やっとキャンプ実践が終わったと思ったら
次は地域全体を対象にした夏祭りが待っていた
地域ぐるみを対象にした取り組み
と言うことで僕らは略して「ぐるみ」と呼んでいた

「ぐるみの夏祭り」は地域の二つの公園を使って二日間に渡って行われた

園児から中学生までが集まって
住んでいるブロックごとに縦割り集団でグループ別けをした

幼い子をやんちゃな中学生が助ける姿は見ていて微笑ましいものだった
みんなでガヤガヤと七夕飾りをつくったり
竹とんぼやら竹細工をした

竹は近くの竹林に中学生とセツラーが行って切ってきた

夕方にはスイカ割りをやって
みんなで割ったスイカを食べた

笑顔でスイカを食べる子供達がとても可愛かった


次の日は竹細工の続きをして
暗くなってからキャンプファイヤーをやった
火の神をイメージした二人のセツラーがシーツを纏った衣装で登場し
寸劇を交えて場を盛り上げた

その日の活動が全て終わると
セツラーだけが集まって暗い公園で団結踊りを延々とやった

音符モグラの祭りは暗闇まつり、年に一度のカンテラ下げて、リズムに合わせて踊りだす~」


やっと大きな行事が終わると
今度は「ぐるみ」の総括討論だの文章化だの
打ち上げコンパだのと
まだまだ終わらなかった

コンパではみんなにけしかけられて歌を歌ったり酒を飲んだりしてはしゃいだ
みんなの前で歌を歌うことが
恥ずかしいとあまり思わなくなってきたのだ

終わり際に4年生のゲータ(♂)に

「おまえも元気になったなぁ。最初はどうなるかと思ったぞ」

と言われてうれしかった

違うパートのそれも4年生が気にかけてくれたことがうれしかったのだ


8月の5日頃にやっと休みに入りみんなそれぞれの故郷に帰って行った

北は北海道、南は九州の宮崎まで

やっとのんびりできる夏休みになった

ところがあれほどゆっくり休みたいと思っていたのに
実際に休みになると考えるのはセツルの事やみんなの事ばかりだった

毎日昼近くまで寝ていて何もする気力がなくボーっとしていた

一体自分はどうなってしまったのだろうか

だらけた休みが続いた末に
8月の終わりにまた総括討論だのレポート作りだのが始まった

9月の始めから5泊6日のサークルの総括合宿があった
場所は信州の民宿だという

JRの電車に揺られて冬場はスキーで賑わう山あいの田舎に着いた

きっと楽しい事がたくさんある合宿だと思い参加したが
これがとんでもない合宿だった

朝早くから夜遅くまで
大広間に机を繋げて座布団に座ったまま
いろんな項目に分けて討論が延々と続くのだった

執行部は夜中まで各担当項目を文章化して
手の空いた人がガリ切りしてスッティングするのだ
スッティングは得意だったが
ガリ切りは苦手だった

何故なら字が下手くそだったからだ
僕の書く字は
我ながら情けなくなる小学生のような字だった

「オレさ、ナッツの字って好きだよ。文字の一つ一つが独立して自己主張してるみたいだもん」

あぶさんは笑いながらそう言った

「個性的な字だよ。字っていうより絵って感じ!」

シャワシャワがそれを受けて茶化した


やっぱり…ガリ切りは他の人に任せよう


僕はその後の実務で頑張ることにした

夜はパート会や学年別集会があり
ある日、相互批判をやった
これは5~6人ぐらいのグループに分かれて
その中で一人一人に対して他のみんながその人のいいところやもっとこうなって欲しいという思いを言いあうのだ

