1)山本哲也《スライドホイッスル三重奏曲》(2011)
  *各回異なる楽器のコンビネーションで上演
  Slide Whistle : 川島素晴、山田奈直、山本哲也

 


 

<川島素晴によるコメント>

 山本哲也さんは、私が国立音楽大学で非常勤で教え始めた最初の年、2008年度の1年生でした。その後彼は、スライドホイッスルの作品を多数作曲しており、2013年のJFC作曲賞(自作自演をすることが条件)ではスライドホイッスルと弦楽四重奏のための作品を作曲し入選、自らスライドホイッスルパートを演奏しました。その年度に執筆した修士課程の研究報告ではスライドホイッスルをテーマに据えるなど、実は、スライドホイッスルのエキスパートとして既に活躍している存在です。(所有しているスライドホイッスルの種類も私より多いです。下に掲出しているプロフ写真参照)

 それに引き換え、スライドホイッスルのソロ演奏を人前で行ったことはない(アンサンブルで、一部だけ、とかならあるのですが)自分が、彼をさしおいておこがましくもソロリサイタルを先に行ってしまうわけです。ここはリスペクトを込めて、コンサート冒頭に上演したいと思います。

 2011年の作品、つまりまだ大学生だった時分の作品であるにも関わらず、出版もされ、世界各地での上演歴がある、いわば「スライドホイッスル・アンサンブルの国際的な名曲」として筆頭に挙げられる作品だと思います。短い中に、倍音、スラップなどの奏法も織り込まれております。また、楽器のコンビネーションによる変化も興味深いため、2回のコンサートでは、異なる楽器のコンビネーションで上演したいと思います。

 


 

*出版楽譜と、第1パートのパート譜。出版社の許諾を得て掲載しております。

 

こちらで購入可能です。全ページのサンプルが閲覧できます。

 


 

<以下、作曲者本人による解説です。>

 

 スライドホイッスルは気鳴楽器で、奇数倍音列を持つ閉管構造の管楽器である。トロンボーンのようなスライドを持ち、それを動かすことで音を段階なしに変化させることができる。オーケストラや吹奏楽といった合奏形態においては打楽器奏者が担当することが多く、音高は絶対音程による指定ではなく「だいたいこの辺からこの辺まで」という相対音程による直感的な記譜となり、本作もそれに倣ってほぼ全編にわたって相対音程による記譜法を採用している。

 使用するスライドホイッスルは奏者自身の選択に委ねられており、そのため、演奏前の楽器の選択が本作における重要なカギとなっている。スライドホイッスルはメーカーや機種、さらに個体によっても音域、音質、吹奏感、スライドの抵抗感といった差があるため、楽器の選び方によって、発生する音響をある程度運命付けることができる。楽譜には「3本とも同じ種類の楽器を使用するか、3本とも違う種類の楽器を使用するかのいずれかを推奨する」と記してあるが、これまでの経験上、違う種類の3本で演奏する方が、音域の広がりや多様な音色のバリエーションを感じられるため、より豊かな演奏効果を得られると思っている。

 作曲当時、私は自作における楽曲構成について考えていた時期で、本作ではバロック時代の協奏曲に多く見られるリトルネッロ形式を拝借した。メインテーマが奏され、次にスライドホイッスルでの演奏を前提とした性格的なパッセージが登場し、その性格とテーマを融合させたものへと発展し、そしてまた新しい性格的な楽節が現れ…という風に曲は進んでいく。なお、全曲の最後にだけ絶対音による音高指定をした。本作では常に相対音による演奏に支配されてきただけに、この絶対音による「オチ」は極めて異質なものとして響くだろう。

 



【山本哲也】

 1989年長野県生まれ。国立音楽大学大学院修士課程作曲専攻、リヨン国立高等音楽院作曲科第2課程、モンス王立音楽院指揮科修士課程を修了。久石譲主催「Music Future Vol.9」第4回Young Composer's Competition優勝、第14回オルレアン国際ピアノコンクール作曲部門A.シュヴィロン=Y.ボノー作曲賞、イル=ド=フランス国立管弦楽団主催の作曲コンクール「Île de créations 2018」優勝、第6回A.ドヴォルザーク国際作曲コンクール第1位および特別賞、日本現代音楽協会第27回現音作曲新人賞など、国内外の多くのコンクールや作品公募において受賞・入選を重ねている。

 2013年の第7回JFC作曲賞"自作自演による作曲賞"においてスライドホイッスルと弦楽四重奏のための『二面性をもつアラベスク』で入選し、本選での演奏はバンドジャーナル誌にて沼野雄司氏による好意的な評価を得た。それ以外にもスライドホイッスル奏者として東京や長野、パリで演奏活動を行い、いずれもそれなりの成功を収めている。

 http://tetsuyayamamoto.net/

 


 

<演奏動画>

なんと、既に4種類もの演奏動画が存在しております!

 

 

 

 

 

 

 


 

曲目表

→1)山本哲也《スライドホイッスル三重奏曲》(2011)*本投稿
→2)山本裕之《木管三重奏曲》(2009)→解説

→3)山本和智《Air》(2022 / 初演)→解説

→4)山内雅弘《OBOE Concerto!》(2021)→解説

→5)山田奈直《15本のスライドホイッスルのための修羅》(2024 / 委嘱新作初演)→解説

→6)山邊光二《アイデンティティ、尻っ尾のディテール》(2024 / 委嘱新作初演)→解説

→7)川島素晴《スライドホイッスルのための超絶技巧練習曲集》(2024 / 新作初演)→解説

→8)大蔵雅彦《Active Recovering Music # 7, #10》(2012)→解説