下宿生の部屋で泊めてもらう事が多くなって
僕は彼等の本棚を内緒でチェックするのが習慣になった

話していて深みのある人に共通していたのは
その人の本棚にはたくさんの本が溢れている事だった
哲学書、教育書、政治や情勢の本、小説、

「一番分かりやすい哲学の入門書を教えて欲しい」
とアールに頼むと

「ものの見方、考え方」
という本を教えてくれた

早速読むととても分かりやすくて
それでいてハッとするような新しい考え方を教えてくれるような素晴らしい本だった
やはり本というものは素晴らしいものだと痛感した


アール(2年♂)、バカボン(2年♂)、タマ(2年♂)、スケスケ(3年♂)の部屋の本棚にはいろんな分野の本があった

僕はこっそり気になる本のタイトルと著者をメモして
本屋でその本を探して購入した


実践の次のパート会には必ずその時のレポートを持ち回りで書いて討論資料としていた


一つの実践が終わると
次の日に順番で誰かが「実践レポート」と言って実践の中でどの子供が何を言ってどう行動したのか
セツラーがどう感じて
どのように話していったかをレポートに必ずまとめて
それを元に討論が行われるのだが
ある時、僕の書いた実践レポートが珍しく褒められた

「このレポート面白いのね」
初めてトンボ(4年♂)がそう言ってくれた

「ナッツの前に書いたレポートに比べたら会話や自分の感じたことが書かれてあって評価できる」
とアールも言ってくれた


これには訳があった
少し前にジェレミーの下宿で見せてもらったゲータ(4年♂)のレポートを読んで驚いた

そこには今まであまり意識しなかった子供の具体的な言葉や様子、それにセツラーがその時なにを考えて行動したのかが詳しく書かれていたのだった

僕が書いた実践レポートはゲータのレポートで感じた事を自分の実践に当てはめて書き綴ったものだったのだ


「ただ働きかけが死活の問題になっていない。その場面場面でなぜ子供がそんなことを言うのか考える必要がある」
とアールに付け加えられた

確かにそうだ
だがその言葉は今後の自分の課題として前向きに考えることができた


またある家庭訪問でのことだった
アールが用事ができて家庭訪問に入れなくなった為
みんなでアールの家庭訪問を分担した時があった

そのうちの僕が分担した幸恵(小学3年)での家庭訪問での事だ

幸恵はまだ実践で見たことがない子供だった
お母さんはとても教育熱心な人で僕らの活動にあまり成果が出ないことに不満を持っていると語ってくれた
それに対して自分達が目指していることや最近の実践を話していると1時間以上話をすることができた

初めて充実した家庭訪問ができた気がした

そのせいか翌日の実践に初めて幸恵が来てくれたのだった
きっとお母さんが僕の話を聞いて
そんなに言うなら試しに行かせてみようか
そう思って送り出してくれたように感じた

幸恵は実践で実に楽しそうにみんなと遊んでいた

そして実践が終わってからも彼女はオバケの恵子と一緒に公園の回転ジャングルジムで僕と一緒に替わりばんこに回しては遊んだのだった

セツラーは自分だけ
子供は7人ぐらいだった

僕がジャングルジムに乗って子供達が一生懸命回している姿をアールやボッチ(1年♂)が通りかかって

「あれ~!どうして?凄いなナッツ!」
と驚いていた


その後に全戸配布があったのだが
何故か子供達が4人ほどついてきてくれて

初めはただ見ていたのだが
どうやるか分かると子供達だけでやり初めたのだった
これには驚いた


次の日に大学のサークル室に行くとアールがスッティングをしていた

「ナッツ先生!この頃すごいですね。最近ナッツ先生の力を感じますよ。オレが家庭訪問に行っても幸恵ちゃん来なかったのに、先生が行ったら一発できたじゃないですか」

へへへ、たまたまだったんだけどね


やっぱり小さな事でも評価されるというのはうれしいものだ


そんな事がいくつも重なって僕は段々とセツルが楽しくなってきた

他パートの先輩セツラーとも徐々に話せるようになってきた

ケータはロックとバイクが好きだった事もあり
ロックの話ができる数少ない一人だった
いろんな話の中でケータはうちのサークルに徐々に民青(日本民主青年同盟の略、日本共産党の青年組織)が入ってきていることに不満を持っていた
「サークルは自由に学べるとこでないとあかんのだわ。一つの思想に固定されたらあかんのだ」

ケータの言うことはもっともだった
うちの大学はどちらかといえば左翼よりの大学だった
構内を歩いていても
「ねぇ赤旗とらない?日曜版だけでもどう?」

とよく言われたものだった。








総括合宿が終わって
心に決めた事があった
それはまず自分のできる事から一つ一つやっていこうという事だった


まずは家庭訪問でもっと積極的に子供と遊んで子供と仲良くなろう
そして実践で子供一人一人の様子や言葉をしっかりつかんでいこう
と心に決めていた


9月の終わり頃にまた大学が始まり通常の活動が再開された

僕はなかなか実践に出てこない子供や
実践でも生き生きできない子供とまず家庭訪問で遊んで仲良くなる事を心掛けた

例えば友美という小学3年生の女の子がいたのだが
彼女は時々実践にはくるけどドッチボールとか野球でうまくみんなの輪に入っていけない子だった

家訪でボール投げや野球の練習をすると
家訪に来るのを待ちかまえるようになって
「来るのが遅いよ~。トンちゃんずっと待ってたんだよ」
と言ってくれるようになって
実践でも元気に遊べるようになった

10月にはカンポックリを使った長期的な実践をセツラーが計画した
カンポックリは空き缶にヒモを通して竹馬のようにして歩く遊びだ
まずみんなで各人のカンポックリを作って最終的にカンポックリ運動会をしようという計画だ

