5)山田奈直《15本のスライドホイッスルのための修羅》(2024 / 委嘱新作初演)

  Slide Whistle : 川島素晴

 


 

<川島素晴によるコメント>

 山田奈直さんは、学部1年から現在の博士課程2年に至る8年、担当してきた学生です(考えてみたら最長記録かも?)から、ここまでの軌跡の多くを見てきております。何かにインスパイアされた音響イメージや楽想を、楽器や編成のポテンシャルを探りつつ実現する。そしてその響きの向かう先を的確に導く。出会った当初からそのような書き方で一貫しているその作曲姿勢の背後には、響きに対するある種のフェティシズムとでも言うべき愛情があります。恐らく、何かにインスパイアされること以上に、その結果脳裏に浮かぶ愛すべき音を現前させることの方が重要なのだと思います。

 題名が、チラシ情報の段階では《数十本のスライドホイッスルのための修羅》となっておりましたが、さすがに数十本の同時吹きは難しく、《15本〜》に変更となりました。しかし、15本でも充分驚くべき状況です。自ら工作して5本、4本、3本、2本、1本の組み(計15本)に分け、それぞれホースで同時に吹けるように細工。計15本を同時に鳴らせるような構造体を作り上げました。(下記、プロフ写真参照。)

 このビジュアルだけでも相当面白く、もうこの時点で本日の印象をかっさらうだけのものになり得ていると言えますが・・・。「修羅」のイメージの由来は下記、本人の解説をご参照頂くとして、その15本が並ぶ物理的イメージから引き出された音響イメージこそが肝となっており、仕掛けそのもののインパクトとは裏腹に、繊細な表現を指向しています。

 


 

<以下、作曲者本人による解説です。>

 

 スライドホイッスルやリコーダーを見ると、つい2つ以上同時に吹きたくなりますよね。今回はそんなきっかけから、1人でたくさん(15本)のスライドホイッスルを操ることができるように工夫しました。

 古代に巨石など重たいものを運ぶときには、地面に並べた丸太の上に「修羅」と呼ばれるそりを置き、その上に載せて引きずりながら運んだそうです。丸太が並んでいる様子が、今回のスライドホイッスルの横一列の配置に繋がりました。

 それと、顔が3つと手が6本ある阿修羅像なら、この曲をもっと快適に演奏できるかもしれないなと思います。

 


 

【山田奈直】

 1997年生まれ、川崎市出身。国立音楽大学音楽学部作曲専修、及び大学院修士作曲専攻を首席で卒業。音楽以外のなにかから得た発想をベースに、全体音響にこだわった作品を創作している。2018年秋吉台の夏現代音楽セミナー作曲Ⅰ修了。2019年門天の夏門天サマーアカデミー自作指揮クラス受講。2023年ダルムシュタット夏季現代音楽講習会に参加、サントリーサマーフェスティバル作曲ワークショップに選出され、オルガ・ノイヴィルトの公開レッスンを受講。作曲を川島素晴、渡辺俊哉の各氏に師事。現在は国立音楽大学大学院博士課程創作研究領域2年に在籍。

 


 

曲目表

→1)山本哲也《スライドホイッスル三重奏曲》(2011)→解説
→2)山本裕之《木管三重奏曲》(2009)→解説

→3)山本和智《Air》(2022 / 初演)→解説

→4)山内雅弘《OBOE Concerto!》(2021)→解説

→5)山田奈直《15本のスライドホイッスルのための修羅》(2024 / 委嘱新作初演)*本投稿

→6)山邊光二《アイデンティティ、尻っ尾のディテール》(2024 / 委嘱新作初演)→解説

→7)川島素晴《スライドホイッスルのための超絶技巧練習曲集》(2024 / 新作初演)→解説

→8)大蔵雅彦《Active Recovering Music # 7, #10》(2012)→解説