6月から7月にかけての実践で小学3年生のたかのぶという男の子に焦点をあてて系統的に追っていた
たかのぶはセツラーに対してもよく話しかけてくる子だったが今ひとつ集団の中で活発に遊べない子だった

僕は7月の愛セツ連大会に向けてたかのぶを追いかけたレポートを作ろうと考えていた
その為にはしっかりとした実践総括をする必要があった

毎回のパート会では総括しているもののレポートを作れるまでの話し合いはできてなかった

そこで総括合宿をする事にした
場所はパーマンの下宿を借りて夜の9時から朝の5時までの話し合いだった
初めはブスッとしていたドブ(1年♀)が実践を話すうちに目を輝かせて子供の様子を生き生きと話してくれて
メチャ(1年♀)やカボちゃん(1年♀)もだんだんとエンジンがかかってきたみたいによく話してくれた
あまり実践に出てなかったオリヒメ(1年♂)も元気に話して盛り上げてくれた
いろんなことに悩んでいた1年生にとっては実りのある話し合いができた

しかしこれで即レポート化ができるかと言えば
まだまだ足らないと僕は気がついていた

時間は限られている
どうすればいいのか
とにかく書けるところから書いていこうということで一致し役割分担をした
僕は実践レポートと実践総括
レポートの一番大切な部分だった

愛セツ連大会が迫っても実践総括がなかなか書けなかった

すでにうちのレポートを使った分科会が計画されていた
事前の議長・レポーター会議にまだレポートが未完成の為に自分も参加した
議長は他のセツルのラビット(2年♀)という女の子だった

「ふ~ん、すごいね。すごい実践をしてるんだね。うらやましいなぁ。」
とラビットは言ってくれた


うれしかった
1年生セツラーやじゃんけんパートの為
それにラビットの為にもレポートをなんとしても完成させたいと心に決めた

しかし愛セツ連大会前日になり
締め切りが迫ってもなかなか書けなかった
今まで考えてきたことの半分も文章に出来なかった

その日もあぶさんの下宿で僕はレポート用紙の前で戦っていた

あぶさんは「書けたら文章点検してあげるから頑張って」と言ってくれた

時計は夜中の3時を過
ぎ4時になって外が明るくなってきた
あぶさんはいつの間にか寝ていた
文章化する中で総括した内容が不十分だという事に気がついた

しかしこれからまたパート員を集めて総括をする時間は無かった
話した事を文章化するしかなかった
やっと書き上げたのは6時を回っていた
満足できる文章ではなかったがもうこれ以上は書けそうになかった

あぶさんに文章点検をしてもらおうと起こすと
「寝させてくれ。文点はできん。大学に行って誰かに見てもらって」
と言った

ちくしょう!
泣きたくなった!
自分だって寝たいのに…

なんで自分だけこんなに苦しい思いをしなくちゃいけないんだ

大学の学生会館にいくと他のパートもレポート作りで苦しんでいた

「アールなら屋上で寝てるよ」と聞いて屋上に行った

アールは腕を組んだままコンクリートの床に寝ていた

申し訳ないけど文点して欲しいと頼むと心よく引き受けてくれた

うれしくて涙が出そうになった

「確かに総括で話し合われた結論はこうかもしれないけど、これじゃあ一般論だと思う。総括の中でどんな風に話し合われたのかをもっと書いたほうがいいと思う。それとセツラーが総括されてない。絶対にセツラーの成長を見ていかんかったらいかんと思う」

さすがはアールだ
書いていて気がついた弱点を全て見抜かれていた

分かっていたけど書けなかったのだ

「どうしても帰りたい」
と僕は言った

この7日間で1日しか家に帰ってなかった
それにこのしんどさから少しでも解放されたかった

「じゃあ、これがどんなに手が加えられてもいい?」
とアールが言った

「うん」


帰る電車の中、バスの中では睡魔に引き込まれるようにウトウトしていた
家で風呂に入り
飯を食った
レポートの事が頭から離れなかった

みんなが来て頑張ってるんじゃないだろうか
自分の事を怒っているんじゃないだろうか

昼の1時ぐらいに家を出て愛セツ連大会の会場の愛知県立大学に行った

着いたのは3時だった
レモン(2年♀)に聞くとまだできてなかった

夕方に僕らの大学に戻って実務をした
ドブとドッツンも手伝ってくれた

悪戦苦闘の末
夜中の12時にホッチキスを入れてやっと完成した!