子供達にやる気を持たせる為に進級表を作った
2級の豆先生
1級の豆校長先生
になると賞状がもらえるのだ

初めはみんな真剣にやっていたが
段々と難しい項目になってなかなかできないと投げ出して他のことを始める子供が出てきた
どうしたものかと考えているとアールからゲキが飛んだ

「子供から目を離してしまったらそれで駄目なんだ。勝手なことをしている子を見て何も感じないのか!」

厳しいなぁ
僕だってなんとかみんなで楽しめるように考えているのに

なかなかこちらの思ったようには子供は動いてくれない


だが少しずつ家庭訪問や実践で具体的な疑問や自分のできる事がつかめつつある手応えを僕は感じていった


11月には大学で学園祭があった
セツルメントとしては「子供の広場」という企画をして地域の子供達を大学に招待した

何度か実践で遊んでいる小学3年生の恵子、典代、真美もやって来た

恵子は面白い子で
「わたしの正体はオバケなの。ほらね」
と言って目を白目にして見せたり
「こないだの誕生日で101歳になった」
と言って笑わせてくれた

真美はなかなかの美少女だが僕を見つけると走って来てはいきなりボールをぶつけてきたり
からかうと蹴りを入れてくるようなワンパクな女の子だった
好かれているのか
嫌われているのか分からないのだ

典代はちょっと内気な子だが3人固まるとやたらと元気になるのだ

「未来の家」というところで段ボールとガムテープで好きな家を作った
でも途中から雨が降り出したので講義室に入って昼ごはんにした

みんな持ってきたお弁当を広げた

何も持ってこなかった僕は子供達から少しずつ分けてもらって食べた

昼食後は自由時間になった

真美が
「ナッツ、どうする?」
と聞くので

「ちょっと外を見てこようかな」
と言うと

「そんなら真美ちゃんも一緒に行く」

と言うので雨の降る中を相合い傘で二人で大学内を散策した

わんぱくな真実が僕についてくる事に内心驚いた
しかもいつも複数で集まる女の子が一人でくるのも珍しいことだった

いろんな模擬店を回り
蝶のアクセサリーと貝殻、水飴を買った

いつもワンパクな真美がとてもおとなしくていじらしくて可愛らしく思えた

女の子って初めから女なんだよって誰か言ってたけど
うん確かに男の子とは少し違うものだ

子供ってやっぱり可愛いな
僕もいつか結婚し女の子が産まれたら
こんな風に二人で歩くことがあるのだろうか


やがて2時になり子供達をバス停まで連れて行った

子供達を見送った後の解放感でセツラー同士で思わずバンザイをした


あぶさんとその後いろんな店で飲み食いして
結局、後夜祭まで出て
終わったのは9時頃だった

その後もサークルでコンパがあるというので迷ったが結局出ることにした

コンパには30人ぐらい集まった
カール(一年生 ♀)の四国の友達二人も来ていて

一人が色の白い髪の長い子で
もう一人はショートカットの目の大きい可愛い子でタニシと言った

バカボン(2年 ♂)がタニシの横に座ってずっと話していた

ちくしょ~!
やるなぁバカボン!

コンパは11時頃にお開きになり
まだもの足らないメンバーはミスタードーナツまで30分かけて歩いて行った

メンバーはあぶさん、バカボン、カマG(4年 ♂)、カススケ(1年 ♂)、カールとその友達二人と僕だった

僕はあぶさんとタニシと並んで話しながら歩いた

あぶさんは少し酔っていて
顔を赤くして上機嫌でベラベラと喋り続けていた

あぶさんったら
すごいんだから…負けるわ

ミスタードーナツのテーブルではその友達二人とあぶさんと僕が同じテーブルで話しが弾んだ

二人ともニコニコと話を聞いてくれるタイプで
話が盛り上がって本当に楽しい夜だった

女の子達を送っていくともう2時を過ぎていた

帰り道で男5人で並んで立ちションベンをした


とても月の明るい夜だった

みんなでジェレミーの下宿に押し掛けて雑魚寝をした


「バカボンすごいな~」

「ちくしょう、あぶとナッツめ!」

「あぶさんとバカボンめ、うまいことやりやがって。くやし~!」

などとお互いの事を言っては大笑いした

「やっぱりあれが女だぞ。タニシちゃん最高!」

そしてまたお互いに

「ちくしょ~、うまくやりやがって!」

と言いあうのだった


本当に

心から楽しい夜だった。







僕らの街にも
青い空が欲しい
白い雲の浮かぶ
まっさおな空が

僕らの街にも
でっかい広場があったら
みんなで手を繋いで
走れるのにな



ラララ~
でっかい広場と青い空と
僕らの夢をください
でっかい広場と青い空と
僕らの夢を



車にひかれて
死んでしまったあの子も
どんなに思いきって
走りたかっただろう

僕らの夢が
つぶされないような
まっさおな空と広場が欲しい



ラララ~
でっかい広場と青い空と
僕らの夢をください
でっかい広場と青い空と
僕らの夢を



子供が楽しく
遊びあえるような
そんな明るい街を
つくってお母さん

みんなが幸せに
生きていかれるような
青い空の街を
つくってお父さん



ラララ~
でっかい広場と青い空と
僕らの夢をください
でっかい広場と青い空と
僕らの夢を










サークルではよくみんなで歌を歌った

仲間の歌
戦争や平和の歌
人生や希望の歌

たくさんの歌の中で
特に忘れられない歌が
この「広場と僕らと青空と」という歌だった

まるでセツルのテーマソングのような歌だった


歌というのは不思議なものだと思った

落ち込んでいても
みんなと肩を組んで歌っていると不思議と前向きな気持ちになっていった。