公募「大阪てのひら怪談」 | あべせつの投稿記録

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課題「大阪」にまつわる怪談・不思議・奇妙な話

800字まで



「長柄橋」  あべせつ


あれはそう、格別寒い冬の日のことでしたわ。


節季の支払にも行き詰まり、きっつい金貸しからは矢の催促、嫁にも子にも逃げられてワテはもうこの世には何の未練もあらしまへんでしたんや。

天六で最後の酒盛りでもしようと思うたけれど財布はすっからかん。ポケットのジャラ銭集めてなんとか立飲み屋で一杯ありついたあとは当てどなくほっつき歩いて、最後に長柄の橋の上にたどり着きましたんや。


蕩々と流れる黒い川面を見ているうちに、何やしら吸い込まれるような気になって欄干をまたぎ越して飛び込みましたんや。淀川は深うて冷とうて金鎚なワテはガボガボ水飲んでもがき苦しんで、そのまま気が遠うなりましたんや。


ほれからどれぐらい経ったのか、誰かが激しく体を揺すぶるので目を開けると、中年のおっさんがワテを覗き込んでますねん。今時、継ぎの当たった袴なんか履いてはる古風なお人で、ワテはてっきりこのお人が助けてくれはったんかと思うてましたんやけどな。ちがいましてん。


よう見たらワテはまだ水中におるやないですか。そやのにちゃんと息が出来ますねん。何が何やらわからん内に、おっさんは「デンッ」言うてワテの手にタッチするとふっと消えましたんや。


そのとたんワテの身体が橋脚の根元にチューッと吸い込まれて、なんと生き埋めにされてしまいましたんや。真っ暗で冷たくて身体は動かへんのに意識だけははっきりしてて、これはもうほんまの意味での生き地獄いうもんですわ。


ああもう自棄を起こして川になんか飛び込まんかったら良かったと何万編思いましたやろか。


ほしたら今日、急に目の前がパアッと明るうなって、出口が開きよりましたんや。


やれ嬉しやと出てくるとドッボーンと上からえらい水音がして、あんたさんが沈んできはりましてん。おおきに。おおきに。よう飛び込んでくれはりましたなあ。後はよろしゅう頼みますわ。ほな、さいなら。デンッ。       完












なんやしら関西弁で書きますと、落語かコメディーになってしまいます(笑)


これは大阪は淀川にかかる長良橋の人柱伝説から取ったお話です。