ドッツンは喜んでレポートを持ってスキップしながらみんなに見せに回っていた

できた!
という感動よりもできて良かった…

という安堵感に僕は浸っていた

他の幼児パートのレポートの実務を手伝って大学を出たのは夜中の3時だった

次の日は寝ていたかったが体にムチを打って出かけた
僕らのレポートはカボちゃんとメチャがレポーターを勤めた

僕は他の児童セツルの分科会に出た
そこの内容は正直言って実践も総括も不十分なものだった

多くの単セツが低迷してる事が逆によく分かった


うちの実践のレポーターをしたカボちャん、メチャに「どうだった?」
と聞くと
「うちの実践がめっちゃ評価されてうれしかった」
「いままでずっと自信がなくて悩んでいたんだけどやっていけそうな気がしてきた」
と喜んでいた
やっぱりレポートを作って良かった


苦しむ事の多かった今回のレポート化だったが
やってきた活動を一つの形にする事の大切さを痛感した

次にレポ化する時は
もっと満足できるものを作ってやろうと僕は新たに燃えていた。








セツルメントの基本活動は
実践とその実践総括にある

「実践」とは毎週日曜日に地域で子供を集めて集団遊びをする事で
セツラーはただ単に子供を遊ばせるのが目的ではなく
子供の成長は集団遊びの中でこそ育まれるという集団主義教育の観点にたって
集団遊びに入りたいのに入れない子や遊びの中で今ひとつ生き生きとできない子の立場に立って「願い」を持って「働きかけ」をする

「願い」とは子供にたいしてもっとこうなって欲しいと具体的にイメージを持つことであり

「働きかけ」とは
その子の言葉や行動から内面に潜む要求を探り出し
時に子供に語りかけゆき
その子自身の中の要求を実現する為に
子供の中に葛藤を引き起こして集団の中で自分の要求を実現できるような手助けをすることを言う


またセツラーは毎回実践で起きた出来事をレポートにまとめて
翌日のパート会で持ち回りでレポートをみんなに配布して
それをもとに週に2回「実践総括」をする
実践の中で働きかけた子がどのようにして葛藤し認識を変化させたか
またセツラーの働きかけの中にセツラー自身の抱えている問題や矛盾はないのかを話し合い
討論することによって
次の実践への課題や目標を明らかにしていく

こうした繰り返しの中で子供個人や集団の成長を目指し
その中でセツラー自身も成長していく事を目指した

これがセツルメント活動の根本理念なのだが
何せ学生のやる事だから

話し合いの時間に遅れてきたり
サボる奴やら
ひよる奴やら
恋愛にうつつをぬかす奴やらが多かった


6月のある日
パート会が終わるとチャリンコ(2年♀)が来て

「あのさ~今日トックリ(1年♀)の話をしてたんだよね。トックリさ~今日会ったんだけど『せきが出て風邪ひいたみたいだから帰る』って言ってこなかったんだわ。ボテト(1年♀)から聞いたんだけど、トックリはナッツの話を聞いてまたやる気になったんだって。どんな話をしたの?また話してやってくれないかな」