みんなに共通して言われたことは

「初めはすごくおとなしい人だと思っていたけど、結構おもしろい人なんだね。でももっと討論で活発に生き生きと発言して欲しい」

という事だった


やっぱりなぁ
まだまだ努力が足らないなぁ

でもみんなちゃんと見てくれてるんだなぁ

うれしさと自分の未熟さと反省を感じたほろ苦い合宿だった

合宿に来た一年生は半分ぐらいだった

多くの短大生がサークルを辞めたいと言って参加しなかった
それ以外にも何人か辞めたいと言って悩んでいる人達がいた

その多くがサークル活動の拘束時間が長すぎる
もっといろんな事をしたいのにできる時間がない

もっと楽しいサークルだと思っていたのに会議の時間が多過ぎる
意見が言えなくて楽しくない

自分の性格に合っていない
何を学んでいるのか分からない

そんな悩みが渦巻いていた

4年生のトンボにその話しをすると

「セツルの良さとか、やって何を得たのかっていうのはなかなかはっきりした形で確認できるものではないんよね。オレでもうまく説明するのは難しいんだわ。でもな、卒業して社会に出た先輩に話しを聞くと、セツルって本当に素晴らしいサークルだったって。卒業してやっと分かった、ってよく聞くんだ。だから、あんまり焦らずに長い目で見たらいいんやないんかなぁ」

