5日目
朝8時頃に起きて朝食をご馳走になった
出かける前にタマとご両親と記念写真を撮って出発した

1時間ほどかかって四国に渡る柳井のフェリー乗り場に着いた
ところが料金表を見ると目的地の松山まで行くには車と大人2人で1万円以上かかることが分かった

ちょっと待てよ!

今の二人合わせての所持金が4万円
名古屋に帰るのには最低でも1万5千円は必要だ

う~ん
四国に渡ると往復で2万円以上かかってしまう!
予想外の出費になってしまう

「これじゃ駄目だぞ。オコシに会いに行くと家に帰れんくなるぞ」

「う~ん…」

「オコシには悪いけど…諦めるしかないぞ」

「う~ん、…そうだな…」


泣く泣く諦めるしかなかった
オコシに悪いことをしたなぁ
無理を言って会える時間を作ってくれたのに行けなくなるなんて…

すぐにオコシの家に電話したが誰もでなかった

仕方がないので予定を変更して広島に向かった

ところが悪いことは重なるもので途中の山道で速度違反のネズミ取りに捕まってしまった
なんと法定速度の24㎞/hオーバーだった
あと1㎞/hオーバーで免停になる大失態だった

罰金が1万円

く~なんてこった!
大切な旅行資金が…

二人で落ち込んだままなんとか広島に着いて平和記念館を見学した
記念館の展示内容は
見ていてどれも胸が痛くなるようなものばかりだった

外に出ると柔らかな日差しのいい天気だった
鳩が餌を求めてたくさん集まっていた
平和の大切さが改めて身に染みた


今夜はトンボさんの家にお世話になるつもりだった
電話をするとまだ仕事に行っていて6時頃には帰るということだった

まだトンボさんの住む町までは遠いので車を走らせた
6時過ぎに公衆電話を見つけてオコシの家に電話した
お父さんが出たので
お金が足りなくなって四国に行けなくなったので今日の予定は中止とお伝えくださいと伝言をお願いした

途中の尾道からトンボさんに電話して7時半頃に福山駅で待ち合わせる約束をした
もうすっかり暗くなってきてお腹も空いてきた

道に迷いながら少し遅れて駅に着くと
すでにトンボさんはライトバンで待っていた
トンボさんを見るとホッとした

「ほんじゃあ、まず飯でも食うか」
と言ってファミリーレストランに連れて行ってくれた

「腹が減ってるだろ。おごってやるから、心配しないで好きなものを好きなだけ食え」
トンボさんが神様のように見えた

僕らはトンカツ定食と天ぷらの盛り合わせを注文した
うまかった~

それからトンボさんの家に行くとお父さん、お母さんが出迎えてくれた

お父さんは大柄なヒゲを生やした恐そうな人だったが話してみると話好きな気さくな人でホッとした
お父さんは骨董品が好きな人で収集した刀や古い壷を出してきていろいろ説明してくれたが何だかさっぱり分からなかった

10時頃に電話を借りてオコシに電話した
まず今日のことを謝った

オコシの声は
なんだか泣いているみたいな鼻声だった
お父さんから聞いてなかったのだろうか?
それとも7時からずっと僕の電話を待っていたんだろうか?


「夕方にお父さんに連絡をお願いしておいたんだけど」

「今日はたまたま学習会がなくて7時頃に家に帰ってたの。7時に電話があるから、その前にと思って」

「毎日夜の9時まで勉強会はあるの?」

「毎日じゃないけど」

「今日は本当にごめんね…この前の追コンの時にねアメンボとドッツンとタマが来てくれたんだ。ドッツンも大変みたいだよ」

「うん、昨日アメンボから電話があっていろいろと聞いた。ナッツさんはいつから仕事?」

「正式には4月1日からだけどバイトの形で3月16日からやるんだ」

「なんかこっちに来るかもしれないんだって?」

「営業所がいくつかあって広島にもうちの営業所があるんだ。たぶん東京か大阪になるような気がするんだけど、もしかすると広島になるかもしれない。そうなったらまた四国に行きやすくなるからその時はまた会おう」

「うん」

「オコシもまた名古屋に来ることがあったら知らせて」

「はい」

「じゃあね、今日はごめんね」


なんだかホッとした

それにしてもこのホンワカした気分はなんだろう
オコシと話していると自分が優しい気持ちになっていくのは何故だろう?