そうだったのか…

そういえば新歓合宿の夜な夜な語ろう会でトックリと話したなぁ
僕の話で一度はやる気になってくれた事がうれしかった

また話してあげないといけないな



それからシャワシャワ(2年♀)と下らない無駄話をしてるうちに

「恋占いをやってみる?」
って話になって

サークル室にいたあぶさん、ボッチ、カススケと一緒にトランプで占ってもらった

みんな思い思いに気になる女の子の名前をあげた

占う相手として僕は
「ドッツン、カボちゃん、ズー、オコシ」
をあげた
前回と少し変わってきた
のだ

ドッツンは「デートする子」「むこうがこっちを思っている」「こっちがむこうを思っている」「友だち」が出た

オコシは「児童公園に行く」「失恋する」が出た


不思議なムードだった

なぜかみんな真剣だった

そのムードに乗せられてドッツンやオコシの名前を出してしまった
オコシは幼児パートの1年生
ちょっと内気な子だが上品な感じの子だ

みんなのあげる名前が意外だったりして面白かった
そうかあいつはあの子が好きだったのかと驚いたりした


6月になると各パートの新入生の中で「辞めたい 」という声がぼちぼちと出てきていた

そんなある日サークル室にいるとあぶさんがやって来た

何か言いたそうに僕を見ている
そういえばあぶさんもドッツンに好意を持っていた

「パーマンが『最近あぶさん真剣すぎて恐い』って言ってたぞ」
とドッツンに熱をあげている事を僕がからかうと

「オレも真剣すぎて恐いわ。今日…ドッツンとちゃっかり喋っちゃった。10時から1時まで…ベネルクス(喫茶店)で…」

あぶさんはいつも冗談ばかりいう男たが
こういう話で嘘をつく男ではない

僕は予想もしていなかった話を聞いて
ショックでかなり動揺してしまった

するとドッツンがサークル室に来て
「今から家庭訪問に行ってきま~す」
と言って出て行った

あぶさんも後を追うように出て行った

自分も行こうとしているとポテトとトックリがやって来た

トックリに
「今日の家庭訪問いくでしょ」
と聞くと

「今日と明日休みたいの…」
と言う

これはかなり重症だ

ミルキー(2年♀)が
「ゆっくり話したほうがいいよ」
というので
屋上に行ってポテトとトックリと話すことにした

「今は考えるのも嫌なの。サークル室にいくのも、パート会も疲れるし、みんな嫌なの」

「じゃあ実践も嫌?」

「行く時は嫌だけど、実践やってる時は楽しい」


それを聞いて
まだこの子には可能性が残っていると僕は思った


一年前は自分もトックリと同じような気持ちだった事を話し、苦しい気持ちはよく分かるけど
自分自身から逃げたら駄目だよ
と話していった

時々ハンカチで涙を拭きながら
それでもはっきりした声で彼女は答えてくれた

1時間半ほど話して家庭訪問に行くと言ってくれた

僕らは3人でバスに乗り地域に向かった

2人と別れ
僕が地域を歩いていると

「ナッツさ~ん!」
と呼ぶ声が聞こえた

振り返るとドッツンがともひろの家から手を振っていた

ドッツンは家庭訪問の途中だったのでしばらく横で聞かせてもらった
ともひろのお母さんと一生懸命話している姿に心を打たれた
一時間以上話していただろうか

話が終わってから
「頑張ってるね。驚いたよ」
というと彼女は照れくさそうに笑った

「いつもはこんなに話せないけど、今日はナッツさんがいたから気合いを入れて頑張りました」


僕はその時
これからはパートの先輩として彼女を支えていこう
と密かに心に誓ったのだった。







やっとサークル活動が楽しいと思えるようになったものの
自分が楽しめる時と
落ち込む時の
繰り返しだった

楽しいのはみんなと気楽に話せるようになったこと
パート会で意見が言えるようになったこと

落ち込むことは
意見を深めて展開できないこと
時々みんなの中で孤独になることだった


あっという間に一年が経ち僕は2年生になって
4月には新入生が入ってきた

新入生の勧誘活動(オルグ)は楽しかった

可愛い女の子に話し掛ける口実があるというのは罪悪感のない事で
僕はあぶさんや火星人(2年♂)と一緒になって好みのタイプの女の子に次々と声をかけた

しかし話をするのは楽しいものの
実際にセツルに入部させるという事は大変な事だった
なぜなら自宅生である僕自信が束縛される時間が多く大変なサークルだという事を誰よりも分かっていたからだ

4月はオルグ活動と平行して新しい人事を決めなくてはならなかった
すでに委員長にはアールが決まっていた
残っているのは各パートのキャップだった

昨年は前期がスヌーピー
後期があぶさんだった
じゃんけんパートは今年から二つのブロックに分けて実践する為
パートキャップも二人選ばなくてはならなかった

一人はほぼペコ(2年♀)で決まっていた
もう一人を僕にやって欲しいという声が出た

アールいわく
「ナッツって、セツルをやってきて本当に変わってきた人間だと思うんだ。一年前だったらパート会でもショボンとしてて何も言わないし、一体このままやっていけるんだろうかって思ってたのに、この頃じゃみんなの中で冗談を言ったり、みんなで歌を歌う時もコールしたり、この前のパート会でペコが『わたしは一年間セツルをやっても何も変わらなかった』って言った時、ナッツは『そんなことないじゃんか』って言ったじゃんか。オレはそれがうれしかったの。確かに自宅生で時間がかかるっていうハンデはあるけど、その中で学ぶものは絶対に大きいと思うんだ。もっと苦しむ中でもっと成長して欲しいと思うんだ」