う~ん

分かったような分からないようなトンボの説明に少しだけ納得して
帰りの電車の窓から田舎の風景を眺めながら家路へと向かうのであった


家に帰ると一週間ぶりの我が家だった

「おぉ~、やっとかめで帰ってきたなぁ!」

僕の顔を見るとお爺ちゃんはそう言って笑ったのだった。






始めのトリプルアクセルが決まった時


胸がいっぱいになったよ


そして
君が次々と3回転のジャンプを決める度に
僕の胸には熱い涙が膨らんでいったんだ

ダンスシークエンスに移った時に
君のほとばしる想いが踊りの一つ一つに見事に現れていて
涙はいつしか頬をつたっていた


そして最後の踊りを終えた時
君は溢れる涙を必死に堪えているようだった


リンクで決して涙を見せなかった君が
最後に見せた涙は

押しつぶされそうになった重圧に
妥協しないで最後まで全力で闘った自分へのいたわりのようにも思えた


やっと自分との闘いが終わったね


4年前に流した涙から始まった長い長い道のり

あれほど得意としていたトリプルアクセルが一度は跳べなくなってしまった

ジャンプの基礎を一からやり直して
何度も何度も君は
氷上に転倒して体を痛め続けた

でも君はどんなにボロボロの体になっても
決して跳ぶことを止めようとしなかった

言葉にすればたやすいことだけど

それを実行し続けることは本当に勇気の必要なことだと思う

いろんな大会に出ては
転倒し思うような成績を残せなかった

だけど
どんなに悪い演技の後でも君はインタビューに
冷静に答えた

感情的になることもなく
投げやりになることもなく
おごることも偉ぶることもなかった
いつも謙虚で凛としていた


そんな君を僕は
時に同情したり
時にもっと自分の好きなようにしたらいいと思ったんだ


でもね
君はもっと強かった
君は僕が思ってる以上に頑固で
絶対に自分の意思を曲げない人間だったんだ


ソチオリンピックの団体戦で
君がリンクに立った時
僕は君が菩薩様のように見えたんだ


少女だった女の子は
いつの間にか女になり
みんなを愛する存在になっていたんだ


人は私利私欲に走らずに一生懸命に自分の夢を追いかけている人間に
手を貸してあげよう
少しでも力になってやろう
と思うものらしい

君がみんなから愛されるのは可愛いからだけではない

君の一生懸命さが
君の謙虚さが
みんなから愛されるんだ


昨日の君の演技を
たくさんの日本人が
祈るような気持ちで見つめていたんだ

あの君の演技を見て
胸を打たれない人間はいないと僕は思う

そう思えるほど素晴らしい4分間だったよ



ありがとう

そして

お疲れさま



君という素晴らしい人間が
最後のオリンピックで素晴らしい演技を見せることができたということを

同じ日本人として
誇りに思うよ


浅田真央


君の名前は
絶対に

忘れないよ。







やがて大学は夏休みになった

しかしセツルの活動はまだまだ終わらなかった

パートの集中実践として初めてのキャンプと
地域全体の参加を呼びかける「ぐるみの夏祭り」の実践が待っていた

まずこの「ぐるみの夏祭り」を呼びかけるビラを作り
地域の全世帯に全戸配布をするのだ
これも初めて体験だった

子供のいない家はほとんどが無関心だったし
一軒一軒ブザーを鳴らして説明するというのは結構緊張したものだった


とりあえず家庭訪問を終えて地域の市場で焼きそばを食べているとサニーがやってきた

「昨日コンパで食べ過ぎてお腹が痛いから、ナッツ全戸配布やって」
とサニー

「駄目だよ、僕もさっき山内さんのとこでハチミツと酢とアルコールを混ぜたような変なものを飲まされておかしいんだ。サニー調子悪いなら浣腸したらいいよ」

「いやだ~!なんてこと言うのよ」


その時そばにいた小学校低学年の女の子が

「かんちょ~ってなに~?」
と聞いてきた

「ナッツ、ちゃんと教えてあげなさいよ」
とサニーが言った

「かんちょう、っていうのはね…つまり鳥のことだよ。ほら寒い地方にいる鳥でね、かんちょうヅルっていう鳥」

その会話を横で何気なく聞いてたシャワシャワ(1年♀)が突然大笑いをした

「やだもう!ナッツたら!子供にめちゃくちゃ教えちゃ駄目よ」

と言いながらみんなでまた笑った

ちょっと元気になって全戸配布に出かけた

40件配り終えると夏だというのに真っ暗だった


パートの集中実践である小学3、4年生のキャンプは過去にやった事がなかった
セツラーがいるとはいえ子供達だけでご飯作りや後片付け、それにホームシックにならずに1泊するのは
この年令では難しいといわれていたからだった


それにあえて今回挑戦してみようという訳だ

4つの班にわけて一つの班にセツラー2人、子供が男女混合で6人ほどだった

班の名前を考え
班の旗を作り
係を決めて準備完了

セツラーも子供もドキドキのキャンプが始まった
バスと電車を乗り継ぎ約2時間
山あいのキャンプ場に着いた

流れる谷川の水が冷たくてきれいだった
さっそく子供は水着に着替えて川遊び
楽しそうに弾ける子供の姿にみんな笑顔になった

テントを張ったり
飯ごうでご飯を炊いて
カレーを作った
少し焦げたご飯にかけたカレーは最高に美味しくて
みんなオカワリをしてカレーも見事になくなった

それからキャンプファイヤーをやった

薪に火を点火していい感じになったところで各班ごとにスタンツをした
歌とちょっとした振り付け程度のもので
僕らの班は「手のひらを太陽に」をやった

個人でとしひさが一人で落語をやって盛り上げてくれた

テントに帰っても子供達はなかなか寝れないらしく外に出たがるので心配になった

朝はサンドイッチと牛乳で朝食にして
飯ごうでご飯を炊いて昼食用のおにぎりを握った

ところが後片付けになるとみんななかなかやろうとせずに遊びだしてしまった

楽しいことはやるが
楽しくないことはやらないのか

そう思うと腹がたった
他のセツラーも同じ思いらしい
根気よく子供一人一人に話しかけていくがなかなか思うように子供は動いてくれない

やはりこの年でキャンプをする事は無理なのかもしれない

純二に
「昨夜はぐっすり眠れたか?」
と聞くと

「全然寝れなかった。オレ30秒ぐらいしか寝てない」
と言うので笑ってしまった

昨夜の見回りで純二がイビキをかいて寝ていたのを知っていたからだ


3時頃のバスでキャンプ場を後にした
電車の中ではほとんどの子供達が寝てしまった

その笑顔はとてもあどけなく可愛かった

子供は憎たらしい天使だ


夕方に地域に着くと
たくさんのお母さんがお迎えに来てくれていた

帰り際うちの班だったみよに

「キャンプどうだった?」
と聞くと

「すごく楽しかった!また来年も行きたい!」

と言ってくれた

正直来年はもうキャンプなんて行くもんか
と思っていたが
その言葉でまた来年も連れて行ってあげたいな
と思ってしまった

子供達がみんな帰った後でセツラーで喫茶店に行った

「もうキャンプはこりごりだよ」
みんな疲れた顔でそう言ったのだった


次の日ぐらいは休みたかったのだか
パート討論と「ぐるみの夏祭り」の全戸配布の準備があるというので昼から大学に行った

ガリ切りをした原稿を印刷板にかけて1000枚をスッティングしなくてはならない

アールと交代で二人でスッティングをした

終わる頃には手のひらが真っ赤になってしまった

そんな二人をケータが見ていた

ケータは2年生の男で400CCのバイクで通学している哀川翔に似た感じのカッコイイ先輩だ

「ナッツ!お前は実務の神様だな!」

なはは
実務で褒められるのも悪くないものだ


まだまだ僕らの夏休みはやってこなかった。