やっぱり自分はオコシのことが心底好きなんだろうな…

それからトンボさんの部屋に行って酒盛りをした
仕事の話や
セツルの話や
恋愛の話

緊張していたライアンもだんだんと打ち解けてきて3時頃まで喋っていた


6日目
8時頃に起きてトンボさんとお父さん、お母さんと5人で朝ごはんをご馳走になって
みんなにお礼を言って家を出た
国道2号線をひたすら東に向かって走らせた
大阪でエキスポランドに寄ろうと思ったがライアンが疲れていたのでボツにした
途中でどうしようもなく眠いというので30分ほど車を停めて仮眠を取った
雨がポツポツと降り始めた
ところどころで渋滞があったがライアンの実家の一宮に6時ぐらいに帰ってきた
とにかく喫茶店でひと休みしようということになった

結局6日間の長旅になってしまった
それにしても車でよく九州まで行ったものだ
あまりいろんなところの観光巡りはできなくて
ひたすら車で走り続ける旅だったが不思議と楽しかった
タマやトンボのところに思いきって泊めてもらって良かった
ただ心残りが2つあった

1つは阿蘇山に行けなかったこと
もう1つはオコシに会えなかったことだ

この心残りはいつか改めて解消することができるだろうか


ライアンに駅まで送ってもらって電車に乗って実家に帰った
家に着いたのは9時頃だった
とにかく無事に帰ってこれて良かった
久しぶりの家はやっぱり落ち着く

家族に旅の話をして夕食を食べて風呂に入るといい気持ちになった

やっぱり家が一番リラックスできる
ベッドに横になると知らないうちに眠ってしまった。












3日目
朝食をご馳走になって
タマとご両親にお礼を行って9時頃に出発した
まず山口駅まで出て
そこでザビエル記念館を見たり駅前を散策したりした
山口駅の通りはかなり栄えていて近代的で文化的な印象だった
昼頃に中国自動車道に入ったのだが
それから下関まではアッという間だった

車が本州を越えて九州に入る時はそれこそ二人とも興奮して子供のように大感激だった

「いま、九州に入ったぞ!」
「ばんざ~い!」
「うはは。ばんざ~い!」

国道10号線に入ってからが結構混んでいて別府に着いたのはもう真っ暗になった7時頃だった
それからしばらく走ってやっとタマのお父さんから教えてもらった鉄輪(かんなわ)温泉を発見した

夜なのにいたるところから数えきれないほどの白い湯けむりが見えて
硫黄の匂いにこれぞまさしく温泉地だと感動した

だがお父さんお勧めの「サカエヤ旅館」はなかなか見つからなかった
仕方がないのでもう他のところにしようと話し合った頃にやっと見つけた

安い宿だけにそれほど大きな宿ではなかったが
一泊なんと1800円!
いくら昔だと言っても朝食付きで1800円は信じられない安さだった
安い割には部屋もまあまあで
ストーブもテレビもあってテレビは無料だった

有難い有難い
早速二人で風呂に入った
ちょうど誰も入ってなくてのびのびと温泉につかる事ができた

ここは湯治目的の温泉だ
ということだった
つまり病気した人が治療の為に長い間泊まって温泉に浸かって体調を整える為の宿だ
だから料金も安く設定してあるのだ
もちろん健康な人が泊まってもいい

さあ明日はいよいよ阿蘇山だ


4日目
起きるとあいにく空は雨模様だった
気に入ったので今夜も宿泊の予約をして阿蘇へと旅立った

車を南に走らせて
途中で分かれた道に入り
細い道に入ってだんだんと山の方に近づいて阿蘇山近くまで行った頃
またまた雪が降り出して
チェーンを巻くはめになった

やっと山道を登っていくと
なんと積雪の為に阿蘇山への道が閉鎖になっていた

オーマイガッ~!

あ~なんてことだ
阿蘇山に登りたくて九州までやってきたというのに…

落ち込んでいても仕方がないのでガイドブックを開いて今日の予定を練り直した
結局、臼杵(うすき)の石仏と穂積(ほずみ)の鍾乳洞に行くことにした

雨は憎らしいほど降り続いていた
臼杵の石仏は傘をさして見て回った
岩の崖に掘り出すように作られた何体もの石仏
長い風雪を越えた石仏は雨に濡れていた
でも濡れた石仏になんともいえない情緒を感じた

穂積の鍾乳洞は山の中のどえらい細い道を延々と走った果てにあった
到着したのが夕方の4時頃だということもあったのだがガランとしていてほとんど人がいなかった

ここは日本でも珍しい水中鍾乳洞なんだそうだ
鍾乳洞なんて見るのは初めてだったので
すごく感動してしまった
自然が長い時間をかけて作った造形美はとても繊細で
特にエメラルド色の水の中にある鍾乳洞はなんとも神秘的だった
鍾乳洞から出ると外はすでに暗くなっていた
細い山道をひたすら対向車がこないように二人で祈りながら走った

