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あべせつの投稿記録

投稿小説・エッセイなどの作品記録用ブログです

詩とファンタジー「秋染号」応募作品

40行まで




チョビは待っている        あべせつ


チョビは待っている

ぼくが がっこうから かえってくるのを まっている

ただいまあって げんかんをあけると もうそこにいて

おかえりいって いうみたいに にゃあとなく


チョビは待っている

ぼくが おいしいごはんを だしてくれるのを まっている

カリカリだよおって おさらにもると ゴロゴロいって

かんづめはあって いうみたいに にゃあとなく


チョビは待っている

ぼくが あたまやからだを なでてくれるのを まっている

やさしく いっぱい なでてやると うれしそうに

ぼくのことが だあいすきって いうみたいに にゃあとなく


チョビは待っている

ぼくのひざのうえに のることを

チョビは待っている

ぼくのふとんで いっしょにねることを

チョビは待っている 

チョビは いつも まっている



そうして長い月日が経って

チョビは待っている

お空の上で やすらかに ぼくが来るのを待っている


そしていつか ぼくが天に召されたときは きっと

おかえりいって いうみたいに にゃあと鳴いてくれる










課題「大阪」にまつわる怪談・不思議・奇妙な話

800字まで



「長柄橋」  あべせつ


あれはそう、格別寒い冬の日のことでしたわ。


節季の支払にも行き詰まり、きっつい金貸しからは矢の催促、嫁にも子にも逃げられてワテはもうこの世には何の未練もあらしまへんでしたんや。

天六で最後の酒盛りでもしようと思うたけれど財布はすっからかん。ポケットのジャラ銭集めてなんとか立飲み屋で一杯ありついたあとは当てどなくほっつき歩いて、最後に長柄の橋の上にたどり着きましたんや。


蕩々と流れる黒い川面を見ているうちに、何やしら吸い込まれるような気になって欄干をまたぎ越して飛び込みましたんや。淀川は深うて冷とうて金鎚なワテはガボガボ水飲んでもがき苦しんで、そのまま気が遠うなりましたんや。


ほれからどれぐらい経ったのか、誰かが激しく体を揺すぶるので目を開けると、中年のおっさんがワテを覗き込んでますねん。今時、継ぎの当たった袴なんか履いてはる古風なお人で、ワテはてっきりこのお人が助けてくれはったんかと思うてましたんやけどな。ちがいましてん。


よう見たらワテはまだ水中におるやないですか。そやのにちゃんと息が出来ますねん。何が何やらわからん内に、おっさんは「デンッ」言うてワテの手にタッチするとふっと消えましたんや。


そのとたんワテの身体が橋脚の根元にチューッと吸い込まれて、なんと生き埋めにされてしまいましたんや。真っ暗で冷たくて身体は動かへんのに意識だけははっきりしてて、これはもうほんまの意味での生き地獄いうもんですわ。


ああもう自棄を起こして川になんか飛び込まんかったら良かったと何万編思いましたやろか。


ほしたら今日、急に目の前がパアッと明るうなって、出口が開きよりましたんや。


やれ嬉しやと出てくるとドッボーンと上からえらい水音がして、あんたさんが沈んできはりましてん。おおきに。おおきに。よう飛び込んでくれはりましたなあ。後はよろしゅう頼みますわ。ほな、さいなら。デンッ。       完












なんやしら関西弁で書きますと、落語かコメディーになってしまいます(笑)


