6)山邊光二《アイデンティティ、尻っ尾のディテール》
(2024 / 委嘱新作初演)
Slide Whistle : 川島素晴
<川島素晴によるコメント>
山邊光二さんは、国立音楽大学の出身ではありますが、担当学生ではありませんでした。しかしながら、JFC作曲賞で私が審査員だったときの入選者であり、このときは審査の演奏にも関わりましたし、折にふれ活動には接しておりましたのでよく知っております。近藤譲が審査員であった昨年度の武満徹作曲賞で第2位となったことは記憶に新しいと思います。そういえば山本和智さんは近藤譲が審査員だった2010年度JFC作曲賞受賞者だし、2009年度の武満徹作曲賞(審査員:ラッヘンマン)の第2位でもありました。山本裕之さんは2002年度の武満徹作曲賞(審査員:湯浅譲二)の第1位だし・・・今回の人選、「山」がつく作曲家であるというだけではない、共通項がありますね。
作品が届いてみてまず興味深かったのは、詩作も継続的に行っているということで、ここに用いられている詩もまた、山邊さんの作になるとのことです。
詩の全文をこちらに掲載しておきます。
このように、詩だけでも味わい深いものがありますが、今回の作品は、敢えてこのほとんどの内容を、語りながら吹く、というものになっています。しかも、スライドホイッスルと同時にしゃべるのであれば、ポルタメントを活用すればよいようなものを、むしろそれは排除しています。(高低アクセントの日本語であっても、自然な語りには必ずポルタメントが含まれます)吹きながらでありかついびつなイントネーションであることで、詩の意味は半分も伝わらないかもしれませんが、それも狙い通りとのこと。
また、本作では、スライド側を固定して身体の動きで音高を操作する場面があります。語りとの同時演奏、並びに身体の動きにスライドアクションを転化する発想と、これまた独特なアプローチを見せてくれました。
いつも、このシリーズで新作を書いてくださる作曲家の皆さんは、期待を上回るひねりをきかせてくれて、結果的に作品のバラエティに富んだ内容が実現しておりますが、今回の2作品もまた、期待以上に異なる方向性のものを提供してくれました。
*スコア冒頭。作曲者の許諾を得て掲載しております。
<以下、作曲者本人による解説です。>
スライドホイッスル(のみ)で曲を書くという極限的な条件のもとにアイデアを膨らませること
もともと非常に限定された条件下での作曲だったことに因んで、
楽曲は三つの場面に構成され、ひとつめに朗読を主とする場面、
【山邊光二】
1990年群馬生まれ。国立音楽大学卒業、
→曲目表
→1)山本哲也《スライドホイッスル三重奏曲》(2011)→解説
→2)山本裕之《木管三重奏曲》(2009)→解説
→3)山本和智《Air》(2022 / 初演)→解説
→4)山内雅弘《OBOE Concerto!》(2021)→解説
→5)山田奈直《15本のスライドホイッスルのための修羅》(2024 / 委嘱新作初演)→解説
→6)山邊光二《アイデンティティ、尻っ尾のディテール》(2024 / 委嘱新作初演)*本投稿
→7)川島素晴《スライドホイッスルのための超絶技巧練習曲集》(2024 / 新作初演)→解説
→8)大蔵雅彦《Active Recovering Music # 7, #10》(2012)→解説