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横浜・黄金町のマンツーマン英会話「ツリーハウス」のレッスン風景を綴ります。
登場人物:
ビル:ボストン出身のアメリカ人。たまにボストンアクセントが出てしまう。
海子:アラフィフ生徒。ジャパニーズアクセントの矯正はほぼ諦めた。
海子:上の記事で、リスニング難易度がそう高くはないと思われる『奥さまは魔女』も、キャラによっては聞き取りにくいという話をしましたが。
『奥さまは魔女』の難しさはそれだけではない。
ビル:そうなの?
海子:最初は聞き取りにくかった、エンドラ(サマンサの母)やグラディス(お向かいの奥さん)のしゃべり方にもだいぶ慣れて、もう『奥さまは魔女』は卒業かも? と慢心しかけていた私に、冷や水を浴びせたエピソードがこれ。
ビル:なに、なに?
海子:シーズン2の16話「The Magic Cabin」。コピーライターであるダーリンと上司ラリーが、クライアントであるキングスリー社のポテトチップスのコピーをひねり出そうとブレーンストーミングしています。ダーリンが最初に出した案がこれ。
"Kingsley's potato chips may be new and improved, but they're still a chip off the old block."
ビル:ザッツ・クール!
海子:「a chip off the old block」は、「木や石の塊から削りとったかけら」。本体とかけらは同じものでできてるから、転じて「親そっくりな子」を意味するイディオムですね。
だから上のコピーは、
「さらにおいしくなった、キングスリーのポテトチップス。でも伝統の味は健在です」
みたいな意味かな。
ビル:いいねえ、名コピーだ。
海子:私もいいと思うんだけど、ラリーにあえなく却下されてしまいます。
ビル:えー。どうして却下?
海子:ターリンがめげずに出した次の案がこれ。
"Other potato chips may be like chips that pass in the night, but Kingsley's potato chips make you feel like your chip just came in."
これは、ship(船)が出てくる2つのイディオムのもじりだよね。
ひとつは「ships that pass in the night」。「闇の中を行きかう船」、転じて「行きずりの他人どうし」を意味するイディオム。
もうひとつは「when your ship comes in」。「船が来たとき」、転じて「幸運が訪れたとき」を意味するイディオム。
ビル:え、「ships」って言った?
海子:いや、コピーは「chips」です。つまり「ship」を「chip(ポテトチップス)」に変えたダジャレであって……
ビル:わかりにくい! ダメだろ、そのコピー。
海子:コピー全文を無理やり訳せば、
「普通のポテトチップスは、食べてしまえばそれっきり。でもキングスリーのポテトチップスは、あなたに幸せを運びます」
かな? でも、またしてもラリーに却下されてしまいます。
ビル:これに関してはラリーと同感だ。
海子:この会話、まず元のイディオムを知らないとわからないし、仮に知ってても会話はどんどん進行するから、1回聴いただけじゃとてもとても。
もう1度聴き直して、一時停止してイディオム調べて、もう1度聴いてやっと、あーそういうことか、って納得できました。
ビル:確かに難しいよね。でも僕のような人間にとっては、テレビドラマの醍醐味はせりふであり、word play(言葉遊び)なんだ。
海子:アメリカ人でも、子どもだったら全部理解できないんでは?
ビル:うん、全部は理解できないと思う。だけどなんとか理解しよう、ストーリーについていこうとするよね。子どもはそうやって新しい表現を覚えていくものじゃないか?
海子:おっしゃるとおりです。
というわけで、『奥さまは魔女』は単に魔法のせいで毎度毎度いろんなハプニングが起きるはちゃめちゃドラマではなく、せりふがよく練られたドラマであり、ということは英語学習者にとっても決してナメてかかってはいけない高いハードルなのだと、シーズン2の半分まで来て今さらながらに気づいた海子です。
アメリカで長く愛された理由のひとつもそこにあるのかもね。
ビル:まさにその通り! そして、僕が日本の英語学習者に『奥さまは魔女』を推す理由でもあるんだよ。
Enjoy "Bewitched," everybody!