これは大阪は淀川にかかる長良橋の人柱伝説から取ったお話です。

課題『時計』


ペア・ウォッチ           あべせつ





マンション前に着いたが、美雪はなかなか車から降りようとはしない。カーステレオの時計はもうじき日付が変わることを示していた。


「来週はどうしても会えないの?」

「うん、ごめん」

「バレンタインなのに会えないなんて。奥さんとお祝いするの?」

「ちがうよ。あいつとはもう、そんなことをする仲じゃないよ。どうしても断れない仕事があるんだ」

うつむいてスカートの裾をもじもじといじっているその姿が不憫でつい嘘をついた。


「そう、お仕事なら仕方ないわよね」

 美雪はあきらめたのか、バッグの中からきれいにラッピングされた小箱を取出し俺に渡した。

「本当は当日に渡そうと思ってたんだけど。バレンタインプレゼントなの。和也さんに似合うと思って。ねえ、早く開けてみて」

「えっ、俺に?」


俺はいそいそと小箱を開けてそれを見た。ルームランプに照らされて上品なシルバーの腕時計が鈍く輝いている。黒い文字盤がクールでスタイリッシュだ。

「どう? 気に入った?」

 美雪が心配そうに俺の顔をのぞきこんだ。

「うん、すごくいいね。俺の好きなテイストだよ。でも高かったんじゃないのかい?」


「いいの。だって会いたいときに会えないから。せめて私の代わりにいつも和也さんのそばにいるように身につける物を贈りたいと思ったの。本当はペア・リングが良かったんだけど奥様に知れたらよくないでしょ? 見て、これは私とのペアウォッチなのよ」

 美雪はうれしそうに左手にしたおそろいの時計を見せた。女性用として小ぶりにデザインされてはいたが、華奢な手首にそのクールな時計は重たげに見えた。

 美雪は俺のしていた時計を外し、新しい方を巻きつけると満足したのか機嫌よく帰って行った。



 自宅の駐車場に車を停めると、俺は急いで元の古い革バンドの時計にはめ替え、真新しい包みをダッシュボックスの中に隠した。美雪のいじらしい気持ちは飛び上がるほどうれしいし、俺だって美雪とのペアのものを身に着けていたい。


しかしこの古時計は女房とのペアウォッチで、おいそれとは交換できない。もし急に新しいものに変えたら不審がられるに決まっている。俺は一計を案じることにした。

 


「あれ?」

 翌朝、俺はわざとらしく声を上げた。

「どうかしたの?」

 先に出勤しようと玄関で靴を履いていた妻の幸子が聞き返してきた。

「おかしいなあ。時計が遅れてる。ほら」

 俺は数分遅らせておいた時計の文字盤とテレビの時報を見比べさせた。


「あら、ほんと。その時計もだいぶ年季が入ってるものね。なんなら今日修理に出しておきましょうか?」

「ええっ、修理? いやいいよ。時計がないと仕事のとき困るから」

「そう? じゃあ、わたし時間がないから先に出るわ。あと戸締りお願いね」

 そういうと幸子はあわただしく出て行った。

修理ときたか。どうしたもんかな。

 一人残された部屋で、俺は冷めた苦いコーヒーを流し込んだ。

          

「ただいまあ」

「お帰りなさい。あなた、時計どう?」

「完全にダメみたい。もう止まっちゃったよ」 

 俺は乾電池を抜いた時計を見せた。

「そう、やっぱり寿命だったのねえ」

「それでさ、この際だから新しいのを」

「でしょ? だからね。ジャーン」

そう言うなり幸子は後ろ手に隠していたプレゼント用の小箱を取り出した。


「はい、新しいペアウォッチよ」

「えっ? 買ってきちゃったの?」

「そうよー。開けてみて」

 喜ぶ様子を期待しているような幸子に、どう返事をかえして良いかわからないまま俺は包みをほどき始めた。


「今年のバレンタインで結婚十五年になるでしょう? 水晶婚って言うんですって。記念に何をしようかと考えてたんだけど、今朝時計がおかしいって言ってたから。クォーツの時計、これだって思ったの」


(あっ、これは)

 奇しくもそれは美雪が贈ってくれたものと同じ時計であった。開封された箱の中から幸子は婦人物の方を取り出して自分の手首に巻きつけた。

「よく似合うじゃないか」

 俺は心から満面の笑みで幸子に応えた。   完







 「夕餉の匂い」  


夕刊を取りに外に出ると、路地裏にふわりと美味しそうな匂いが漂っています。甘酸っぱさに醤油と油の香ばしさが加わったような、嗅げばたちまち口の中につばが湧き起こる食欲をそそる匂いでありました。