僕は正直言ってセツルは続けたかったが
これ以上サークルに時間を取られるのは嫌だった

それに2年生になったらもっとゼミ活動や講義を真剣に学びたいと思っていた

だがみんなの言ってくれた言葉は身に染みたし
やれるとこまでやってみようという気になり
半ばやけっぱちでキャップを引き受けた

僕のパートにはあぶさん、レモン、一発、スヌーピー
ペコのパートにはアール、チャリンコ、サニー

みんな好きだったので本当はそのまま同じように活動したかった
特にアールと離れるのは寂しかった
僕のような人間にはアールのような存在が必要だと感じていた
アールは厳しい先輩だったがユーモアや人を切り捨てない優しさがあった

新入生(NS)にじゃんけんパートは人気があって10人ぐらいが希望してくれた
しかし、ガキ大将パートや中学生パートの希望者はゼロで複雑な気持ちだった


3月末に大学の近くに新しい下宿ができ
そこにジェレミーとあぶさんが引越しして、新入生のパーマン(♂)も同じ下宿に住んでいた

僕は遅くなるとどっちかの下宿によく泊めてもらった

ある日ジェレミーが
「いま燃えている3人男って誰か知ってる?トットさん、あぶ、ナッツ!」
「えっ?何のこと?」
と聞くと

「燃えてるの知ってるんだから。ドッツン!」
「男なら行け!」
「頑張れ!」

ドッツンはうちのパートに入った新入生だ
目のクリッとした明るくて可愛い子だった
確かに僕はドッツンに好意を持っていた

そのせいか次のパート会からまともにドッツンの顔が見れなくなってしまった

ジェレミーと新入生の女の子ベスト5を出しあった

ジェレミーは
「ズー、クチャ、ミロリ、ミッキー、ドッツン」

僕は
「クチャ、ミロリ、ウラン、ガボちゃん、ドッツン」
をあげた

「ナッツ、NSの女の子から人気あるよ」

「えっ!本当に?」

「『ナッツさんって可愛い』だってさ!」

なんだそれ~

喜んだらいいのか、悲しんだらいいのか…


5月に入って新歓合宿があった
去年と同じ海辺の民宿だった

2日目の朝に
みんなで散歩に出た時に
まずケータが海に落とされた
毎年恒例の儀式が始まったのだ

その後アール、ケイブ、パーマンが落とされ
そして僕も落とされた

油断していた…
気がついた時にはみんなに手と足をつかまれて海にバシャバシャと移動され
放り出されたあの瞬間

体が宙に浮きフワっと軽くなった気がして気持ち良かった
そして海に落ちる瞬間のあの感覚

なんともいえない気持ちだった
意外に海水は温かく
しょっぱかったけど不思議と気持ち良かった

みんな楽しそうに笑っていた
僕もなんだかうれしくて笑った

それから民宿の水風呂に入って体を洗った


新歓合宿が終わると愛セツ連大会があった
愛知県のいろんな大学のセツラーが集まって講演を聞いたり分科会をしたりするのだ
キャップになるとこうした大会の分科会で
議長をしたりレポーターをする事が多くなった

僕は「働きかけとはなにか」というテーマの議長になった
議長、レポーター会議で打ち合わせをした後にフカメラー(議論を深める人)として入ってくれるタマ(3年♂)と何に気をつけて話を進めていくかを確認した
夜の11時半を過ぎていたので終わりにしてあぶさんの下宿に行って泊めてもらった

次の日に会場に行くと
タマがこない!

おまけにうちのところに来たのは2年生が一人と7人が新入生だった

タマにある程度助けてもらおうと思った分焦ってしまった

だが2年生の人が頑張ってくれたおかげで
新入生から
「悩んでいる事が少し分かってきたような気がした。出て良かった」
と言われた時は本当にうれしかった。