小雨の降る朝に
出掛けた


いつもなら朝日が出ている時間だが
雨で煙っていて薄暗い


寒い…


こごえそうな手を
ポケットに突っ込んで
堤防沿いの道を歩く

むこうから誰かがやってくる


暗いせいか人の姿がぼんやりしている


僕はうつ向いてしばらく歩く


ふと顔を上げると

その人との距離が縮まっていない事に気がついた


おかしいな

おかしいな


向こうはこちらに向かっているのに全然近づいていない


周りを見渡すと他に人影もいない


いつもはもっと人がたくさんいるはずなのに…



いつの間にか霧がでてきたようで視界が遠くまで届かない


お互いに向き合って歩いているのに
近づいて来ないのはどうしてなんだろう

それにあの人…


距離が離れているからぼんやりしてるのではなく

体の輪郭や
顔だちがはっきりしていないような気がする



周りの景色が
いつの間にか変わっている


僕の歩いている道は
幅の広いどこか古びた
土の真っ直ぐな道になっている


ずっと続く真っ直ぐな道の先には

大きな山が正面に見える…


なにか嫌な感じだ…


昔 大工棟梁の書いた本を読んだ事がある

家を作るにはいくつかのタブーがある


裏鬼門 表鬼門 

扉を真北 真東 真南 真西に作らない

真ん中の道は

神様の通る道…


人間は決して通ってはならない



この道は
もしかすると…



いつの間にか
僕の後ろにたくさんの人がいる


僕の後についてきているような

ずっと先の山に引っ張られているような

どの人も顔がはっきりしない

黒くてぼんやりとした固まりのような顔


僕は止まる事も
引き返す事もできずに


ますます霧雨の濃くなってきた道を


歩き続けていく…。






子供の頃の僕は
友達を作るのが下手だった

だから僕はいつも
誰もいなくなった校庭で一人で
遊んでいた


冬の校庭はとても寒くて寂しかった

そんな時に君は現れた


オカッパ頭で
着物を着て
裸足だったけれど
目のクリッとした可愛い女の子だった


「名前はなんていうの?」

と僕が聞いても
君は黙って笑っているだけだった


でもあの日から僕達は友達になったんだ

鬼ごっこをしたり
縄跳びをしたりして
いつも遊んでいた


日が暮れて

「僕もうお家に帰らなくちゃ」

って言うと


君はいつも泣きそうな顔をしたね


いつしか僕には友達ができて
君の事はすっかり忘れてしまった



もう10年も過ぎたある日
同窓会があって
僕は一人だけ学校の校庭に残り
ブランコに乗
っていた


そこに君が突然現れた


君はうれしそうに笑っていたね


君の着物は
すっかり薄汚れてしまっていたけれど

微笑みは
あの時のままだった


僕は君の事をすっかり忘れてしまったのに

君はずっと僕を待っていてくれたんだね

僕は君をそっと抱きしめると

涙が溢れて溢れて…

後は言葉にならなかった


君はそんな僕の髪を
優しく撫でてくれた

きっと僕よりもうんと歳上の女の子



もう君の事は


絶対に忘れないよ…。






夜10時を過ぎると
子供達は
電池がきれたオモチャのように
眠りにつく


窓の外には
満天の星空が溢れ
満月はこうこうと夜の町並を照らしだす

月の光は銀色の光…

銀色の光を浴びた森は
不思議な妖精を呼び起こす


緑色の服と
緑色の帽子を被ったその妖精は


月の光の中を
フワリフワリと上り
森の上空をしばらく漂いながら
クルクルと旋回する

そして
やがて森を離れ
町へとやってくる


妖精は
まだ灯かりの着いている家を
一軒一軒覗きこんでいく


家の中では
小さい男の子が

「まだ眠たくないよ」

と言って母親を困らせている



妖精は
クスクス笑うと
家の中の子供に
そっと砂を撒いた


子供は
しばらくすると
いままでが嘘のように
パタンと寝てしまうのだった


妖精はそうやって
まだ起きている子供を探しては
そっと砂を撒いて
子供達を眠らせる


町中の子供達を眠らせると
妖精は満足そうに胸のポケットからフルートを取り出す


そして
万華鏡のような音色を奏でながら
森へと帰って行く


一人の少女が
その音色で目を覚ました


寝ぼけ眼で窓の外を見ている

「ねぇ、ママ…緑色の妖精が飛んでるよ」

「…あぁ、それはね、サンドマンって言ってね 砂の妖精なのよ…さぁ、もう一度寝ましょうね」

「うん…砂の妖精…なんだ…」


遠くから
フルートが聞こえている


その音色は
段々と小さくなって

やがて少女は
夢の世界に落ちて行きました…。