家から遠く離れた九州だったが今日の宿が決まっているというのはなんと心穏やかな安心感があるものだろう

8時頃に旅館に着いて風呂に向かった
ところが混浴らしくお婆さんが何人も風呂に入っていくではないか

ライアンも自分も
「お婆さんと一緒に風呂に入るのは嫌だなぁ」
ということで一旦部屋に戻って時間が過ぎてからまた行ってみた

すると今度は違うお婆さん達が入っているではないか
仕方ないと諦めて

「失礼しま~す」
と言って二人で前を隠して風呂に入った

お婆さん達の視線を熱く感じたのは気のせいだろうか…
恥ずかしかった~

明日は再びタマの家にお邪魔することに決まって就寝


5日目
8時過ぎに朝食を済ませて会計してもらった
請求書を見て驚いた
二人で6160円
えっ?二泊でだよ?
どういう計算したらこの額になるんだ?
安すぎるじゃないか!
一人一泊1540円?
しかも朝食が付いてだよ

ありえんよな~
間違ってないか~
と二人で首をひねりながら車に乗り込んだ

今日は久しぶりに晴れていい天気だ
国道10号線を上って宇佐神社に寄った
中はやたら広いところだったが特に見どころは無かった
再び国道を走ると中津を過ぎたあたりで
「ロードショー喫茶田園」という名の近代的な作りの喫茶店があったので入った
小ざっぱりとしたセンスのいい店内で片隅にビデオを映す大きなスクリーンがあった
そこで映画を見せているのだ
その時やっていたのはアメリカの古い戦争映画だった
面白い店があるものだ

九州を出て山口に入ると秋芳洞に寄った
これもタマのお父さんのお勧めだった
ちょうど修学旅行の高校生と重なってしまったので急いで見て回った

タマの家で夕食をご馳走になるのは遠慮しようと話し合ったので徳山駅で駅弁とバナナを買って車の中で食べた
タマの家に着いたのは8時頃だった

あれほど積もっていた雪はほとんど消えていた
ライアンとの話し合いで明日は四国に行ってオコシに会おうといっていたので電話を借りた
ところが何度かけても話し中で10時頃にライアンがかけた時にやっと繋がった
明日の夜にでも会えないかという話をしたが
どうも駄目みたいな雰囲気だ
途中から僕に代わって話を聞くと
どうやら学習会が保育園であって帰りが9時頃になってしまいそうだという
「遅くなってしまうからやっぱり駄目だね」
と言うと

「遅くなるのはいいんだけど、ちょっとだけでも会えないかな」
とオコシが言うので

「じゃあ、会おうか 」
ということになって駅前で待ち合わせしようということになった
それで明日の夜7時頃にオコシの家に電話して伝言を聞いてから落ち合うということに決まった

ライアンが話してもまとまらなかったことが
自分が話すとスンナリ決まったことにちょっと優越感を感じた

またオコシに会える
僕にとってはこの旅行で最高のイベントになりそうだ
布団に入ってからも僕はワクワクして
まるで遠足を翌日に控えた子供のような気持ちでなかなか寝つけなかった。














学生生活の締めくくりに計画していたのが
2月の終わりから一週間ぐらいの予定のライアンと車で二人で行く卒業旅行だった

目的地は山口県のタマの家で
途中で広島県のトンボや四国のオコシを訪ねながらあちこち観光して行こうという旅だった

まずは出発前に一宮市でライアンとヌルヌルで晩御飯を食べてライアンの家に泊めてもらうことにした
夕方まで3人でボーリング場でビリヤードをして外に出るといつの間にか雪が降っていたので驚いた
それもかなり激しい雪の量だった

もしかすると雪の対策をしないと旅の途中で困るかもしれない

慌ててカーショップに行ってタイヤチェーンを購入し
さっそく駐車場でチェーンを巻いた
二人で軍手をして何度も失敗しながらなんとか時間をかけてチェーンを取り付けた
うん何とかなりそうだ

そのままライアンの家に行ってヌルヌルと二人で泊めてもらった

明日は朝早く家を出てひたすら西に向かって旅立つのだ
ワクワクしながら眠りについた
サークルの合宿で一週間ぐらい家に帰らないことはよくあったが
純粋に遊びで一週間も家を空けるのは初めての経験だった
なんて真面目な学生だったことだろう


翌朝起きると外は大雪だった
積雪は10センチぐらいだろうか
しかもまだ雪は降り続いている
テレビを見ると何十年ぶりの大寒波だという
しかも九州まで雪が降っているというじゃないか
要するに僕らの向かう方面はほとんど雪が降った訳だ

出発すべきか
もう一日遅らせるか
テレビを見ながら昼過ぎにまで悩んだ
結局もう一日ライアンの家に泊めてもらい翌日に出発することにした
もし明日も雪が降ったらどうしよう
ずっと楽しみにしていた旅行なのだ
絶対に行きたかった


翌朝目を覚ますと僕はすぐに飛び起きて窓のカーテンを開けた
外は快晴だった
土の部分にはまだ雪が残っていたがアスファルトの路面の雪はほとんど溶けていた
よ~し
いよいよ旅立ちだ!

