕の本当の父親を憎んでいたのだろうか。だから僕を憎んだのだろうか。
「別の女性と短い期間だけ籍を入れて、お前を私の子として届け出た」
 そのとき、父は悪びれなかった。いま思い返すと、隠し事をしていたというより、僕がその説明を理解出来る歳になるまで、待っていただけだという感じ、かな。
 でも、僕は、自分が家を離れる日が近くてよかったと思った。