学生生活の締めくくりに計画していたのが
2月の終わりから一週間ぐらいの予定のライアンと車で二人で行く卒業旅行だった

目的地は山口県のタマの家で
途中で広島県のトンボや四国のオコシを訪ねながらあちこち観光して行こうという旅だった

まずは出発前に一宮市でライアンとヌルヌルで晩御飯を食べてライアンの家に泊めてもらうことにした
夕方まで3人でボーリング場でビリヤードをして外に出るといつの間にか雪が降っていたので驚いた
それもかなり激しい雪の量だった

もしかすると雪の対策をしないと旅の途中で困るかもしれない

慌ててカーショップに行ってタイヤチェーンを購入し
さっそく駐車場でチェーンを巻いた
二人で軍手をして何度も失敗しながらなんとか時間をかけてチェーンを取り付けた
うん何とかなりそうだ

そのままライアンの家に行ってヌルヌルと二人で泊めてもらった

明日は朝早く家を出てひたすら西に向かって旅立つのだ
ワクワクしながら眠りについた
サークルの合宿で一週間ぐらい家に帰らないことはよくあったが
純粋に遊びで一週間も家を空けるのは初めての経験だった
なんて真面目な学生だったことだろう


翌朝起きると外は大雪だった
積雪は10センチぐらいだろうか
しかもまだ雪は降り続いている
テレビを見ると何十年ぶりの大寒波だという
しかも九州まで雪が降っているというじゃないか
要するに僕らの向かう方面はほとんど雪が降った訳だ

出発すべきか
もう一日遅らせるか
テレビを見ながら昼過ぎにまで悩んだ
結局もう一日ライアンの家に泊めてもらい翌日に出発することにした
もし明日も雪が降ったらどうしよう
ずっと楽しみにしていた旅行なのだ
絶対に行きたかった


翌朝目を覚ますと僕はすぐに飛び起きて窓のカーテンを開けた
外は快晴だった
土の部分にはまだ雪が残っていたがアスファルトの路面の雪はほとんど溶けていた
よ~し
いよいよ旅立ちだ!

朝食を済ませてライアンの御両親にお世話になったお礼を言って9時頃に出発した
一宮インターから名阪高速に乗って高速道路をぶっ飛ばした
路面に雪はすっかり無くなっていたが見渡す限りの町並みや山や畑は美しい雪化粧で感動的だった
いい気分だ

昼過ぎに西宮インターを降りるともう街並みに雪は見当たらなかった
1時過ぎには神戸に着いた
あまり余裕のない旅だが神戸は素通りできない
是非見ておきたい

車を停めて異人館通りを散策し
風見鶏の舘、白い異人館、ラインの舘などを見て回った
洒落た店もたくさんあって
異国情緒溢れる町でこんなところに住んでみたいなぁと思ったが
ライアンはあまり楽しそうではなかった

神戸港にも寄ったがそれこそ何にも無いところで拍子抜けしてしまった
どうってことのない風景でも歌になれば気になる場所になってしまうものかもしれない

ライアンは
「誰や~神戸は最高のところなんて言った奴は!全然おもしろくないわ」

そう言ったが僕はオコシにプレゼントした紙ふうせんの歌を思い出して彼女の事を考えていた
紙ふうせんの歌詞にはよく神戸の町が出てくるのだ


その後はひたすら西へ西へと車を走らせた
ズーの住んでる明石を過ぎ姫路を過ぎていった
今日は姫路あたりで泊まる予定だったが岡山まで行けば明日が楽になるとライアンが言うので一気に岡山に行くことにした

ところが途中で思わぬ渋滞があって岡山に着いたのは陽も沈んだ7時頃だった
岡山はタケさんの住む町だ
それから宿を探した
夜が更けていくのにその日の泊まる場所も決まってないというのはなんと心細いものか
結局岡山駅近くの「岡山ビジネスホテル」というところに聞くと空きがあるというので泊めてもらうことにした
ツインの部屋で8000円だった
節約の旅だったので少し予算オーバーだったが仕方ない
ちょっと狭いながらもトイレも風呂も付いていたのでほっとした

2日目
起きると外はミゾレ混じりの雨が降っていた
すぐにホテルを出て車を走らせた
倉敷の「ビクトリア」という喫茶店でモーニングセットを食べた
倉敷も古いいい町だったのでゆっくり見たかったが先を急ぐのですぐに出発した
ひたすら国道2号線を走って広島に入り福山、尾道を過ぎて山口に入った
雨は雪に変わり近くの山も真っ白になっていった

岩国を過ぎて柳井に
柳井はペコの故郷だ
そして徳山に入った
徳山駅に着いたのは夕方の6時頃だった
タマのところに電話してみると向こうは雪だという
徳山駅では雨なのに

タマの住む町に向かって走るとだんだんと山の中に入って行った
途中で雨は雪に変わってきたのでチェーンを巻いた
しばらく走ると、まるで雪国のような風景に変わっていった
もうすっかり陽が沈みオレンジ色の外灯が雪をあかね色に染めてとてもきれいだった
ロマンチックなようでもあり、なんだか怖いようでもある不思議な光景だった
途中で5人ほどの町の人にタマの住む町を聞いてやっと指示されたバス停に着いた
公衆電話から電話するとタマが迎えに来てくれた

今と違って携帯電話の無い時代の事だ
夜の他人の町は本当に心細くて
タマの姿を見た時は
ほっとして思わず抱きつきたくなった

タマのお父さん、お母さんはとても気さくな人で
夕食に焼肉をご馳走になった
その焼肉や焼き野菜の美味しかったこと
お父さんが
「ここまで来たのなら九州まで行ったらいいですよ。阿蘇を見てかんともったいない。それに九州にはいい温泉がたくさんあります。途中に鉄輪(かんなわ)温泉ちゅうて安い温泉宿があります。すぐ分かります。走っとると温泉の煙がたくさん出とりますから」

そんな感じで話を聞かされるうちに二人はすっかり九州に行く気になってしまった

タマの部屋で酒を飲んで昔話に花が咲いて寝たのは1時過ぎだった。