朝食を済ませてライアンの御両親にお世話になったお礼を言って9時頃に出発した
一宮インターから名阪高速に乗って高速道路をぶっ飛ばした
路面に雪はすっかり無くなっていたが見渡す限りの町並みや山や畑は美しい雪化粧で感動的だった
いい気分だ

昼過ぎに西宮インターを降りるともう街並みに雪は見当たらなかった
1時過ぎには神戸に着いた
あまり余裕のない旅だが神戸は素通りできない
是非見ておきたい

車を停めて異人館通りを散策し
風見鶏の舘、白い異人館、ラインの舘などを見て回った
洒落た店もたくさんあって
異国情緒溢れる町でこんなところに住んでみたいなぁと思ったが
ライアンはあまり楽しそうではなかった

神戸港にも寄ったがそれこそ何にも無いところで拍子抜けしてしまった
どうってことのない風景でも歌になれば気になる場所になってしまうものかもしれない

ライアンは
「誰や~神戸は最高のところなんて言った奴は!全然おもしろくないわ」

そう言ったが僕はオコシにプレゼントした紙ふうせんの歌を思い出して彼女の事を考えていた
紙ふうせんの歌詞にはよく神戸の町が出てくるのだ


その後はひたすら西へ西へと車を走らせた
ズーの住んでる明石を過ぎ姫路を過ぎていった
今日は姫路あたりで泊まる予定だったが岡山まで行けば明日が楽になるとライアンが言うので一気に岡山に行くことにした

ところが途中で思わぬ渋滞があって岡山に着いたのは陽も沈んだ7時頃だった
岡山はタケさんの住む町だ
それから宿を探した
夜が更けていくのにその日の泊まる場所も決まってないというのはなんと心細いものか
結局岡山駅近くの「岡山ビジネスホテル」というところに聞くと空きがあるというので泊めてもらうことにした
ツインの部屋で8000円だった
節約の旅だったので少し予算オーバーだったが仕方ない
ちょっと狭いながらもトイレも風呂も付いていたのでほっとした

2日目
起きると外はミゾレ混じりの雨が降っていた
すぐにホテルを出て車を走らせた
倉敷の「ビクトリア」という喫茶店でモーニングセットを食べた
倉敷も古いいい町だったのでゆっくり見たかったが先を急ぐのですぐに出発した
ひたすら国道2号線を走って広島に入り福山、尾道を過ぎて山口に入った
雨は雪に変わり近くの山も真っ白になっていった

岩国を過ぎて柳井に
柳井はペコの故郷だ
そして徳山に入った
徳山駅に着いたのは夕方の6時頃だった
タマのところに電話してみると向こうは雪だという
徳山駅では雨なのに

タマの住む町に向かって走るとだんだんと山の中に入って行った
途中で雨は雪に変わってきたのでチェーンを巻いた
しばらく走ると、まるで雪国のような風景に変わっていった
もうすっかり陽が沈みオレンジ色の外灯が雪をあかね色に染めてとてもきれいだった
ロマンチックなようでもあり、なんだか怖いようでもある不思議な光景だった
途中で5人ほどの町の人にタマの住む町を聞いてやっと指示されたバス停に着いた
公衆電話から電話するとタマが迎えに来てくれた

今と違って携帯電話の無い時代の事だ
夜の他人の町は本当に心細くて
タマの姿を見た時は
ほっとして思わず抱きつきたくなった

タマのお父さん、お母さんはとても気さくな人で
夕食に焼肉をご馳走になった
その焼肉や焼き野菜の美味しかったこと
お父さんが
「ここまで来たのなら九州まで行ったらいいですよ。阿蘇を見てかんともったいない。それに九州にはいい温泉がたくさんあります。途中に鉄輪(かんなわ)温泉ちゅうて安い温泉宿があります。すぐ分かります。走っとると温泉の煙がたくさん出とりますから」

そんな感じで話を聞かされるうちに二人はすっかり九州に行く気になってしまった

タマの部屋で酒を飲んで昔話に花が咲いて寝たのは1時過ぎだった。