4)山内雅弘《OBOE Concerto!》(2021)

  Ob : 荒木奏美 各種Rec, Slide Whistle : 鈴木俊哉

  Slide Whistle, Melodica, Otamatone : 川島素晴

 


 

<川島素晴によるコメント>

 山内雅弘さんは、私が学生時代だった頃から、大変優秀で美しい筆致による名作を多数書かれており、仰ぎ見てきた先輩ですが、現在は僭越ながら(一社)日本作曲家協議会で同じ副会長を務めさせて頂いており、様々な機会に同席し、業務メールの飛び交う日々を過ごさせて頂いております。吹奏楽、合唱の朝日作曲賞を同年に受賞してそれぞれ2006年度の課題曲になったことをはじめ、様々な受賞歴からも明らかなように、いわゆるアカデミックな書法に立脚した上で充実した創作活動を展開なさっている作曲家であり、キワモノに満ちた私のこのリサイタルシリーズに選曲させて頂く機会など、普通に考えればなかなか無いと思うのですが。。。

 山内雅弘さんが、なんと全曲初演の作曲個展を開催なさるという偉業を成し遂げたのが2021年。ちょうどその時期は、本リサイタルシリーズでスライドホイッスルの回をできないかと思い立っていた頃でしたが、そのような折に個展の全7曲の一つとして初演されたのが、この《OBOE Concerto! 》でした。今回演奏して頂く荒木奏美さん、鈴木俊哉さんに加え、スライドホイッスルパートは、かの多久潤一朗さんが担当。フルートを含まないにも関わらず、いかにも多久さんのパートだな、と思わせる内容と演奏でしたが、これはやるしかない!と思い、たしか直後に山内さんに打診していたように思います。

 山内さんは、とりわけ楽器の新しい可能性を探求する姿勢は卓抜で、例えばヴィブラフォン協奏曲「SPANDA」では、微分音を奏でるためにもう1台のヴィブラフォンを並べて演奏するなど、一筋縄ではいかない独自の仕掛けを施した作品が多くあります。本作も、題名から想像する編成とは合致しない、奇抜な編成になっていますが、しかし、実際に聴いてみると、それが極めて繊細で鋭敏な耳に基づく音色設計によっていることがわかります。

(なお、昨年初演された管弦楽伴奏による《オーボエ協奏曲》は、別作品だそうです。オーボエ、お好きなんですね・・・。)

 オーボエのソリスト、荒木奏美さんは、学部在籍時代に東響首席になり、昨年11月から読響首席に移籍なさいました。文字通りの俊英であるその荒木さんが吹く協奏曲、というだけでも格別ですが、伴奏側のお一人、リコーダーの鈴木俊哉さんも大ベテラン、現代音楽におけるリコーダー演奏の世界的なスペシャリストです。お二人とも、もう一音出すだけで存在感が段違い、このような共演者とともに演奏するだけでも恐縮かつ光栄で、偶然にもこのような編成の作品を作曲して頂いた山内さんに感謝致します!

 

*リハーサルより。オタマトーンと荒木さん、ちょっと似てます笑

 


 

*スコア冒頭。作曲者の許諾を得て掲載しております。

 


 

<以下、作曲者本人による解説です。>

 

 リコーダーとオーボエはどちらも管楽器だが発音原理が異なる。また、スライドホイッスルとリコーダーは発音原理が同じようなものだが、スライドホイッスルはピッチを確定しにくいという違いがある。また鍵盤ハーモニカは鍵盤楽器だが、リードを鳴らすということではオーボエとの近似性がある。このように微妙に似ていて異なる3つの楽器だが、基本的にはオーボエを独奏楽器に見立て、スライドホイッスル、リコーダー、鍵盤ハーモニカ、そしてオタマトーンという珍しい楽器がオーケストラの代わりをする擬似的なコンチェルトになっている。それで曲名もこのような妙な表記になっている。ソロ的な役割を与えられたオーボエは、当然、全体的に技巧的なパッセージを演奏し、ほとんど休みなく動き回る。中間部はリコーダー、鍵盤ハーモニカによる三和音コラール上にオーボエがリードのみで演奏する特徴的な部分。コラールのみが残った後、オーボエのカデンツが続く。その後、オスティナート的音型などでビビッドなクライマックスを形成する。

 


 

【山内雅弘】

 1960年仙台市生まれ。1986年東京芸術大学大学院音楽研究科作曲専攻修了。クルーズ国際ピアノ会議作曲コンクール第1位、シルクロード管弦楽作曲コンクール入賞、日本交響楽振興財団作曲賞入選(第17回、第23回)、文化庁舞台芸術創作奨励賞(合唱組曲)。第16回朝日作曲賞を吹奏楽、合唱曲の両部門で同時受賞。受賞作品は2006年度の全日本吹奏楽コンクール、全日本合唱コンクールの課題曲となる。第2回東京佼成ウインドオーケストラ作曲コンクール第1位、第21回芥川作曲賞を受賞。作曲を本間雅夫、北村昭、八村義夫、南弘明、松村禎三、黛敏郎の各氏に師事。東京芸術大学作曲科非常勤講師などを経て、現在、東京学芸大学教授、日本現代音楽協会理事、日本作曲家協議会副会長。

 主要作品に、架空の伝説のための前奏曲、宙の形象―ピアノとオーケストラのための、管弦楽のための協奏曲、宙の記憶―オーケストラのための、主題の無いパッサカリア―オーケストラのための、女声合唱組曲「十四行のうた」(全音楽譜出版社)、女声合唱組曲「天使のいろいろ」(カワイ出版)、男声合唱とピアノのための「蛙の交響〜草野心平の詩による」、「合言葉」(教育芸術社)などがある。2014年9月にはオーケストラ作品集CDをリリース(ALCD-99)

 公式サイト http://masahiro-official.jimdo.com

 X(旧ツイッター) https://twitter.com/compMY

 


 

曲目表

→1)山本哲也《スライドホイッスル三重奏曲》(2011)→解説
→2)山本裕之《木管三重奏曲》(2009)→解説

→3)山本和智《Air》(2022 / 初演)→解説

→4)山内雅弘《OBOE Concerto!》(2021)*本投稿

→5)山田奈直《15本のスライドホイッスルのための修羅》(2024 / 委嘱新作初演)→解説

→6)山邊光二《アイデンティティ、尻っ尾のディテール》(2024 / 委嘱新作初演)→解説

→7)川島素晴《スライドホイッスルのための超絶技巧練習曲集》(2024 / 新作初演)→解説

→8)大蔵雅彦《Active Recovering Music # 7, #10》(2012)→解説