 時折ご近所さんの台所から香ってくるのでありますが、それは早世した母が作ってくれていた料理の匂いに似て、ひどく郷愁を誘うのです。


ところが不思議なことに匂いは覚えているのですが、何の料理であったかが思い出せません。

そのご近所さんとは親しくさせていただいているので、朝のご挨拶の折にでも何の匂いですかと尋ねればよいのでありますが、人様の献立を根掘り葉掘り聞くのもいかがなものかと躊躇してしまい聞けぬままに過ごしておりました。


そんなある日のこと。何の前触れもなく突如あの阪神大震災がやってきました。我が家はなんとか無事でありましたが近隣の被害は甚大で、住み屋を離れ避難所へ身を寄せる人が多くいらっしゃいました。

あの美味しい匂いの素を作られるお向いさんも一家そろって引っ越して行かれました。


生活の音も夜間の灯りも消えたまま、町はゴーストタウンのようになりました。もちろんあの夕餉の匂いも漂ってはきません。

いつかまた元のように暮らせるのだろうか。

不安な日々が何日何日も続きました。



あれから二十年が経ちました。

 わが町は見事に復興をして、ご近所さん方も全員元の場所に戻って来られました。

そしてまた今も時折、あの美味しそうな匂いがしてきます。みんなして当たり前の日々が送れる幸せの香り。またこの匂いをかげる平穏が愛おしくてなりません。



「わたしの思い出・あの日あの味」エッセイ


1800字以内



『父のうどん』



幼い頃のわたしには、父は遠い人でありました。自宅となりに建てられた小さな古い自動車修理工場。そこで日がな一日働き続けていた職人の父とは、同じ屋根の下で住んでいたにも関わらず、ほとんど会うことがなかったからです。


朝は、母に起こされ眠い目をこすりながら階下に降りると、父はもう既に仕事に出ており、夜はわたしがとうに眠りについた深夜に帰宅してくるという毎日でありました。休日はといえば、当時はなんとお盆とお正月の数日だけ。週休などのない時代でありました。


そんな二人が顔をあわすのは、夜のご飯時だけでしたが、それも同居の祖父母に叔父叔母、住み込みや通いの職人さんたちの総勢十数人が一同に食卓を囲むとあって、親子水入らずの会話などしたことがありませんでした。


「ご飯できたからお父さんを呼んでおいで」母に言われて工場に父を呼びに行きます。

すると決まって父は「危ないから工場に来ちゃいかんと行ったやろ」と大声で叱ります。  

わたしはおっかなくて母の元へと飛んで帰ったものでした。


父はいかにも職人らしく、武骨で見るからに怖そうでありましたので、私から話しかけるということはありませんでした。

「お父さんがこう言っていたよ」

「お父さんにそう言っておくからね」

父娘の間を取り持つのは、いつも母親でした。その母が体をこわし半月ほど入院することになりました。


あれは土曜日のことでした。小学校が昼に終わり、自宅に帰りますと珍しく誰もいないのか家の中はしんと静まり返っています。

北向きの台所は薄暗く、ひんやりとしています。いつもなら明るい笑顔で迎えてくれる母の姿がありません。無性に寂しさがつのります。

「おかあさあん」


心細くなって誰もいない台所に呼びかけたとき、ガラリと工場につながる引き戸が開き、父がのそりと入ってきました。

「帰っとったんか」

「うん」

「なんか食べるか」


そう言うと父は大鍋に湯を沸かすとうどんを茹で始めました。台所に立つ父を見るのは初めてで、不器用に菜箸を扱うその背中は大きくもあり、小さくも見えました。

「出来たぞ」


前に置かれたのは、市販の粉を溶いただけのだしの中に、うどんが一玉透けているだけ。ネギもカマボコも浮いていない素うどんでしたが、もうもうと白い湯気をたてていました。

「どや、うまいか」

「うん、お父ちゃん、おいしい」


他に何の話をしたかも覚えていません。

ただ、もくもくと食べるわたしの横で父は黙って座っていました。それが生まれて初めて父と二人きりで過ごした時間でありました。


それから間もなく母も無事に退院し、いつもの暮らしが戻ってくると、父が台所に立つことはなくなりました。

あれから数十年。あの時のうどんほどおいしいうどんはまだ食べたことがありません。

                                      完